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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十一話 アダルのターン

 先ず最初に到ったのは当然の如くアダルだった。成り慣れていると言うよりも、彼に取ってはこっちの方が本来の姿。巨鳥に戻るだけなのだからそれ程時間は掛からない。ただ、自身の器を大きい物に変化させるだけで良いのだから。

 それに加えてリヴァトーンは到るのには時間が必要だった。成り慣れていないのもあるだろうが、大精霊化するにはそれなりに時間が必要だった。それなりと言っても何も十分や二十分を要するわけではない。彼自身の素質は優秀なため、一分以内には成れる。しかし到るまでにそれ程の時間が掛かると言うことはその時間、彼は無防備に曝されると言う事を意味している。

『はあ・・・・・。仕方ない』

 既に戻っているアダルはリヴァトーンを見下ろして溜息を吐きながら先に向っていった。その声はリヴァトーンには聞えなかった。彼が小さい声で言ったわけではない。到るための集中で周りの声が聞えなくなっているからだった。だからアダルが先に軟体獣へ先に向っていった事すら気付いていない。

『キュウガアンムっ!」

 アダル本来の姿を見て、軟体獣は鼻息を荒くした。先程より周りを彷徨いていた小生物の正体が今目の前にいる外敵出ある事は翼が同じであった為分かっていたが、いざ憎きその姿を見るとあの時。撤退させらた時の事思い出し、憎しみが込み上がってきていた。その表情からして軟体獣が憎悪を向けてきていることが分かっているアダルはあえて煽るような事を口にする。

『そんなに俺のことを好いてくれていたのか?』

 アダルの言っていることを理解出来る知能はあるようで軟体獣は彼の発言に。正確には先程の触手切断などの事も相まってと言うべきなのか、ついに声を発することすら忘れるほど憎悪に飲まれ、アダルに向け怪光線を発射する。

『対策済みだよ』

 そう言うとアダルはその場から姿を消す。

『ギュウガム!』

 怪光線はアダルが姿を消した場所を通り過ぎる。どこに行ったと目を右往左往させていると、先程消えた方向にアダルが姿を見せた。何故同じ方向から現れる事が出来たのか軟体獣には理解出来なかった。何故なら発射した方向の海水は石と化していたからだ。それなのにその方向から彼は現れた。石になった形跡もなくだ。軟体獣からしたら不可解でしか無い。

『言ったろ。対策済みだって!』

 アダルはそのスピードのまま、軟体獣の胴体に蹴りを入れる。

『ギュウルウウン!』

 直撃したそれにうなり声が上がる。当然それだけでは満足できないアダルは海底に足を着いて、両拳を先程蹴りが直撃した箇所を中心に怒濤の勢いで殴り始める。

『ギュゴゴゴゴゴゴウンッ!』

 容赦ない拳の豪雨によって軟体獣は遂に口から血が噴き出す。それを見てもアダルはそれを止めなかった。しかしそう簡単に物事はアダルが思うようにはいかない。ここまで近距離で攻撃を続けると言うことは軟体獣にとっても攻撃を当てやすい距離だと言うことを意味している。軟体獣は目の焦点をアダルに定める。一瞬目が輝くのを感じ取ったアダルはそこで攻撃を止めて、どうにか軟体獣の視線の中から逃れようと行動する。しかし時既に遅し。逃れられないように、触手が足に巻き付いた。

『ちぃ!』

 舌打ちをしつつも、軟体獣に目を向ける。今にも怪光線の照射が始まろうとしているのか、気味の悪い色に発光を始めていた。こんな近距離では回避は不可能。考えている暇すら与えられない。どうしようもない状況だった。諦めたわけではないが、この状況でどこも傷を負わない事は出来ない。そんな事を頭では考えていた。しかし体は違った。体はこの子状況をどうにかせねばならないと咄嗟に翼を広げ、そこから太陽の光と間違えるような照明を行なった。

『キュウガガガガガンムヌッ!!!!!』

 目の前で突然焚かれた照明に軟体獣は怪光線を発射することはしなくなった。それどころか、アダルの拘束を解き、彼から少し離れて目を押えて藻掻き出す。近距離で証明を焚かれたらどのような生物だって軟体獣と同じ反応を見せるだろう。

『・・・・。助かったな』

 自分の咄嗟の行動に感謝しつつ、彼は軽く息を吐く。視線は当然の如く、軟体獣に向いている。今この状況は誰がどう見ても攻撃のチャンスであろう。何たって軟体獣は隙だらけなのだ。しかしアダルはあえて離れた。軟体獣の触手が届かなくなる所まで。先程の照明照射で軟体獣の視力は今一時的にではあるが、無い。もしくはかなり低下している事だろう。そしてそんな事になったら冷静ではいられない。獣なのだから。混乱している相手に無闇に近付いたら大けがをする。だからこそ離れたのだ。攻撃を仕掛けないのも今の状況で下手に軟体獣に居場所を晒したく無いため。触手が届かない場所まで来ればいくらそれを振り回したって居場所は分からない。アダルはここでしばらく軟体獣の様子見を始めた。彼の思惑通り、軟体獣はアダルが近場から離れた後。予想通り暴れ始める。その時既にアダルは今の一にいたため攻撃を受けることはなかったが、その暴れた副産物によって出来た海底の砂巻き上がり、砕けた小石がアダルを襲う。ある程度当るだろうとはアダルも考えていたが、この程度で傷つけられることもダメージを負うこともないからアダルはそれを無視した。砂埃が舞い上がっても、アダルは目に入る光を調節することで輪郭を捕らえているから問題無かった。

『出来れば視力が戻る前に攻めたいが・・・』

 下手に近付くのは危険。遠距離からでも攻撃できるがしない。しかし時間を与えてしまうと視力が戻ってしまう。どう対処しようか頭を冴えさせる。一つ二つは思いつきはしたがどちらも決定打に掛ける物でしか無い。どうしようかとさらに考え込んでいると、自身の横を自身と同程度の大きさをした何者かが海水を切り裂くような勢いで通り過ぎる。それは迷わず軟体獣に向け突進し、砂煙の中に消えていった。通り過ぎた者は言わずもながらリヴァトーンだと言うことはアダルは理解する。彼のそのスピードに感心すると同時に、少しばかり時間が掛かりすぎだとアダルは考えていた。明らかに一分以上は経過している。大精霊に到ることに不慣れであり、まだ、力の制御が難しいとは言え、今までは一分を超えるようなことはなかった。考えられる可能性は複数ある。しかし彼の性格上からするとそれは二つに絞られる。一つは単純に到るのが単純に遅れた場合。そしてもう一つの可能性は・・・。

『あいつ。わざと遅れてきたな』

 呆れながらに言うが、顔はまったく不満な様子を見せることは無くむしろ笑っていた。何故この様な行動を起こしたのか。なんとなく思い浮かぶ。リヴァトーンはアダルの本気の戦闘スタイル。巨鳥に到ったときの戦闘をじっくり見る機会が無かった。前回の襲撃の際も少しは観察する時間は存在しただろうがその時、アダルは時間稼ぎを主とした戦闘だったため本気では無かった。そしてアダルに無理やり避難場所に飛ばされたため詳しいところまで見ることは出来なかった。大精霊に到る特訓にアダルが付き合っていた際も、アダルはアドバイスをする事はあるが巨鳥に戻ることは無かった。リヴァトーンは尽くアダルの本気を目にする機会に恵まれなかった。だがそれが突然訪れた。これは時間を押してでも見る価値があると踏んだ。だからこそ戦闘の参加にわざと遅刻した結果になったのだろう。この件でアダルは怒りを抱くことは無い。強くなりたいと願うのなら強い者の戦闘を観察するのは当たり前の事であるから。

『まあ、それは良いが・・・・・。突撃は無鉄砲すぎたな』

 軟体獣とリヴァトーンの輪郭を見る限り、確実に怒りをかっていることは明らかだった。状況としては明らかに劣勢。しかし動くことはしない。先程はアダルのターンだとしたら、今はリヴァトーンのターン。ここを乗り越えなければこの先強くは成れない。その見せ場をあえて作るためここは手を出さずに見守ることにした。決して先程の意趣返しでわざと動かないわけでは無いと、アダルは誰に言っているのか分からない言い訳を心の中で言い訳をした。


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