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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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再会:2

注意:ドレスを修道服に変更いたしました。

「そういえば、お前。何故、俺が前世と姿が変わっていないか疑問だったようだな」

 フラウドのその言葉にアダルは息を吐き、彼を見据えた。

「そうだな。それも聞きたかった事だが、他にも聞きたい事がある」

「他にも聞きたい事があるのか?」

 アダルの反応に少し驚きを表し、面白そうに口角を上げる。

「何が聞きたい? 何でも答えるぞ」

 その言葉がその場に響く。アダルは少し悩む様に思考を始めた。聞きたい事がまとめられない様子だ。

「じゃあ、まずは一つだ」

 聞きたい事が決まったのか彼は続けて声を出す。

「お前は、人間なんだよな?」

 アダルは少し自信なさげにそんなことを言う。何故そんなことを言い出したのか分からないフラウドは顔を顰めた。

「何故、そんな当たり前の事を質問する?」

 至極真っ当な返答にアダルは続く。

「お前は自分がこの世界に来たのは百五十年前と言ったな」

「ああ、そうだぞ」

「それなのにお前は何故生きているんだ? しかもそんな若々しい姿で」

「・・・・・・・」

 フラウドはすぐには返答しなかった。アダルは彼の返答を待つようにしばらくの間、口を慎んだ。

「はあ、分かったよ。どうせそこは突っ込まれると思っていたんだ」

 あきらめた様にため息を吐くと、彼は懐から深紅の宝石のペンダントを取り出し、それをテーブルの上に置いた。

「この宝石はな、竜の(みこと)という名で、大竜種の心臓が死後宝石化したものだ」

 彼がそんなことを言うと、竜の命の輝きが増した。

「これはとても貴重な魔術媒介でな、これで使用した魔術は半永久的に発動し続ける」

 魔術という言葉になんの疑問も持たずにアダルはそれに目を向けた。それはアダルが魔術の存在を知ってるということを表している。

「俺が、これで発動している魔術は不変だ。俺はこの魔術を二十代に発動してからずっとこの姿のまま。これが俺が今なお生きている事と老けていない事の説明だ」

「そうか。だから全然老いを感じなかったのか」

「そういうことだ。で、他には何が聞きたい?」

 その言葉を聞き、アダルは迷うことなく次のことを口にした。

「お前が最初に言ったことだ。何故おまえは前世と姿が何一つ変わっていない。俺でさえ、人間の姿では髪と瞳の色は違うというのに」

 その問いかけを聞き、彼は前髪を弄り始める。

「それは簡単なことだ」

「簡単?」

 怪訝な顔つきでオウム返しをするアダルにフラウド頷いた。

「この世界に転生を果たした俺たちにはある特徴がある事が分かった」

 彼の言葉に首を傾げるアダル。

「その特徴って言うのはな、前世の特徴を加えた美化された顔立ちになるという物だ」

「・・・・・・特徴ってそれだけか? だったらお前が変わってないのは何故だ」

 アダルの不思議そうな声がフラウドの耳に届く。それを聞いた彼は自慢そうな笑みを浮かべた。

「それは、俺が美化する必要の無いくらいイケメンだったということさ」

 口角を上げながら告げられるその言葉にアダルは呆れた表情を返した。たしかに彼は前世でもイケメンの部類に入っていた人物だ。顔立ちは良く、長身でそれなりの筋肉が付いた体を持っていた。しかしそれを自慢する人物ではなかった。前世でも彼を知るアダルはフラウドが変わってしまった事に内心嘆息する。

「っていうのは、冗談だ。そんな呆れた顔をするな」

 と真顔で返され、彼は息を吐く。

「正直それに吐いては分からない。他の奴らも俺が変わってないことに驚いていたからな。今のはその内の一人が言ってたことを言ってみただけだ」

「そうか。俺は一瞬、お前変わったなと思ったが。そうじゃないのか」

 そうかと呟きながら、安心した様に笑みを浮かべるアダル。その様子に彼は君が悪そうな顔で見ていた。

「何だよ、その表情は。気持ち悪い」

 フラウドから放たれた言葉に彼は少し嬉しそうな顔をする。

「お前は変わらないな」

「たかが百五十年生きただけで変わって溜まるか」

 彼はそう言うと少し悲しそうに目を伏せた。

「まあ、変わる奴は居たがな・・」

 その言葉が妙に哀愁を漂わせた。そのことが気になり言葉にしようとする。

『フラウド様、新たなお客様です』

 その声が先程アダルが入ってきた扉から聞こえた。声の主はどうやらあの老メイドの様だ。彼女は淡々とその事実を言葉にして、そのことをフラウドに告げる。

「どうやら俺が呼んだ奴が来たようだ」

「お前が呼んだ? だったら俺はどこかに行ってようか?」

 立ち上がろうとテーブルに手をかけた。

「いや、お前はここに居てくれて良い」

 そう言われ、アダルは立ち上がろうと浮かせていた腰を再び下ろした。

「開けろ」

 こちらが腰を落ち着かせるのを確認し、彼は老メイドに命令を下す。彼女からの返答は無かったが、その代わりに扉が開き始める。

「どうぞ、進みください」

 アダルに言ったことと同じ事を来客にも口にしていた。そのタイミングでフラウドは扉の方に目を向ける。

「おい! こっちだ」

 彼はその来客に向け声をかける。しばらく中を観察していた来客はその声でこちらの姿をようやく捕らえ、こちらに足を進めてくる。アダルは振り返り、その姿を拝め塔と首を動かそうとした。

「おっと、お前はまだ見るな。っていうか、俺が紹介するまで動くな」

「はあ? 何でだ」

 しかしそれを悪戯めいた笑みを浮かべるフラウドに止められた。不満そうに抗議すると「いいから、そのままにしていろ」と言われ、無っ良くは行かなかったが彼の指示に従う事にした。

「久しぶりだな、ヴィリス。約百年ぶり位じゃないか?」

 フラウドが気軽にその人物に声をかける。どうやらヴィリスというのが来客の名前らしい。アダルは内心そういう名前なのかと覚えておくことにした。どうせこの場で面識が出来るのだ。覚えておいて損は無いと思った結果だ。その人物は彼の言葉には返答せず、ゆっくりとこちらに足を進めてくる。

「そうですね。大体百十年ぶりですね」

 アダルの斜め後ろで停まり、先程の返答を返した。ハープのように清らかな女性の声がその場に響く。その声に聞き覚えがあったアダルはその場で目を見開く。しかし動くなと指示された以上、彼の言葉に従い、身動きは一切しなかった。確認しようにもその姿は首を動かさないから確認できなかった。

「それにしても人がいるなら言ってください。それだったら訪問も後にしましたよ」

 丁寧に彼をたしなめる女性。フラウドはまったくそんな事を聞く耳を持たなかった。

「いいんだよ。どうせお前にも紹介する予定だったんだ」

 アダルの耳にそんな事が聞こえ、内心彼に悪態を吐く。

 人に用件を言わない所は直ってないのかよ。そんな事を想いながらフラウドに鋭い目を向ける。

「相変わらずのようで安心しました。それで紹介したいという御方はこの方ですか?」

 クスっと笑いを溢しながら返答するヴィリス。その返答にフラウドは口角を上げながら言葉にしていく。

「ああ、そうだ。彼はアダルと言ってな、俺の古い友だ」

 その言葉に彼女は「まあ!」と声を声を上げて驚いた。

「貴方にも友達が居たなんて。前世でもそんな方は居ないと思っていましたよ?」

 そんな皮肉めいた言葉を彼に投げつけるヴィリス。しかし問題はそこじゃ無い。彼女は今、前世という言葉を口にした。それは彼女も同じ前世からきた同級生だということをアダルは確信した。

「ああ、そうだろうな。だがな、それは誤解はある。俺は前世でも友は居たぞ? なあ、アダル?」

 なんとも意地の悪い事だと彼は思いながらその返答を口にした。

「お前を友だと思った事なんて一度も無いぞ。ただの腐れ縁だからな」

 呆れた様子で彼に返す。

「・・・・・・・え?」

 戸惑うような声が漏れたのが聞こえた。彼はフラウドに目を向けると、彼は頷く。そこでようやくヴィリスという人物の姿を確認為べく、彼女に顔を向けた。

「あ・明鳥君?」

 そこには艶やかな紫の長髪で驚く程白い肌のだいたいアダルと同じくらいの女性の姿があった。顔はとても整っており、大きい瞳はアメシストを思わせる輝きがあった。紫の修道服のような物を身に纏い、腕には様々な装飾が宛がわれた金の腕輪をはめている。そんな彼女が今にも泣き出しそうな目でアダルを見ている。

「声でわかった。お前は天梨(てんな)だな。なんだよ、前世より美人じゃないか」

「明鳥くん」

 彼女は言葉にするとアダルに近づき、彼の手を取った。

「探したのよ。私、貴方が居なくてさみしかったから」

 彼女のその行動に狼狽えながら、泣き出しそうな彼女の肩に手を置く。

「そ、そうか。悪かったな。寂しい想いさせてししまって」

 そんな言葉しかかけてやれないと思い、彼をそれを口にする。その言葉を聞いたヴィリスは涙を拭き取り、彼に笑みを向け、「会えて嬉しい」と口にする。その言葉を一緒に聞いたフラウドは呆れた様に口を開く。

「お前も相変わらず色男って訳か」

「お前は何を言っているんだ?」

 不思議そうに言うアダルにフラウドは諦めたようにため息を溢す。

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