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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十四話 再生の条件

 目を閉じていたリヴァトーンは違和感を感じていた。それは決して悪い物では無い違和感を。思わず目を閉じて既に三十秒ほど経っていた。それなのに自信の体に何か当ったという感覚が全く襲ってこないのだ。感じるのは少しばかり波の流れるのが早くなったな程度。体が動かなくなっていくという現象や、石化していくという感覚が全くいつまで経っても襲ってこない。それはもう不思議な事に。彼は一切奇跡という物を信じていない。軟体獣が自身に向けて放った怪光線が外れたと言うわけではないのだろう。じゃあ、何が起っているのだろうと頭を悩ませているその時。何者かが、自身の体を掴んでその場から高速で連れ話した。

『いつまで目を閉じているんだ? いい加減開け』

 聞える声はアダルの物。つまりは無理やり引き離しているのは彼と言うことだった。彼に促されるまま目を開き、自身の体を見渡す。

『やっぱり石にはなってないか・・・』

 抱いていた感想通り、体のどこを見ても石となった形跡は見られない。それを見ていたアダルは溜息交じりに言葉を発する。

『いつまでも目を開けないから目をやられたのかと思ったぞ?』

 どこか冗談の交じった様な言い方にリヴァトーンも軽口を叩いていると思い、彼に抗議の軽口を叩こうとし、漸く彼の方を向いた。

『そんなわけないだ・・・・・・ろ・』

 アダルの姿に違和感を覚えた。どこがと言うと詳しくは言えないが、彼のどこかが変化している事に直感で気付いた。それはどこだろうと舐めるように違和感を探す彼の目の動きに絶えずアダルは軽口を叩く。

『その目を絶対に女に見せるなよ。確実に変態の称号を与えられるぞ』

 忠告されるが、リヴァトーンは聞く耳を持っていなかった。ただ、その違和感を探ることだけに意識を集中していた。それにはさすがにアダルも困った様な目つきをする。これは確実に違和感の正体に気付くのは時間の問題だろうと思った。彼が違和感を覚えた時の顔を見たとき。どうにか話しを逸らそうと軽口を叩いたが、彼の意識を反らせることには失敗してしまったらしい。その段階で最早行動が遅かった。全く、気付かなくて良いところに気付く奴だとアダルは呆れた。

『っ!?』

 違和感の正体に気付くのに数秒もいらなかった。ふと目が行った所を見てそれに気付いたからだ。

『お前の羽。なんでそんなに小さいんだ』

 その問いかけにアダルは気付いてしまったかと心情だった。気付いて欲しくはなかった。その先に待っている結末は一つしか無いと分かっていたから。だからこそ態と軽口を叩いて、誤魔化そうとしていたのだ。今現在、アダルの翼は少し前の物よりも小さくなっている。それは何故か。理由は簡単。

『お前、俺を庇ったな?』

『・・・・・・。正解!』

 明るく言うアダルの顔は一切のこわばりもなく、本心で浮べているスマイルだった。それを見たリヴァトーンの表情は彼とは間反対に悲痛な物に染まる。出来るだけ茶化して言ったが、現実は変らない。アダルが重いとおりになってしまった。ここまで来て、

明るく振る舞うのは余計に追い詰める結果になる。そう考えて、アダルはそこで明るく振る舞うのを止めて、険しい顔つきをする。

『お前を庇うために翼を盾にした。俺の体が石化する前に怪光線は終り、そこで翼を切り離したから問題無いさ』

『問題無いんだったら何だよそれは』

 言わずもながら小さくなった翼を指摘している。彼の再生能力を知っているリヴァトーンからしたら何故翼がその程度しか再生しなかったのか疑問で仕方ないのだ。もしかしたら怪光線の影響でそうなったのではないかという考えすら頭を過ぎった。そのため問題なさそうにしている彼のその姿に疑問を抱き、本当に大丈夫なのかという意味を込めて指摘した。当のアダルは何が問題なのか疑問に思いながらも、ある事を思い出してそれをこの場で伝えた。

『これは夜の海中にいることから起きている現象に過ぎない』

『夜の海中だから?』

 オウム返ししてきた彼に『ああっ』と肯定の言葉を挟んだ。そのタイミングで彼は急停止し、リヴァトーンを離した後に続きを話し始める。

『俺の再生能力はな、軟体獣の触手みたいに無限に出来る訳じゃない。再生するのには条件がいるんだよ』

『!? ・・・・・・・』

 言われた言葉に彼は困惑しか覚えなかった。しかし考えてみればそれは普通の事だった。自己再生能力を持つ生物は必ずと言っていいほどそれに条件を持っている。持っていない方がおかしいと言えるだろう。しかしこの世界ではそれがあり得る。世界を満たし、全ての生命の体を巡る生命エネルギー。それを使うことによって不死に近い回復力をもたらす生物。いや、種族が一つだけ存在する。それは天使種。地上を見守る役目を持った彼らはいわば一切干渉をしない観察者。その存在を星によって生み出された選ばれし者達。それ故星から唯一不死を許された種族だ。無論その他の種族も稀に無条件に再生出来る個体が生れたりする。だからこそリヴァトーンはアダルもその個体の一つだと思って居た。だからこそ否定した。アダルは彼が自分に対してそのように思って居ると言う事を悟っていたのだ。

『俺はな、光がないと再生出来ないんだ』

 あっさりと言われる彼の弱点というべき事の告白。あまりにもあっけなさ過ぎて、その事実の重大さがいまいち伝わっていない。リヴァトーンの思考が付いて行っていないことに気付いていても、気遣い無く言葉をつづける。

『だからこそ再生できたとしたって翼が再生出来るのは今の状況でここまでが限界だ。今は夜。しかも場所は海中だ。光が足りないからな。だからこの程度しか再生しなかったのはあの怪光線を浴びた副作用なんかじゃないぞ』

『そうだったか・・・・』

 未だに頭が追いついていない中、半ば強引に納得させる。そういえばと思い返してみてもそのような場面があったようなと一応辻褄が合うのか記憶で探ってみる。確かに少し回復が遅いと感じたことはリヴァトーンにもあった。しかし思い返してみて疑問が出て来た。

『お前、別に光がなくても再生出来たんじゃないのか?』

 実際リヴァトーンが見た中でそのような場面が多々見られた。彼らが特訓を行なっていた薄暗い地下訓練場。そこには僅かな光しかないところであった。明るさで言ったら夜の海中となどとは比べものにはならないが、それでも一切照明のないそこで訓練は行なわれていた。その時、アダルは尽くリヴァトーンへ大技といえる体の一部を犠牲にするような攻撃を何度も仕掛けていた。しかしそれでも彼は掛けた部分を再生させていたのだ。何故そのような場所でしていたのかは謎だが、それを見たから彼は天使種と同じように条件無しで再生出来るのだと思ったのだ。

 リヴァトーンからの言葉で何故彼がそのような事を言ったのか考えると答えは直ぐに見つかり、薄く笑いながら何回か頷いた。

『その時、俺の翼はどうだった?』

 促されるまま訓練時のことを思い出してみる。アダルの翼は全開されており、それが証明代わりに室内を照らしていた。

『俺は光があれば再生出来る。それはどのような物でもな。それは俺自身から放たれている光でも同じ事が言えるんだよ』

 彼自身から放たれる光。それはつまり翼から放たれているあふれ出る光のことを指すのだおるとリヴァトーンは勝手に翻訳した。。つまりは翼がある限り彼は再生し続けることができるということなのだろうということも理解出来た。そこで漸く心から納得したような声を出した。

『つまりはこの暗闇の中で再生出来たのは翼のお陰って事だよな』

『正解だ。そして翼を切り離して、再生させはしてみたがこの程度にしか成らなかったんだよ』

 最後の方は溜息にまみれた物だった。

『俺のせいでそうなったのは変わりないって事だな』

 結局は自分のせいだという事実が彼にのし掛る。この程度で折れるような性格ではない彼だが、自身の危うさを少し呪った。



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