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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十二話 リヴァトーンのターン

 軟体獣の動きは明らかに鈍い。アダルの目くらましによって今目をやられている軟体獣は混乱のあまり暴れ回っていた。それでもその早さ前よりも遅いと感じられるため容易に避ける事が出来る。しかし重さは一緒である事は海底に当った時の音と衝撃で分かるため当ることは出来ない。大精霊化した今のリヴァトーンは攻撃が当っても大したダメージを負うことはない。しかし今までの体と同じように当ったら致命傷を負うだろうと勝手に思い込んでいるため今まで通り避けていた。

 大精霊化したリヴァトーンは勿論巨大化している。それに加えて体の構造も所々変化している。まず肌の色が全身碧色の鱗に覆われている。両腕の鋭利な鰭は二つになった。それに加え、肩甲骨と両足首からも同じような鰭が生えた。髪も長くなり、その一本一本の先端は針のように鋭く硬化している。顔の造形は変らないが、碧色の顔の額に目が一つ増えた。極めつけは全身に真紅の鎧を纏っていることだ。その派手さは深夜の海の中であったもの目立つ物だったが不思議と彼によく似合っており、ださいと感じることはなかった。

 リヴァトーンがこの姿に驚いたのは最初だけであり、今は自分の姿の一部だと慣れてしまった。最初に到った時も嬉しさは少しあっただろうが、驚くだけで、その姿を見せることはなかった。

切り裂いてきたため、軟体獣にはリヴァトーンが近付いてきたのはバレている。だが、目が利かく、混乱に陥っているため攻撃を仕掛けたのがアダルなのかリヴァトーンなのか判断が付かない。だからこそ触手が当るようにがむしゃらに振るっていた。しかしその攻撃はひとつもリヴァトーンに掠りもしていない。彼は動きを最小にそれらを避けきっていた。リヴァトーンのその行動が軟体獣の焦燥感をあおり、攻めは苛烈になっていく。しかし目が利かないためやっている事は四方八方へがむしゃらに振っているだけ。今のリヴァトーンにはよける事が容易な事だった。リヴァトーンが最初に抱いていた考え。軟体獣の動きが鈍いと言うのは明らかに語弊があった。軟体獣の動きは視力が利いていた時とあまり変化はしていない。ほんの少し初動が遅れるだけで振われる速度自体は変っていないのだ。それなら何故、リヴァトーンは動きが鈍くなったと勘違いしたのか。それは彼自身が大精霊化して海中での戦闘がこれが初だからだった。彼は気付いていないのだ。海中での大精霊化しての戦闘を行なった場合、彼の体はいつも以上に感覚が鋭くなると言う事を。この事実はアダルでさえ知らない事だったりする。昔アダルとリヴァトーンの父。スサイドンが共に旅をしていた頃。アダルは何回か大精霊化を見たことがある。しかしそれらは全て陸上での話しだ。本来海底を居住とする彼らが本来生活するべき場所で、大精霊化した所をアダルは見たことがないのだ。だからこそそのことを知り得なかった。知り得なかったからこそリヴァトーンにはそのことを伝えられず、それが彼の勘違いを生み出している。自身が勘違いしているなど思いもしないリヴァトーンは何回か触手に槍を使わない攻撃を仕掛けている。増えた鰭による切り裂き攻撃。前にアダルと闘った際に見せた両手を高速に回転させるダブルスピアー。足に着いた鰭をつかった蹴り。それらは全て触手にダメージを負わすことが可能である事が判明する。しかしあまり意味を成さない事に直ぐ気付く。確実に傷は作れている。しかし直ぐにそれは塞がってしまうのだ。そこでリヴァトーンはアダルの行動を思い出していた。確かに彼は触手に対して自らは一切攻撃を仕掛けることはしていなかった。避けられないと判断して軌道を逸らすために攻撃を仕掛けていたが、その程度だった。脚部にあたる部分の触手群への攻撃も根元から焼くように切っていた。そこまでしないと軟体獣へのダメージを与えられないことに改めて気付いた。

『普通の攻撃じゃ意味を成さないって事か』

 今までしたことの無駄だったことに苛立ちを覚え、舌打ちを鳴らす。おそらく他の拳による打撃や鰭による斬撃も胴体に当てなければ軟体獣にはダメージにはならない。そうなってくると彼が使える手は自ずと限られてくる。自身がどのくらい強くなったのか試したかったため、使うのは躊躇っていた。しかしそんな事言っている所ではなくなった。ダメージを与えられない攻撃を続けるより、さっさと分かりやすい手段をとってしまった方が自身の精神上良いときだってある。

『この体の性能検査は次の機会にって事だな!』

 おもむろに右腕を上に掲げる。すると今までどこかに行っていたトリアイナが彼の手に収まるように飛翔してきた。飛翔している最中にトリアイナ自身も巨大化し、取られる時点ではリヴァトーンの身長をかるく超える程度まで伸びていた。彼をそれを取ると、その場で数回体の周りで回し、感触を確認していた。

『こんな厳つい装備を纏っていても、邪魔にはならないか』

 そんな事を呟きながら回転を止めて穂先を軟体獣に向け、どこを狙うか見定めを行なう。

『狙うなら胴体だが・・・・・。あの触手は邪魔だな』

 先程見ていたときのことを思い出している。アダルが胴体へ直接拳をたたき込めていたことをリヴァトーンは今更ながらに関心していた。あれはよほどの覚悟が無ければ出来ない事だからだ。まず触手の猛威に晒される。六本の鞭が絶えなく襲いかかってくる。それに加えて先端の鉤爪によってよほど深い裂傷が出来る事だって予想される。鬼面はそれだけではない。目から発射される浴びた物を石化させる怪光線。あれを避けられぬ距離から受ける可能性だって存在した。結果的に触手に対しては奇策で怯んだところをせめて乗り切り、怪光線は目くらましの閃光で浴びずにすんだ。閃光を間近で浴びた軟体獣は一時的に視力を失っているため、怪光線を受けるリスクはない。それでも触手の猛威は未だに残っている。いくら重装甲になったとは言え、あの触手と鉤爪を受けたら致命傷には到ると思い込んでいるリヴァトーンはどうした物かと少し悩む。

『・・・・・・。ああっ! 考えても埒が明かねぇ! こうなったら試しに突っ込むか?』

 悩み出した末に考えついてしまった作戦は恐ろしいほど短絡的な物だった。思い立ったら即実行を心がけているリヴァトーンはそれ以上考える事無く、突撃を仕掛ける。途中当然触手の妨害に遭ったが、それもなんとか避けきる事に成功し急接近する。

『これは効いてくれよ!』

 祈りを込めながら両手で掲げた槍を盾に振り切る。狙った場所への接触の手応えと肉が切られていく感触が手に伝わってくる。

『ギュガアアアァァァァァァァ!!!!!!』

 目の前で軟体獣の悲鳴が上がる。耳が良いリヴァトーンにとってそれはどんな攻撃よりも効く物だったはずなのだ。しかし当の本人はそれを効いても顔を苦痛で歪める事無く平然としている。そのことを怪訝に思うような素振りすら見ている。

『何が起っているだ?』

 今起っている現象の情報が多すぎて頭が付いていかなくなってきている。もう少しで思考がショートしそうにだった。しかし今それをやってしまうと好きを生じてしまうため、自身に起きた異常を頭から除外して、軟体獣に集中する。今トリアイナに着られた傷が徐々に海水へ溶けて行っていることを確認する。

『これは効くのか!』

 トリアイナの穂先に触れたら最後。その箇所から塩と化す。海水の中だったらそれは溶けていくように見えるだろう。その光景と悲鳴を上げているであろう軟体獣を間近で見て、リヴァトーンは笑みを浮べた。獰猛なそれをやった瞬間彼は腹部に衝撃が走るのを感じた。見ると触手の一本が彼の腹部へ振われていた。

『ふぐっ!』

 油断した隙に振われたそれによってリヴァトーンは飛ばされ、海底にその身を叩き付けた。


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