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向日葵と観覧車

 夢亜が次に目を覚まし周りを見ると、最初にニーナに連れてこられたビルの屋上だった。遠くで車のエンジン音が聞こえる。

 目の前には黒髪の妖艶な天使がいた。

「久しぶりね、夢亜。五年ぶりくらい?」

「ダリアさん…… あれ? どうして私ここに? ニーナと観覧車に乗っていたのに。そもそも私天国に行くんじゃ?」


 ダリアはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「背中を見てごらんなさいな」 

「えっ、あっ……」


 背中を見ると、驚いた。

 背中には白い翼が生えていた。その時ダリアの言葉を思い出す。

天使になる条件は”不幸”。

そうか、自分は――天使になる資格があったのだ。

 驚きと同時に彼女の事を思い出す。


「そうだ! ニーナは? ニーナはどこにいるんですか?」

「あの子は、天国に行ったわ。私が連れて行った。――あの子の最後の笑顔は、本当に幸せそうだった」

「そうですか――良かった。」

「実はあの子から貴方あてに手紙を貰っているの」


そう言ってダリアは小さな手紙を差し出す。夢亜は受け取り、ゆっくりと紙を開く。

 書いてあったのは一言だけだった。


 ――生まれ変わっても、絶対夢亜の事を覚えているからね。


 夢亜は微笑んで空を見上げた。手紙の返事は、こう書きたかった。


 ――それなら私は、生まれ変わった貴方を絶対に見つけ出す。


 夢亜はゆっくりと歩き出し、手すりから下の世界を眺めた。

 目の前に映る景色は以前と違い、とても綺麗だった。 

 この美しい世界のどこかに、ニーナはいる。

 そう思うと、本当に嬉しかった。



こうして夢亜の天使としての生活が始まった。

天使の仕事は死んだ人間の魂を天国に連れて行くこと。

なかなかハードな仕事内容で夢亜は、これじゃあ人間の時とあまり変わらないなと苦笑した。


夢亜はかつてのニーナと同じ様に、担当になった者にやり残したは無いかと事を聞いた。それを出来る限り実現し、最後は彼らを笑顔で見送った。

他の天使からは、また変わり者がやってきたと夢亜を煙たがっていたが、夢亜は全く気にしなかった。


 ダリアとは時々、あのビルの屋上で飲んでいる。


見た目は中学生のままだったが、お酒は飲み慣れてきた。しかし酔うと泣き出してしまうらしい。(全く記憶に無い)ダリアからは、

「あの時、初めて飲んだから酔っぱらってたと思ったけど違うのね」とからかわれている。


 こうして天使としての忙しい毎日を送り、何十年かの時が経った。

 ある時、日々の働きが評価され、とても長い休みをもらった。夢亜は旅に行こうと決めた。

 天使の力で翼を隠し実体化し、向かった先は、夢亜の住んでいた町ではなく、かつてニーナが語った、大昔に戦争があった国だった。そこはかつて戦争があったとは思えないほどに美しい街があった。


 夢亜は町を歩き、やがて大きな向日葵畑に着いた。

 遠くには遊園地があるらしく大きな観覧車が見える。

 そよ風を感じながら、向日葵畑を歩いていると、向こう側から、大きなゴールデンレトリーバーを連れた小さな女の子がやってきた。

 

 夢亜は微笑み、挨拶をした。

「こんにちは」

「こんにちは! お姉さん」

 女の子は花が咲いた様な笑顔でとあいさつを返した。

 夢亜はレトリーバーの頭を撫でる。レトリーバは嬉しそうに尻尾を振った。

「かわいいね。名前はなんていうの?」


 すると少女は、まるで聞いて欲しかったかの様に目を輝かせた。

「ユメアっていうの! 本当に不思議な事なんだけど、昔からずっと頭の中にある言葉で、絶対に忘れちゃいけない、とても大切な言葉の様な気がするの。だからこの子に付けてあげたのよ」

 夢亜は驚き、目を丸くした、しかしすぐに微笑んで答える。

「そっか。とても素敵な名前ね」 

「うん! バイバイ! お姉さん」


 少女は手を振り、青空の下の向日葵畑を犬と駆けていった。

 夢亜は手を振りながら優しい口調で独り言を呟いた。

「貴方には、向日葵がとても似合うのね」

 強い風が吹く。

 向日葵の花びらが空に舞い上がり、遠くでは観覧車がゆっくりと回り続けていた。






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