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いなくなった娘

 遊園地に着くと二人で手を繋ぎ、はしゃぎながら走り回る。

 まずはジェットコースターに乗る事にした。落ちる時、いかにも女の子らしい悲鳴を上げてしまい、 なんだか自分の声では無い様に聞こえて、後から少し恥ずかしくなった。ニーナは翼があるからか、全く怖がらなかった。


「あはは! 夢亜もそんな声出すんだね」

 とニーナにからかわれた。しかしお化け屋敷の方では真逆の反応だった。今の自分は幽霊なので、偽物にしか見えず驚かなかったが、外へ出た時、ニーナの方に目を向けると涙ぐんでいた。

「貴方だってお化けみたいな物じゃない」 と言うと、

「本当のお化けはあんなに怖くないよ!」 と文句を言っていたのが可笑しくて夢亜は腹を抱えて笑った。

 次にメリーゴーランドに乗り、お昼になったので二人で園内のレストランに入った。

 夢亜はハンバーガー、ニーナはイチゴのショートケーキを食べる。ケーキを口に入れた彼女はあまりにも幸せそうなので「そんなに好きなの?」 と訪ねると


「女の子で甘い物が嫌いな子はいないんじゃないかな?」 

「私は女の子だけど苦手」 と言うと

「本当!? こんなに美味しい物が苦手なんてもったいない

!」 と本気で驚いていた。 


 その後空中ブランコに乗り、戻るとニーナとはぐれてしまった。 ニーナは金髪で目立つからすぐに見つかると思っていたが、夏休みシーズンだからか入場客が多く、なかなか見つからない。

「困ったな……」


一人になると、また少し不安になってしまう。 それに夢亜もニーナも、有効時間は今日までなのだ。 

 貴重な時間を失いたくない。

 その時、後ろから、「夢亜!」 と声をかけられた。

「ニーナ! もう、探したよ……」


 そう言いながら振り向いた瞬間、息が止まった。心が凍り付く気がした。

 声の主は母だった。

 昔よりしわが増えていたがすぐに母だと分かった。だけど何よりも驚いたのは母が酷く疲れた様な顔をしていたからだ。派手な化粧もしておらず、高そうな服も着ていなかった。


 母は夢亜の顔を見つめ、少しの時間が掛かってから、

「そんな訳ないわよね……あの子はもう……ごめんなさい、あまりにも娘と似ていたので……人違いでした」そう言い終わると、弱く笑い頭を下げた。 そしてふらふらとした足取りで歩いて行く。

夢亜はひどく混乱した。


 何で。何で今更。

どうして母がここに?  

 どうして私の葬式に出てくれなかったの?

 どうして――私を捨てたの?

 頭の中にノイズが走り、ゴチャゴチャになる。酷く叫びたい衝動に駆られる。


 私は貴方のせいで散々な人生だった!

 施設で貧しい生活を送り、親に捨てられた事でいじめられた。友達だっていなかった。

 何より私自身が貴方に捨てられてからおかしくなった!

 上手く笑えなくなったし、世界中の人間が敵に見えた。誰も信じる事が出来なかった!

 全部全部、貴方のせいだ。

大きく息を吸う。全部全部、ぶちまけてやろう。

 そう思った時瞬間――


「あっ……」

 思い出した。

 ここは母が昔、よく連れて来てくれた、思い出の場所だ。そこに母が一人で来ているということ。

 その理由は。

 母はいなくなった娘を探しに来たのだ。どこにもいるはずも無い娘を。


スゥと怒りと憎しみが消えていく。最後に残った感情は、母への愛情だった。

「そっか、私は、お母さんともう一度会いたかったんだ」

 小さな声で呟く。

 そしてお母さんが元気で生きていてくれたのなら、それでいいと思った。


「あのっ!」 母の寂しい背中に声を掛ける。ゆっくりと振り向いた母に夢亜は微笑んだ。


「娘さん、早く見つかるといいですね。今頃きっと、会いたがっていますよ」


 そう言終えると、夢亜は軽く会釈をし歩き始めた。少し歩いてから振り返ると、母は両手で顔を覆い、しゃがみ込んでいた。離れた距離でも、嗚咽をもらす声は聞こえた。

 夢亜は心の中でそっと呟く。

 さようなら、お母さん。





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