表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
104/314

五十八話 ユリーノの合流

 リヴァトーンの体力は未だに戻らない。傷も塞がってはいるが、ダメージが残っている。この状態で戦線に復帰など出来ない。戦線に復帰したら即座に大精霊化を行なう事だろう。しかしそれだと数分で元のサイズに戻ってしまう。大精霊化はとても体力を使う。キッズのダメージが残ったままだとその分成れる時間が短くなってしまう。それだと結局今と変らずに、アダルだけを闘わせる結果になってしまう。そう言い聞かせて溜息を吐く。しかし彼の本心は今の状態と真逆と所にある。本当は今すぐに飛び出したい衝動に駆られている。そして軟体獣を槍で瞬殺したい。トリアイナならそれが可能だ。先程の戦闘でそれが出来る事は確認出来た。しかしそれは出来ないことを理解させられてしまった。少なくとも今の形態では出来ない。それだったら大精霊の状態だったらそれは可能なのか。それも定かではない。何せリヴァトーン自身、大精霊の状態で本気の力を振るったこと無いのだ。どの程度の力を持っているのか。周りに及ぼす影響はどの程度なのか。まったくもって把握出来ない。アダルから父親が大精霊に成ったとき事を聞きもした。それでも自分に本当にそれ程の力があるのか疑問を抱いてしまう。少し前の自分だったら、どこまでも自分の力に自身を持てた。しかし記憶を取り戻し、過去に自分の起こしてしまったことを思い出したときから、自分の中で心境の変化を感じ取った。率直に言ってしまえば怖くなってしまったのだ。自分の振るえる力に。この力を自分はコントロールできるのかと言う不安がいつも脳を過ぎる。今までアダルと共に行なっていた訓練では上手いとはいかないが、自分の意思を保てている。暴走もしなかった。日に日に自分が強くなっているのが実感できた。何も問題はない。はずなのだ。しかしふとした瞬間。意図せずにその時の光景がフラッシュバックする。別にそれで自身の力の調節を間違えると言うことは起こさないが、それを見るたびに思ってしまう。調節を失敗すればこの光景が再び及ぼすことに成ってしまうと。

 この事をアダルに相談したりもした。彼はリヴァトーンの相談に乗り、親身的献身に努めた。その上で戦闘に支障が無い事を確認すると、彼はその光景に恐怖し続けろと述べた。何を言っているのか分からなかったリヴァトーンだったが、アダルはその上でこう続けた。そしてそれをやったのが自分だとポジティブに肯定しろと。自分はそれ程強力な力を有していると恐怖し、誰にも負けない力を持っているのは自分だという自身を両方持てと言ったのだ。何故そんな事をしなくてはならないのか。恐怖を捨てなくて良いのかと聞き直すと彼はそれ以上は応答してくれなかった。ただ、それ以上は自分で考えろと言うだけだった。

「自分で考えろか・・・」

「何を考えるの?」

 不意に。ではないが、後ろから知っている者の声を掛けられた。声の主の気配をずっと感じ取っていたリヴァトーンは呆れながらにその者の言葉を返す。

「何でも無い。それより、遅すぎるぞ。ユリーノ」

 その言葉に彼女はリヴァトーンの横まで来て舌を出した顔を見せ付ける。

「リヴァトーン達が早すぎるんだよ。それに私、探索苦手だし」

 そうだったなと空返事を返すだけして、それ以上の言葉を彼は言わなかった。

「それよりこんなところで何してんの?」

「休憩だ。ちょっと無理したから体力がスッカラカンになってしまった。休憩して、頑張って戻している」

 返答にユリーノは興味なさそうな声を出す。

「ところで、お前。今からあれと闘うつもりか?」

「嫌な質問しないでよ。私だって死にたくないから今回はパスするよ。あれは私の力なんて及ばない化け物だから」

 意外だと思ってしまう。彼女なら見境無く強敵に戦いを挑むはずだ。なのに彼女はパスすると言った。それは何故か。

「だったらなんで来た?」

「決まってんじゃん。リヴァトーンとあいつの戦いに興味があったから。どうやってあんな化け物を倒すのかなって」

 彼女は胸を張ってえばるようにそう宣言した。

「そして戦いを見て、あいつの弱点を探す! あいつ、いつも私相手に手加減しているから。そこを付いて本気を出させてやる」

 殺気とは打って変わって恨み。と言ってもアダルの配慮に対する逆恨みなのだが。その態度に意地になっているようだ。

「怖い物なしかよ」

 リヴァトーンは呆れて笑うしかない。

「リヴァトーンは怖がっているの」

 その言葉に彼は息を詰まらせる。それに追い打ちを掛けるようにユリーノは言葉をつづける。

「最近様子がおかしいのは知っている。それの原因もなんとなく想像できる。だけど、リヴァトーンに限ってそれはないと思ってた。リヴァトーンはいつも不遜で自信満々。いつも通りだったから。だけど今の少しの会話とその反応。やっぱりそうだよね」

 彼としては隠してきたつもりであった。しかし今の会話と態度でそれを全部無駄にしてしまった。

「付き合いが長いだけあるな」

 いくら言い訳してもここまでバレてしまっては無理やり普通を装うのはそれこそ恰好が付かない。

「なあ、お前は俺の事怖くなかったのか。一度完全に消滅させた俺の事」

 遠くのどこかに目を向ける。声音はいつも通りに振る舞ったが、僅かに暗さがにじみ出ている。彼がどのような返答を求めているのか。適切に答えないと彼の傷を抉る結果になる。

「怖かったよ。当然じゃん」

 半笑い気味に答えるユリーノ。その発言にリヴァトーンは僅かに暗い表情をする。

「そうか。それは済まないことをしたな」

「謝らないでよ。別に攻めてないよ。それに謝らなきゃ行けないのは私の方だし」

 彼女のその発言にリヴァトーンは信じられないと言いたげな顔を見せる。

「スサイドン様の力で復活した後さ。私リヴァトーンの護衛から離れようと思ってスサイドン様のもとに行ってきたの。そしたらあの人私が見舞いにきたものだと勘違いしてリヴァトーンのもとに連れて行ったんだ。そしてそこで思い知った。あの時誰よりも苦しんでいたのはリヴァトーンだって事を」

「俺が苦しんでいた?」

 その時彼は衰弱し、昏睡状態にあった。さすがにその時の事は覚えていない彼からして、それは寝耳に水だった。

「詳しいことは言えないけど苦しんでいたのは本当だよ。あれを見てたら私は自分勝手な行動に出ようとしたことが恥ずかしくなった」

「いや、お前は正しいだろ。怖いと思った者から避けるように遠ざかるのは当然の心理だ」

 彼女の意見を尊重する。しかしユリーノはそれを聞き入れず、首を振った。

「それが赤の他人だったらそれも正解だよ。だけどリヴァトーンは幼馴染み。昔から一緒にいた仲じゃん。それをしちゃったらさ、友達としては失格だよ」

 確かに言い分としては分かる。しかしそれは心が強くなくては出来ない事だ。

「そんな恐怖心を抱かせてしまったのになんで前と変らずに接してられるんだ」

 その返答は少しの腎管を要した。彼女は少し気恥ずかしそうにそれを言うかどうか悩む。

「それはね。リヴァトーンには凄く感謝しているからだよ」

 それでも言うことを決心したのか、彼女は少し恥ずかしそうに口籠もりながらそれを紡いでいく。

「感謝?」

 その言葉にいまいち心あたりが思いつかないリヴァトーンは思わずオウム返しをする。

「忘れたとは言わせないよ。昔私にあったあのこと。あの時のこと」

 リヴァトーンとしても彼女の身にあったことは分かる。と言うか思い浮かべられることはたった一つしか無い。それはきっと当時遊び場になっていた海底火山の噴火に巻き込まれて三日ほど彼女が行方不明になった事についてだろう。

「私はね、リヴァトーンあの時のことを凄く感謝しているんだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ