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二十八話

二階にあるホールは七人が集うには少々広すぎたが他に目ぼしい場所に心当たりがあるわけではないので仕方なかった。何より突然訪問されれば他の場所を探す時間もない。幸い他の宿泊客はあまりここを利用していないので公に出来ない会話が出来るのは有り難く、三組あるテーブルのうち二つに各々思い思いに特徴的な椅子に腰を沈め六人は一点に視線を集めている。視線の先には先日、榊が出会った女性が何食わぬ顔で紅茶を飲んでいる。相変わらず雰囲気は柔らかくその仕草は上品だ。

空調の音だけが聞こえる中、もうかれこれ三十分近くこの何も会話の無い状態が続き流石に徐々に皆のしびれが切れ始めた頃、女性が口を開いた。

「それで。この集まりは何なの?まだ子供もいるようだけれど。」

彼女は新田と名乗った。皆の視線は榊に移る。責める様なその視線に榊は小さく咳払いをすると少しだけ軽くなった場の空気に感謝しつつ一通り皆を紹介する。

「立つ必要あったか?」

「うるさい。気持ちの問題だ。」

何故かわざわざ椅子から立ち上がり一人一人名前と国籍を紹介した榊に将が呆れている。どうやら気持ちがほぐれたのは榊だけではなかったようで強張っていた身体を解す様にそれぞれ体勢を変えどこか表情もいつも通りに感じられた。

さて、どう説明したものか、と榊は心の中で頭を抱える。先日会った時は道具に関わる事と椿の事しか伝えていない。他の仲間の事を隠したわけではないが言わなかった事イコール隠したと受け止められても仕方ない。そしてそれは信頼を損なう事でもあった。

「へティカルとヴィルナラ、でしたかしらね。貴方がたがどちらに属しているかは知りませんけど。」

暫く、いや、実際はそれ程の時間が経ったわけではないが六人は明らかに固まっていた。へティカルとヴィルナラ、それは覚醒種と破滅種を指す言葉。思いがけないその単語に聞き覚えはあるがその言葉自体に反応したわけではない。その言葉を知っている事がどう言う事か理解しているからだ。

「あの、なぜ、その、それをご存知で?」

「全ての秘密があなた達に繋がっていると思わないことね。足元をすくわれるわよ。」

無表情で慌てその場を取り繕うとする榊が可笑しかったのか彼女は少し吹き出すとコロコロと笑う。そして単純な話しよ、と呟くと少し懐かしそうに、だが寂しそうにそっと話し出す。

「貴方と別れた後、一度帰国して父の蔵書を調べたの。娘の私が言うのもなんだけど父はとても優秀な考古学者だったの。もっとも、私がそれを知ったのは父が亡くなってからだけど。なぜだかわかる?」

「いえ。」

「父は一度も賞を貰ったことがなかったからよ。彼の研究は一度も日の目を見ることはなかったの。いえ、違うわね。彼は研究らしい研究はしていなかった。事実を確認し、別の事実と繋げ合わせる。ただそれだけ。だから誰よりも危険な事実に近付きそれをひた隠しにする必要があったの。父が亡くなった後、遺品の整理をしていて私はそれに気付いた。同時に父の言葉も。だから私はそれ以上知る前に父の遺品である蔵書はそのまま眠らせることにした。でも、貴方に出会った。」

彼女はそこで一息つくと空になったティーカップに紅茶を注ぎ角砂糖を二つぽとりとカップへ落とす。

「誤解しないで聞いてほしいの。貴方のせいではなく単純に私が父が何を成し得たのか気になっただけ。貴方との出会いはきっかけでしか無いわ。父の蔵書を紐解き、私はこの世界の成り立ちを知った。教えてほしいの。あれは真実なの?それとも父は間違った答えを導き出したの?」

六人はそれぞれ顔を見合わせ榊がこくりとうなずく。それを確認した彼女は紅茶を一口飲み込みため息をもらす。そうなのね、との呟きは誰の耳にも届かず彼女が何を言ったか六人はわからないままだがそれはそれで構わなかった。おそらくその呟きはこの場にいる者へ向けられたわけではないのだろうから。

「お父上がどのような結果を導かれたかはわかりませんが、おそらく事実です。そしてそれは今も続いています。宜しければあの遺物に纏わる話を聞かせていただきますか。」

彼女は頷き閉じていた瞼を開くと少し長くなると前置きをしてゆっくりと教えてくれた。それは榊達が知っていた事実とは少し異なるものだった。














古代エジプトの遺物として扱われてはいるがそれはとある歴史学者がそう位置付けただけで実際は更に数万年遡る。前時代に製造されたものだがそれを正確に年代測定出来る技術は今はまだないだろう。しかしそれでも歴史学者が古代エジプトと判断したのは一応の理由があった。窪みに残されていた物質とこびり付いていた炭化した組織から地域と時代を推測したに過ぎないが、肝心の道具本体にはあらゆる年代測定が反応せずなのだから仕方ないのだろう。

それは盗品としてではなく古美術品としてエジプトの地を離れることになる。名前も用途もわからないそれはただの奇妙な形をした出土品に過ぎず次第にその存在は希薄になり扱いはよりぞんざいとなる。年々増えていく古代エジプトや王家の遺物によりその存在は更に不必要とされ資金調達の為の糧となる。こうしてこの道具はエジプトを離れ様々な権力者や資産家、収集家の手を渡り日本のとある考古学者の手へと渡った。

彼は不思議に思った。あらゆる年代測定が通用しないその存在に。電磁波は遮られその身は削ることすら叶わない。あらゆる蔵書と古文書を紐解き彼は一つの歴史の綻びをみつけてしまう。とても小さなその発見は普通なら気付きもしない明らかに改変された一ページ。前後の記述から古文書の製作者を調べ上げその者が所属していた組織に辿り着く。組織の背後関係から政治的関与を考察する。そうして一つの綻びは別の真実を示し連鎖的に本来の姿を晒し始める。

そして彼は辿り着く。ヴィルナラの存在に。何故ならこの遺物は彼等の神が作り出した物だから。

「訳された書物には戦争に使用する武具の製造に必要な鉱石の精製と書かれていました。古文書の一文にはこう書かれていたそうよ。」


あの恐ろしき生物に対抗するには今は無き彼の者達の遺物を探し出し使うしかない。止めなければ。滅さなければ。この地は永遠の焦土となってしまう。


「私にはどちらが悪いかなんてわからないけど当時はあの遺物の所有者達にとってとんでもない驚異が存在していたのは事実よね。」

「私達はへティカルを覚醒種、または覚醒者と呼びヴィルナラを破滅種と呼んでいます。そもそも私達の間でへティカルとヴィルナラの呼び名は浸透していません。事実、私もその言葉を知ったのはつい最近なんです。そして私達はその驚異に心当たりがあります。」

それはどう言う事、と首をかしげる彼女に椿は自分が旅に出た経緯を話す。そしてイングランドで遭遇したヒトを捨てた存在の話も。彼女は熱心に椿の話に耳を傾けその表情は次第に曇り始める。話を聞き終わるり、人の愚かさを一頻り嘆くと彼女は暫く沈黙し榊たちへ注意を促した。

「そんな事が、現実に起こっているのね。わかりました、遺物に関しては私の方でどうにかいたします。でも気をつけて。父はへティカルを、いえ、覚醒種でしたわね、彼らを信じてはいなかったようなので。」

彼女曰く、父が残した蔵書に彼の意訳ではあるが破滅種からの視点でとある考察がなされていた、とのことだった。それは少し後味の悪い内容だった。へティカルが何かしらの実験体を戦場に投入していたのではないか、と。ヴィルナラが恐れていた存在が確実にあり、またその痕跡をいくつか見かけることがあった、と。

「椿さん、貴方の話に出てきた存在と同じ生物ではないの?貴方があの遺物を使ってその存在と対峙しようとしているようにヴィルナラもそうだったのではないのかしら。」

彼女はそう言い残しその場を後にする。残された榊達は薄々気付いていた現実を突き付けられ少々困惑していた。いや、榊はおそらくこのとき初めて自覚したかもしれない。ギルドが持つ危険性を。

椿はそれに気付き終わらせる為に旅に出た。同じ様に将、睦生、霞の三人はそれから逃れるために。シェリーは閉ざされた世界にいたおかげでその辺りは疎く榊に至ってはこの世界の存在自体を最近知ったばかりだ。この二組の間には認識の違いがあったがこの時くらいから自分たちが向かう先の共通の認識が生まれた。

「覚醒種が信じられないって多分、ギルドのことだよね。わたし達は他のギルドや支援組織と関わったこと無いからわからないけど、そんなに信用ないの?」

シェリーが不安そうに尋ねる。その不安は自分たちに降りかかる悪い事に対してと言うよりは同じ目的で活動していたはずの組織がなぜそうなっているのかと言うことに対してだった。困った表情で椿がその疑問に答えるがそれはとても歯切りの悪いものだった。

「始めに断っておくけど私達も全てを知っているわけではないの。と言うより確信や決定的な事実を知っているわけではないの。微妙な違和感と僅かな不信感から私はギルドとの接触を極力避けてきた。貴方達も少なからずそうなんでしょ?」

「まあキッカケは将の冒険心なんだけど、だいたい似た感じかなぁ。こっちは霞の能力の特異性でギルドとは違う囲い込みみたいなのがあったけどね。」

「ま、取り敢えず今はどうでもいいさ。実際、今の俺らにはあまり関係ない話だし、何か起こればその都度対処でいいだろう。そもそもがここまで来たのだってその場のノリだしな。」

それにと言いかけ言葉を飲み込む。口に出すには恥ずかしさがあったからだが、それ以上にその言葉に皆が縛られるのを嫌ったからだ。椿も霞もそれぞれに目的がある。それを成す為の障害は出来るだけなくしてあげたかった。自分の言葉がその足かせになるなら言う必要はない。その時が来れば全力で動けばいいだけだ。

「ふわっとしてんなー」

「でも榊さんらしいですよ。」

「らしいけどもう少し真剣さを持続させてはほしいわよね?」

「宗司はいつも真剣だよ。ちょっと軽薄なだけで。」

「シェリー、それはフォローになってないからね。」

「あれー?なんか俺、責められてる?」

いつの間にか皆は普段通りに戻り他愛のない雑談に興じる。このホテルに滞在して既に一週間は経つが博物館での作業の終わりがそれぞれバラバラなおかげで最近はこのような時間を過ごすことはなかった。勿論かるい情報交換などは行っていたがなんとなく雑談をする機会がなく久々に全員が集まったこの場での会話のネタは尽きず話は盛り上がる。

いつの間にか、気を許せる関係になっていることに誰も疑問を抱かず心地よい時間は過ぎていく。腹の底から湧き上がった笑い声に仲間からの容赦のない叱責も違う話題のきっかけになる。他愛のない雑談で忘れていた空腹に気付くと六人はレストランへ足を運び久々の休日の食事を皆で過ごす。日は徐々に暮れ始めギザのピラミッドと東を見つめるスフィンクスがライトアップされそれに従うように周辺のホテルもイルミネーションを灯し始める。地平線に沈む太陽はその輝きを名残惜しそうに夜空に残しぽつりぽつりと姿を見せ始めた星々が夜空を飾り始めていた。

一日が終わる。

翌日、六人はいつも通り博物館へ出向き各々で作業を続けていた。道具の入手に目星がついた今、作業をして現場の責任者との絆を深める必要はなくなったのだが担当していた作業が一段落するまではとボランティアを続ける事にした。

そして更に一週間後、再びあの女性が彼らを訪ねてくる。スーツを着込んだ少し大柄の男性二人を共に。二人の男性の手首から黒い鎖が伸び、よく見るとそれは手錠なのだが、その先には長方形のジュラルミンケースが繋がれており二人でそれを持っている。

ここまでする必要はないって言ったのよ、と彼女は困ったような笑顔で出迎えた。取り敢えず男性陣の部屋に通すことにする。当然、お供の男性二人もついてくるのだが妙な圧力に耐えられなくなった将と睦生の二人は頃合いを見て連絡してくれと言い残し早々に立ち去ってしまった。残された榊が部屋まで案内する。普段は階段を使って外の景色を楽しみながら行くのだが来客があるのに流石にそう言うわけにはいかずエレベーターで登ることにする。

部屋に着きカードキーをパネルにかざし扉を開くと三人を招き入れる。彼女達が訪ねてくるまで榊達三人は部屋でゴロゴロしていたせいで室内の温度は冷房で下げられていたため扉が開くと冷たい空気がふわりと足元を通り過ぎていく。

室内は仕切られているわけではないが二部屋に別けられている。リビングルームとベッドルームだ。ベッドルームはそこそこ広いのだがリビングルームは中央にかなり大きなガラス製のテーブルがありそれに見合った椅子が四脚あるせいで意外と狭く感じる。そのおかげでただでさえ標準サイズの成人男性が四人いれば若干の手狭さがあるのに少し大柄なスーツの男性二人のせいで息苦しさを覚える。

それはそっとテーブルに置かれる。男性たちは鍵を取り出すと手錠と鎖を外しケースの鍵も外す。カバーの様になっていたケースを持ち上げて取り外すと姿を現したのは例の道具だった。

「結構大変だったのよ。寄付を申し入れしたときはあんなに簡単だったのに。」

差し出されたタブレットにサインをしながら彼女は不満を口にしていた。結局彼女は正式な手続きを踏まえず持ち出したらしい。

「新たに見つかった学術的視点から〜うんぬんかんぬんて具合にね。まあちょっとした脅しみたいなものよ。昔、父に教えてもらったの。」

財布を取出しスーツの男達にチップを渡すと彼らは部屋から出て行く。少し機嫌が良さそうに見えるのは気のせいだろうか。

道具は、一時的な措置だそうだ。特筆すべき紹介文が無いのはあまり心象が宜しくないのではの一言が決断するきっかけになったのかもね、と彼女はコロコロと笑い声を上げる。

「それで、何を見せてもらえるのかしら。」














程なくして全員集まる。シェリー、睦生、将の三人はベッドルームからリビングを覗き残りの三人がリビングで新田の相手をしている。相変わらず落ち着いた物腰だがどことなく楽しそうだが一応、椿が今から起こることに覚悟するよう求めそれを瞳を輝かせて新田は頷く。

鉱石は椿が持っていた。最初、鉱石自体に刻印し持ち運ぶつもりでいたのだが何故かそれが出来ず仕方なく収納袋を購入しそれを刻印後、その袋に入れて自分の中に消していた。一度刻印してしまうと二度と手放せないのであまり乗り気ではなかったが。

「鉱石」

ぱっと現れた収納袋に新田が短い悲鳴を上げる。小声だったあたり、ちょっと驚いただけだろう。不思議そうにまじまじと袋を見つめる彼女が触りたそうだったのでそっとテーブルに置き鉱石を確認してみるように勧める。何かを期待して恐る恐る触れるが普通の感触で拍子抜けしたのかくすりと笑うといやねぇと呟き袋をおろし鉱石が姿をあらわす。

それはとても黒くまるで夜空のように透き通って見える。実像は朧げでしかし手に持つとずしりとその存在感を主張する。大きさはハンドボールくらいだが大きさに比べ重いように感じる。

「なんだか不思議な石ね。」

吐息のようなため息と共に素直な感想が口に出る。決して滑らかとは言えないゴツゴツとした表面を猫の頭でも撫でるように触れその感触に首を傾げる。

「重いのでここからは私が。」

相変わらず重い。10kgくらいありそうだがこの大きさでこの重さは少し異常ではないだろうか。そう思っていると榊が持ち上げ例の道具の上に移動させる。

「あら、ありがとう。前から気になってたけどその重さおかしいわよね?」

「確かに。てゆーか今初めて持ったけどなんだこれ。なんでこんなに重いんだ。」

「そんなに重いの?」

「重いと言うより大きさに比例していないきがする。重さ自体は10キロくらい?だからそこまで重くないんだけど、サイズのせいで脳が錯覚している。」

「なんだそりゃ。」

「普通の鉱石じゃないんだよね。じゃあ別にその重さでも不思議じゃないんじゃないかな。」

「まあそうなんだが、ちょっとびっくりしただけだ。で、ここに乗せれば良いのか?」

「ですね。それであってます。」

「りょーかい。」

テーブルに乗せたので道具に高さがあるせいで少し高めに持ち上げる必要がある。小さなうめき声をあげ榊はそっと道具の中心に黒い鉱石を乗せる。どうやら五本のアームが邪魔なようで大分、気を使って置いていたようだが。

乗せ終わるのを確認した睦生がバチカンで手に入れた書物を手に近付きそっと道具へ触れる。指先は記号をなぞり書物と見比べ特定の箇所を探しているようだった。

「どうだ?」

「ここからスタートですね。それでここまで約5秒かけてなぞる、だそうです。椿さん、してみますか?」

「ん、してみる。」

彼女は立ち上がると睦生に言われた箇所にそっと指を置く。1、2、3、4、5、、、、何度か頭の中で数えそれが心の準備を作り上げる。

1、2、3、4、5、指を動かす。言われた箇所まで。ざらりとした感触と共に砂埃が落ちていく気がした。

なぞられた記号は指の動きで特定の振動を作り出しそれは道具全体へ周波数として伝わる。その周波数は上部の円錐台と下部から伸びるアームを起動しアームの先端から淡い光を放ち上部の円錐台がゆっくりと回転を始める。長い年月の間に一度も起動していなかったせいか土埃のようなものを僅かに巻き上げるがそれを気にも留めずその場に居合わせている一同はこの奇妙な太古の道具に何が起きるのか心待ちに魅入る。

徐々に回転の速さが増していく。比例するように低いうねる音も。アームの先端の光も光度を増し白かった淡い光は次第に青から紫へ、そして赤く輝き始める。回転も光度もうねりも全てが安定するとアームの先端から赤い光が鉱石めがけて照射される。いつの間にか鉱石は僅かに浮いていた。10キロ程の物体がどういった原理で浮いているのかこの場に居合わせた一同には理解できなかったが目の前の現象をただただ黙って受け入れるしかなかった。

誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。ひょっとしたら自分のものかもしれないがそれがわからないくらいには皆がこの光景に引き込まれていた。

鉱石が、甲高い悲鳴を上げる。削られている気配はないが微かに振動しているように見える。悲鳴が止むと同時に一筋の亀裂が入りそこからまるで糸が伸びるように赤い筋が幾重にも鉱石に巻き付き始めそれはまるで綿飴でも作っているようにさえ見えた。

赤い筋は完全に鉱石を包み込み一つの球体になる。増した輝きは収束し次第に回転は緩くなりそれと比例するように球体の大きさも小さくなっていく。起動していた時間ははおそらくて二分ほどだろうが初めて見る光景に時間の感覚を奪われているようだった。全ての作動が終わったのか道具は静けさを取り戻し何事もなかったように出来上がった球体をその台に乗せている。

「終わったのかな?」

「多分、そうかと思いますけど・・・」

「でも、なんか、その球体に見覚えないか・・・?」

幅七センチ程の球体。よく見ると渦のような模様が数カ所に浮かび光さえ飲み込みそうだった漆黒は薄れどことなく夜明け前の夜空を連想させる。榊が手に取り不思議そうに、どこか怯えるように撫でる。小さくなった分、やはり軽くなってはいるがそれでも見た目よりも重く感じるようだった。

「やっぱり重いかな。」

「なんだかあっけないけど不思議な光景ねぇ。それで、それが貴方達が求めていた物なのかしら。」

「求めていたのは椿だけど、まあそうですね。ただこの手に持った感触はなんと言うか、覚えがあると言うか。」

「だ、駄目よ。折角見つけたんだから使わせないわよ。」

「やっぱりそうだよな?」

「でもだとしたらいったい幾つあるんですかね?」

「なんだか面白いことになったねー。他にもあるなら探してみよーよ。」

「なんの手がかりもないしそもそもあれが何なのか、何の効果があるのかもわかってないのに探すわけないだろ。椿も安心しろ、もしそうだとしてもあの時とは違ってこいつを使う場所はわからないんだし俺も使うつもりはないよ。」

差し出された球体を受け取ると椿はそれを抱きしめ榊の言葉に少し安心したのか不安そうだった先程までの表情は消えていた。

「なんだか身内同士の会話って感じでおばさんちょっと寂しいわね。なんのことなのかしら。」

「後で説明します。それよりこの道具の今後についてですが・・・」

「それなら大丈夫よ。寄付は取りやめにしたから。さっきの書類はそのためなの。もっとごねるかと思ったけど手続きは面倒なのに意外とあっけなかったのよね。やっぱり見た目的にインパクトがないからかしらね。」

「それって国際問題的に大丈夫なんですか?」

「貸したものを返してもらっただけよ。気にしないでいいわよ。それで?これは貴方達に保管してもらいたいんだけど、どうかしら。」

「それは有り難い、と言うかこちらからお願いするつもりでした。多分、加工にまた使うかもしれないので。」

「これは精製する道具だろ、加工出来るのかそんなもんで。」

「それも踏まえて、先生のところに行こうと思ってるの。」

「先生?」

「あの特殊な弾丸を作ってくれた人。私の銃の先生なの。射撃は下手だけど。」

「なんだその矛盾は。なんでそれで先生なんだ。」

「だってそう呼べって言うから仕方なく。」

「付く人は選ぼうな。で、どこにいるんだその先生は。」

「アメリカよ。ニューハンプシャーに住んでるの。」

「今度はアメリカかよ。そのうちまじで世界一周するぞ。」

「仕方無いでしょ、他に宛が無いんだから。てゆーか多分あの人以外にこの球の扱いを出来る人がいない気がする。それに今までの経緯も話しときたいしね。」

「ここからアメリカなら二つくらい乗り継がなきゃいけないかもね。時差もあるし少し大変かもしれないわよ。まあ若いんだから多少の苦労は気にならないでしょうけど。」

「新田さん、色々有難う御座いました。失礼になるかもしれませんがこれはお礼です。」

「いいのよ、そんな事。仕舞っておきなさい、若いんだから。」

それに、と彼女は少し嬉しそうに、だが伏せ見がちにぽつりと呟く。

「亡き父に触れた気がしたの。貴方達にはまだわからない感覚でしょうけど。」














「行方はつかめた?」

「今はカイロにいそうだがまた移動しそうだ。」

「落ち着きの無い人たちねぇ。」

「まったくだ。居場所がわかった途端、別の場所に向かう。こちらの動きを察して逃げてると勘ぐりたくなるよ。」

「でも目的があって移動してるのよね?」

「何かを探して見つけまた違う物を探しているようだね。まるでゲームでもしているみたいな行動だよ。」

そうね、と含み笑いをするがそもそも前提が違うのはわかっている。ゲームが現実を元に作られたのだから。へティカルの遺伝子が根強く残る日本人がゲームや虚構に特化したのはそれが原因なのかもしれない。

「それにしてもなかなかに面白い組み合わせの連中だね。」

「そうなの?」

「素性をね、ちょっと調べさせた。信頼出来るかの判断材料にしようとおもってね。」

「もう!またそうやって私に内緒で変なことするんだから!」

「ユリウスだって気にはなっていたんだろう?」

「そうだけど、そうじゃないの。危ない事や汚いことをするときは私にも言ってほしいの。コーちゃんだけ汚れていくのは嫌なの。」

「わかったよお姫様、今度からそうするさ。」

「毎回そればかりで全然約束守らないじゃない!この前だって・・・」

暫く説教が続きそうだったのでコーネリアはユリウスの顔の前に厚みのあるA4サイズの封筒を差し出した。

「まあ見てみなよ。特に面白いのは榊って男だ。中世の頃のちょっとした英雄譚のようだよ。詩人が謳っていたようなね。それと一人、気になる女性がいるね。どうやら『神』の代行者だよ。」

『神』の一言で赤い瞳は見開かれる。封筒をそっと受け取り中の書類を引き出す。ざっと60枚はありそうな調査報告書がそこにはあった。

「英語?」

「まああの国の捜査官に調べてもらったからね。」

「それに『神』の代行者って全員隔離されているはずでしょ?あの人たちに自由は与えられていないはずよ。」

「若くはない十年ぶりの新人に神の代行者、破壊者から唯一生存出来た女性に閉ざされた世界から来た少女。初期の魔術で絶大な威力を発揮させる神の代行者の護衛の二人。何とも奇妙な組み合わせだよ。」

「そんな人たちが私達の話を聞いてくれるのかしら?」

「可能性はあるんじゃないかな?神の代行者が自由に出歩いている事を考えるとへティカルの組織とあまり接触していないのかもしれない。」

それに、と彼女は続けるが言わんとすることは分かっている。神の代行者が手助けしてくれるのならこちらの願いに希望がもてる。何よりユリウスが見ている報告書に書かれた一文に彼女は期待してしまった。


『榊宗司が持つ剣について今のところ未確定だがおそらく神代以前の可能性がある』

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