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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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五十七話 リヴァトーンの回想

 リヴァトーンの体力は本人が思っていたよりも消耗していたらしく、一度離脱してから三十分経った今でも、回復していなかった。その間彼はただ、何もしていなかったわけでは勿論ない。リヴァトーンは接近で闘っているアダルと同じように遠目から軟体獣の弱点を探ろうとしたり、アダルの立ち回りを観察して打倒アダルの構想を立てたりしていた。

「っ!」

 そんな事に意識を集中していても、時たまどうしても傷が痛みその思考を途切れさせる時がやってくる。先程。アダルがやってくるまでやっていた単独での軟体獣の足止め。それによって、リヴァトーンは致命傷とは行かなくても、数え切れないほどの生傷を増やした。その中にはよほど深い傷も交じっている。あの状態のまま闘っていたら体力が底を尽き、軟体獣に殺されていた可能性がある。それは彼も分かっていたが、どうしても軟体獣の意識を逸らすことが出来なく、傷を押して抵抗を続けていた。そのタイミングでアダルが来てくれた事は運が良かったと良いほか無い。

「こんな事に成るんだったら、言うこと聞いておいた方が良かったか?」

 脇腹に出来た深い傷を見ながら後悔の念を抱きつつ、そこを摩り続けながら溜息を吐いた。

 彼がアダルに知らせずに単独で軟体獣へ挑んだのは、単純にその支持を忘れていたからだった。その事を思い出したのは軟体獣の姿を捕らえて、このまま突撃して先手を取ろうと思いついた時だった。ふと頭を過ぎったのだ。そこで彼は一瞬の思考を為る。そして直ぐに自分で決めたのだ。今は海面に出る時間はないと。軟体獣が海底を削っている時点で何を使用としていたのかは理解できた。様子から見ても今削り始めたところだろう。それ故、軟体獣の意識は海底に向っている。隙だらけな状態だ。ここで攻めなければ勝機はないと判断して、突撃した事から始まった。リヴァトーンの思惑は当たり、軟体獣に妨害を受ける事無くトリアイナの穂先は軟体獣の胴体に当った。穂先に当ったところから塩に変える能力を持っているため、当然貫いたところから溶けるように浸食していく。当然それには痛みを伴うことから甲高い悲鳴が海中に響いた。しかし直ぐに触手が振るわれる。ぎりぎりのところで気付き、回避すること事態は成功したが、それでも鉤爪がリヴァトーンの肩を掠る。血が海水に溶け出すが、彼はそこを拭うだけだった。それしか出来ないほど余裕がなくなったのだ。リヴァトーンに意識を向けた軟体獣のよる苛烈な責めが彼に襲いかかる。彼が後悔をしたのはこの段階だった。しかしもう遅い。自分に今できることはどうにかこの責めを避けて、軟体獣に致命傷を与えるのかと言うことだけ。幸いにして、先程つけた傷がある。そこを狙えば、軟体獣を弱らせることは出来る。その考えのもと彼は動く。何回か、違う場所にトリアイナで傷つけることには成功した。それで触手の動きが少し鈍くなり、無傷とは行かないが、立ち回ることが成功した。ここで彼は考えてしまった。今ここで大精霊化したら一人で倒せるのではないかと。それ程まで弱らせる事には成功した。事前の打ち合わせではその役割を二人でやって、ある程度弱ってから相手と同じサイズに成りとどめを刺すという事になっていた。しかし一向にアダルは来ない。それはまあ、彼が知らせなかった事があったので自業自得と言えなくもない。だからこの状況を一人でやってのけたリヴァトーンは慢心を抱いてしまう。一人で行けると。彼はトリアイナの穂先を自分に向けて大精霊化しようとした。しかし次の瞬間、明らかに空から降ってきた気味の悪いエネルギーが軟体獣に降り注ぐ。それに混乱したのはリヴァトーンだけではなく、軟体獣もだった。呆気にとられた声を出す軟体獣だが、その声は次第に狂った様に今までより甲高くなった。徐々に軟体獣から吹き出すオーラが見えるほど濃くなる。それは劇毒のような赤紫に発光していた。変化はそれだけではない。先程リヴァトーンがつけた傷が全て塞がっていくのだ。それを目にして唖然とするしかない。そして最後に目の色が紫に変り、軟体獣の変化は終了した。終ると同時に雄叫びを上げ、邪魔な存在のリヴァトーンに狂気の眼差しが向けられる。それを見て危ないと察した彼は直ぐにこの場から離れようと逃亡を図る。しかしそれよりも早く軟体獣の触手が行く手を阻む様に振るわれる。勿論全部ではないそのために振るわれたのは二本。残りの四本は彼を殺そうと振るわれる。速度は前の三倍ほど上がっている。それが四本同時。さすがの彼でも全てを避けきることなどは不可能。そう判断するも致命傷にならないように立ち回る。その時のリヴァトーンにはそれくらいしか出来なかった。それによって生傷を増やした。深い傷も数えるほどだが負った。そして体力が削られた。彼にはアダルのような再生能力は存在しない。だから傷を負ったらそのままだ。それでも無理やり傷を塞ぐことは海の中限定だったら可能な体のつくりをしている。しかし今は塞ぐ暇がないほど苛烈な責めにあっている。このままだとジリ貧に成るのは自分の方だと思いながらも、解決策が思うように浮かばない。必死に死なないように、回避行動を取るしかない。だがそれでも限界がやってくるときがきてしまった。どこにも逃げられない様に触手に囲まれてしまった。数秒後。自分は死ぬのだろう。だが、不思議とどうにかなる気がした。直後、無数の光弾が軟体獣の背中を捕らえるのがリヴァトーンの目が捕らえた。軟体獣は悲鳴を上げると同時に触手を散らした。その隙を見逃さず彼は一度触手の届かないところまで退避する。

ここでリヴァトーンはもう一度脇腹の傷に目をやる。塞がるまであと少し。痛みもまだある。体力も未だに全回復していない。まだ戦線に出られるほどではない。この状態で言っても邪魔になるだけ。その想いもあってまだ観戦をつづける事にした。

アダルが軟体獣へ向けてしている立ち回りは参考になる。先程自分に行なわれた事が多々、アダルにも行なわれている。

「ああすれば回避出来るのか」

 彼の行動に思わず感嘆の声を挙げて関心してしまう。もちろん彼がしたことを自分も出来る訳ではないが、出来る範囲で今後参考にしようと思ってそれを見ていた。

「というか、何で海中でもあんなに自由に動けるんだよ」

 半笑い気味にそれを口に出して、どのような仕組みで海中でも自由に稼働できるのか、リヴァトーンなりに理由を考えてみた。

 そもそも完全なる空の生物であるはずの鳥は海中飛び込んだりはしない。一部の鳥は魚を捕るために潜ることはあっても、ここまで長時間潜ってはいられない。

「もしかして、全ての鳥類の特徴を兼ね備えているのか?」

 鳥類全てが飛べるわけではない。体が大きいため飛ばなくなり、足が発達した者がいる。空を飛ぶ代わりに海中を飛ぶ様に泳ぐ進化をした者も存在する。そのような種類も含めて全ての鳥類の特徴を兼ね備えてるのではないかとリヴァトーンは考えついた。それだと納得もできる。しかしそれと同時に納得出来ないところも出ていた。彼は今一部を除いて人間と同じ状態なのだ。もし彼の考えが当っているのなら、人間状態ではそれは当てはまらないのではないのか。それとも形だけ人間なだけで中身の構造は一緒なのかという疑問が浮かび上がる。それに潜水能力を持つ種類の鳥類の最大潜水時間は三十分未満。しかし彼は潜水を始めて最低でも三十分以上経過している。それなのにアダルの様子を見ているとどうにも苦しそうには見えない。それにアダルは普通に会話をしていた。何だったら自然と呼吸も出来ている。リヴァトーンはもし自分の理論があっているのだとしたら、それが出来るのはおかしいはずである。

「はあ・・・・・。何でもありかよ」

 結局自分の意見を捨てる決意をしたリヴァトーンは最初に溜息を入れ、呆れながらにアダルに向け聞えない言葉を吐いた。


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