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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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五十五話 海中突入

『存分に妾を楽しませておくれ』

 インディコは言い終わると、彼女の真後ろに豪華に装飾された門が現れる。

「・・・・・・・」

 抗議の訴えを目で送っても既に遅い。彼女はそれを見ないまま、門の向こうに消えていった。

「これはどっちなんだ?」

 アダルは首を傾げ、そこに手を宛てながら悩む。喜ぶべきか。嘆くべきか。だが、答えは最初から決まっているような物。

「まったく、最後にとてつもない危険物にして行きやがって」

 確かに喜べる部分も存在する。悪魔種の幹部を欺いたこと。無傷で追い払えたこと。しかしそれを差し引いても、マイナスなのだ。まず目下の問題である軟体獣が強化されてしまった件。今回もスコダティの力で強化されてしまっている上に、インディコの力まで加わってしまったと言う事は倒す難易度は前回の猪王とは比べるまでもなく上がってしまったと言う事が確定してしまった。その可能性があるから、急いでリヴァトーンと育てた。しかしあくまで可能性であり、自分一人でも勝てるだろうと思い上がっていた。だが、インディコの力が加わったことで、一人で勝てる可能性は完全に消えた。スコダティによってどのような力を加えられたか、未だに把握していない状況で。さらに分からない能力を加えられたら、さすがにアダルでも単独戦闘は遠慮するところだ。

「本当に、連れてきておいて良かった」

 アダルは頬をまで伝ってきた冷や汗を拭う。

「フラウドにも、この件は伝えておかないとな」

 マイナスなことの二つ目は今回の作戦は二度と使えないこと。今後何かしらの対策を取る事だろう。

「いや、違うな」

 自分の考えを直ぐに否定して、本当の問題を思い浮かべる。

「警備の強化を促してみるか」

 直ぐに思いついた本当の問題。これに対してのアダルの答えは警備の強化だった。誰のとは言わずもがな。しかしこれには新たな問題な露になる。

「やっぱもう少し戦力がほしいな」

 フラウドにつてがないか、帰ったら聞いてみることを決意する。そこまで考えた後、アダルは漸く海に目を向ける。先程より港に近い所まで濁りが発生していた。それに明らかに海が大荒れしている。自然の波ではない。海中で軟体獣が暴れていることから発生する波だろう。そろそろ行かないと、リヴァトーンの身も危険に曝される。

「結局何だったんだ? あいつ」

 今に成ってそんな考えが急に起ってしまった。何故自分の前に現れたのは言わないまま、去ってしまった。時間稼ぎの目的があったのかすら謎。

「まあ、考えたって分からないよな」

 あんな変人の考えなんてと内心で無理やり納得させる。

「おっと、無駄なことを考えている暇なかった」

 アダルはずっと動かしていた翼を止める。当然重力の法則に捕まる結果に成り、彼の体は急下降する。未体験の者だったら叫び声を上げそうになるだろう。しかしアダルは無表情であとどのくらいで海に着水するだろうという計算をするほど余裕を持っている。海面が間近まで迫ったとき、彼は大きく深呼吸をし、口内いっぱいに空気を吸い込んだ。こんな事しなくてもアダルは海中で呼吸をする事が出来る。本人も理解していない体の謎なのだそうだ。しかし人間だった頃の名残か、思わずこの様な行動を取ってしまっている。

「はぁぁぁうん!!!」

 口いっぱい。肺いっぱいの空気を吸い込み終ると同時に、彼は海中に突入した。彼の周りに纏わり付いていたエアーが海中に入るやいなや膨大な泡と成って、水中から逃げようと海面に上っていく。その光景を美しいと思いながら、それを見続けたいという欲求を抑えて、アダルは当たりを見回す。港の方向は水が濁っている方。当たりを観察した結果、その方向を直ぐに捕らえて、アダルはここで翼を広げ、飛行するのと同じ要領で羽を動かす。すると飛行するときより遅いが、高速で海中を進んでいく。空気より重い水の抵抗をもろともしないそのスピードは海人種の物と同じくらいの速度を誇っている。

そのスピードもあって、一分以内にアダルはその目に軟体獣の姿を捕らえる。前より禍々しく、触手にも無数の棘が追加されている。目は明らかに正気を保っているとは言いがたい。前は合っていた焦点がまるで合っていないノか小刻みに揺れている。それでいて、充血して前よりも血の色に近いほど深紅に染まった瞳がより不気味さを感じさせる。

『キュララララルアア!!!』

 何かをうっと敷く思って居るのか、苛立ち気味な鳴き声と同時に辺り一帯に胴体から映えた触手を全て振り下ろす。

『ギュラアア!!』

 それで捕らえられなかったのかそれを何度も繰り返す。その星で海中の視界が舞い上がった砂によって悪くなる。アダルは何のせいで軟体獣が苛立ちを抱いているのか分かってはいるが、海中ではアダル自慢の目も効きづらい。それでいて巻き上げられた砂によって余計に視界を悪くなっているため、その存在を視認することはほぼほぼ不可能であった。

「視界が悪くてもあまり関係無いが」

 幸いにして軟体獣の輪郭は確認出来る。アダルは自信の腕を変化させ、そこに光を集中させる。

「やっぱり夜の海中は集め辛いな」

 言葉通り、いつもより光の収束が遅く、多少の時間が掛かる。それも仕方ないことではある為それ以上文句を言わずに光を纏った腕を軟体獣の方に向ける。その際指を広げてその手首を反対の手で固定する。

「さあ、こっちに注意を向けろ」

 指先から何百発を超える弾丸が一斉に掃射される。その全ては軟体獣に向け直線的に走りる。

『ギュラァ?』

 マシンガンは全て直撃。ダメージは与えられなかったが、アダルの方に意識を向けさせる事には成功した。そして軟体獣がアダルの姿を確認した瞬間、一つしかない瞳は限界まで開かれ、次の瞬間。

『ギュアアアアアアアアアアア!!!!!』

 怒りを乗せたであろう怒号が海中どころか、街にまで届くほど響き渡った。仕方ないと思う半分、アダルはこう思った。

「あいつ、この状態でも俺を認識したのか?」

 アダルは今、人間の姿だ。一部そうではないが、ほとんどが人間なのだ。それなのに認識した。軟体獣には巨鳥の姿しか見せていないのにだ。何故だと少し考えると、その理由は背後から放たれている巨大な輝きで思いついた。

「これか」

 見覚えのあるのは背中に生えている虹色に輝く翼。これは人間の時に出しても巨鳥の時に出しても同じ物が出る。ただ身長に合わせて、大きさは変るが。軟体獣がアダルの事を認識したのも翼があったからだろう。

「前回のことを覚えていられるくらいの知性はあったんだな」

 関心していると、ズドドドドドと砂を巻き上げながら突進してくる。そのスピードはさすがに海中だから陸に上がったときよりも素早く、既に攻撃圏内まで近付いていた。

「はやっ!」

 その速度にアダルは驚愕を覚えるが、その余韻に浸っている暇は無かった。軟体獣の鉤爪が降りかかってくる。寸でのところで横に回避を取る事に成功したが、余韻を残すことなく次の攻撃が仕掛けられてくる。その勢いはゲリラ豪雨を彷彿とさせる。あれは当っても痛いが、死ぬことはない。しかしこれは当った瞬間即死が決定する攻撃。どうにか当らないように避けるしかない。しかし現実はそう上手くいく物では無く、鉤爪の先端がアダルの皮膚を少しずつだが、捕らえていく。矢以外に流れ、海水に溶け込む血を見て、どうした物かと考えながら、アダルはどうにか軟体獣の攻撃圏外に退避することに成功した。

「あんたでも血を流すんだな」

 真横から愉快げな声が聞える。それはよく知っているアダルが連れてきた仲間の声。

「お前は俺をなんだと思って居るんだ。少しお前より強い程度のただの生物だ。当然怪我を負ったら血も流すし、あの攻撃が直撃すれば致命傷にもなる程度の生物だ」

 彼の。リヴァトーンの声にアダルは呆れながらやや説明口調な返答を笑って答えた。


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