誰が彼女を幸せに?
「えっ……」
最後の仕事……? どうゆう意味なのだろう?
戸惑う夢亜にダリアは続ける。
「私達天使はね、元々は人間なの。人間は死ぬと普通、天国に行って生まれ変わるのはニーナから聞いたよでしょう?」
夢亜は頷く。言いようの無い不安が募る募る。
「それで、ある資格がある者は天使となって働くの。 その代わり、天使としての役目を終えた時、普通より早く生まれ変われるの」
「ある資格って?」
ダリアは重い口調で告げる。
「不幸よ」
不幸……?」
「普通の人よりずっと暗い過去を持っている事が条件なの。 それで、ニーナは……」
ダリアの声が、途切れ途切れになる。
「私なんか比じゃないくらい、酷いのよ……」
「でも! それでも普通の人より早く生まれ変われるんじゃないですか。 それはきっと、良い事なんですよね?」
不安をかき消すように声が大きくなる。
「ええ、良い事よ。でもね」
ダリアは両手で顔を覆う。次の言葉は、とても悲鳴じみていた。
「次の人生を歩めるのはあの子じゃないのよ……ニーナではない、別の誰か。私はあの子の笑顔が時々、痛々しく見えるの、それが何より辛いのよ!」
夢亜は言葉を失った。ニーナが時々見せた、吸い込まれそうな瞳が脳裏に浮かぶ。ニーナは今までずっと、無理に笑ってきたのだろうか。
――あたしは死を悲しいものだと思いたくないんだ、死ぬって事はそれまで頑張って生き抜いたってこと
だと思う。たとえ今までの人生が辛く苦しい物でも、最後は笑顔でいてほしいんだ。
そう言ってニーナは花が咲く様に笑い、私を温める様に抱きしめてくれた。そして今、私の願いを叶えようとしている。
ニーナは人を幸せにし続けた。だけどそれなら。
それならニーナは誰が救うというのだろう?
しばらく無言の時間が流れ、古い時計の針が時間を刻む音だけが響いた。
「ごめんなさい、これから楽しい時間なのにこんな話をして、でも夢亜、貴方には知っていて欲しかった。貴方はニーナの唯一の”親友”だから」
「そんな、ダリアさんだって――」
「私は違うの。多分、母親とか姉とかそういう部類。あの子の全ては私には分からないわ」
ダリアは涙を拭い、悲しそうに笑う。
「ダリアさん。カットとメイク、ありがとうございました」
「どういたしまして」
夢亜はお辞儀をした後、ダリアを真っ直ぐ見つめ、強い口調で告げる。
「あの! 私があの子を本当の笑顔にしますから! あの子を幸せにしますから! だからダリアさんも泣かないでください!」
ダリアは一瞬驚いた様な表情で、しかしすぐに微笑み、言葉を返した。「そう、夢亜。あの子をよろしくね」
その表情は、本当に家族を想う顔をしていた。
小さい頃見た、母の様に。