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雪だるまの奇跡

作者: *雅*

短編とはいえ、長めなお話です

少しでも、切なさと家族愛を描けていればと思います。

【雪だるまの中に、大切な物を入れて作り、願いを込めると叶う】

 

マリアは幼なじみのアルトから、そんな伝説があると聞き、学校からの帰り道、足を止めた。


 「本当に?」


 「感想文の宿題の時、図書館の古い本で読んだんだ。でも、10年間この街に住んでるけど、今までそんな噂、聞いたことないよなー」

 

 2人が住む街は、雪が多く降る地域だ。

 雪が降れば雪玉を作ったり、雪にダイブしてフワフワで冷たい雪を堪能したり、もちろん雪だるまだって過去には何回も作ってきた。


 「その本って、嘘や作り話じゃない?」


 「やっぱりそうなのかなー。俺、試してみようかな!母さんが、今日は大雪が振るって言ってたし!」


 アルトは薄暗くなりつつある空を見上げ、腕を組む。


 「願い事、何にしようかなぁ。やっぱり新しいオモチャをくださいかな!マリアは?」


 「…私は…ママに会いたい…かな」


 アルトは表情を暗くするマリアに、慌てて話を変える。

 マリアの母は1年前に病気で他界したのだ。

 それからマリアはあまり笑わなくなった。  

 

 「あ!そうだ、今日おつかい頼まれてたんだった!」


 あははと苦笑いするアルトに、マリアは少し微笑み


 「じゃあ、早く帰らなきゃね」


 忘れてたと頭を抱えるアルトにマリアはクスリと笑う。

 だが、マリアの頭にずっと浮かび続けていたのはアルトが教えてくれた、雪だるまの伝説だった。



 ガチャ


 「パパ、ただいま」


 家に入ると父はマリアを優しく抱きしめた。


 「おかえり、マリア。ちょっと遅かったんじゃないか?」


 娘を心配そうな顔で見つめる父。

 マリアは父の頬にキスをして、離れる。


 「学校でアルトの勉強に付き合ってたの」

 

 「こんなに遅くなるなら、迎えに行ったのに」


 「大丈夫!アルトと一緒だったし、もう10歳よ?」

 

 少し過保護な父にマリアは微笑む。

 父は眉をハの字にしている。


 パパは心から心配しているんだ。

 私まで、ママみたいにいなくならないかって。


 「パパ!今日の夕飯は何?」


 鍋の蓋がコトコトと音をたてている。

 父が蓋を開けると部屋中に広がるいい香り。


 「今日は新鮮採れたて冬野菜のシチューだよ」


 得意気にシチューを皿によそう父に、安堵したらマリアのお腹がグゥっと音をたてた。


 「おや。マリア、さぁ食べようか」



 夕飯の後、お風呂に入り、ベッドに潜り込む。

 窓をチラリと見ると雪が降っていた。

 マリアがお風呂に入っている間にかなり降り積もっていたようだ。


【雪だるまの中に、大切な物を入れて作り、願いを込めると叶う】


 アルトが言っていた言葉は、ずっと頭の中を巡っていた。


 マリアは傍の窓を開け、ちょうど手を伸ばせば届く距離まで積もった雪に触れる。


 「もし、あの話が本当なら…」


 マリアはベッドから出て、宝物を入れる小さなオルゴールの中から、母の形見の指輪を取り出した。


 小さな赤い石が付いた綺麗な銀の指輪。

 マリアの小さな手で強く握りしめ、窓に近づくと、冷たい雪に指輪を入れて素手で握り固めていく。


 「ママに会いたい…ママに会いたい!」


 しだいに小さな雪だるまが出来た。

マリアは手を霜焼けで赤くしながらも、雪だるまに願い続けた。


 「お願いします!もう1度ママに会わせてください!」


 夜空には雪が振り続けているにも関わらず、星がひとつ流れた。


 「……何も起きない……やっぱり嘘……だったんだ。」


 マリアは窓を閉め、作った雪だるまを窓辺に置いて、泣きながら眠りについた。



 カチャ カチャ


 温かくて優しいスープの香りがする。

 マリアは目を開けると、もう朝になっていた。

 窓を見ると置いてあった雪だるまは指輪ごと無くなっていた。


 「指輪が…ママの指輪が…!」


 ガチャ


 「パパ!ママの指輪が…」


 扉を開ける音に振り向くと、そこに居たのは父ではなく、綺麗なブロンドの長い髪、優しい微笑み…1年前に他界した母の姿だった。


 「マリア、おはよう。まだ早いわよ?ゼスもまだ寝ているし」


 ベッドに近づいてくる母は優しくマリアの頬を撫でる。

 その手には赤い石が付いた綺麗な銀の指輪がはめられていた。


 「…マ…マ…?」


 「マリア、ママが見える?私はマリアに触れられるし、料理も作れた…これは本当に奇跡ね」


 マリアは温かく懐かしい母の姿に抱きつき、泣いた。

 その声に飛び起きた父も、そこにいる愛しい妻の姿に驚くも、1年前と変わらない姿に涙を流しながら抱きしめた。


 

 リビングのテーブルを1年ぶりに3人で顔をあわせて囲む。

 

 「ママ、どうして?私が雪だるまに願ったから?」

 

 父は何事かと言う顔をしていた。


 「そうよ。マリアが私の事を願ってくれたから、神様が1日だけ…日付が変わる午前0時までは家族で過ごすことを許してくれたの」

 

 父と娘は1日と言う言葉に固まった。

 1日だけの奇跡。

 神様からのプレゼント。

 ならば、ありがたく受け取り、短い時間でも家族3人で居たい。

 

 「マリア、今日は学校は休みだ!久しぶりに3人で過ごそう!」

 

 父はバタバタと学校への連絡をしに、走り出した。

 

 「ゼスも変わらないわね。ふふっ…本当にまた3人で過ごせるなんて」

 

 父の背中を見つめる母の顔は本当に嬉しそうで、マリアも心温かくなっていくのを感じた。

  

 その日は学校も休み、1年ぶりに家族3人で家の中で過ごした。

 

 今までの生活のこと、過保護すぎる父のこと、マリアが学校ですごく頑張って居ることを、セレナは全てを知っていた。

 

 「私はずっと2人を見守っていたからね。ゼス、あなたちょっと過保護すぎるわよ。マリアだって、もっと遊びたいでしょうに」

 

 父は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 マリアは母に抱きついて離れないまま、ずっと母の顔を見つめていた。

 

 「ママ、パパは私を心配してくれてるから…」

 

 「わかっているわ、でもアルトくんにヤキモチを妬くのはどうかしらね?」

 

 「うっ……!」


 小さく声をあげる父。

 図星をつかれたと言わんばかりの顔だ。

 

 「パパ、アルトは友達よ?」

 

 「本当かい?」

 

 「ちょっとゼス、そんなに身を乗り出さなくても」


 クスリと、誰からともなく笑いがこぼれた。

 懐かしい、1年前のような温かい雰囲気が家中を包みこんでいた。


 「マリア、そろそろご飯を食べましょう?」

 セレナは愛しい娘の髪を撫でながら微笑む。

 

 グゥっと昨日のようにマリアのお腹が鳴ったら、また優しい笑いが起こった。

 

 

 久しぶりの母の手料理は本当に美味しくて、いつもよりいっぱい食べるマリアの姿に、少し肩を落とす父。

 

 「あ、ゼスに渡したいものがあるのよ」

 

 母はキッチンの上の棚からノートを数冊持ってきた。

 

 「これは私のレシピよ。あなたが料理を頑張っているのは知っているけれど、時々マリアに作ってあげて」

 

 「このノートはずっとあったのかい?知らなかった…」

 

 「私の秘伝のレシピよ!」

 

 ウインクをしながら、父にノートを渡す。

 

 

 外に出ることは出来なかった。

 1日とはいえ、ご近所に母の姿を見られるわけにはいけなかったからだ。

 

 母はマリアに色々と話をしてくれた。

 父との出会い、マリアが生まれた日のこと、初めて抱きしめたマリアを泣きながら一生守ると言っていたこと。

  

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 夜は3人でキッチンに立ち、3人で料理をして、3人で一緒に夕飯を食べる。

 1年前まで当たり前だった時間が、本当に幸せだった。

 

 「マリア、一緒にお風呂に入りましょう」

 

 髪を洗ってくれる母。

 母の背中を流すマリア。

 

 父も入りたいと言い出したが、2人で断固拒否した時のあの表情を、マリアは忘れないだろう。

 

 お風呂からあがり、髪を乾かしてもらう間もマリアは母にべったりと抱きついていた。

 

 「ちょっと、トイレに行ってくる」

 

 マリアが離れたと思えば、次はゼスがセレナを抱きしめる。

 

 「ゼス、先に逝ってしまって、ごめんなさいね」

 

 「セレナ……愛してる。今までもこれからもだ」

 

 「……ありがとう。でも、良い人が現れたら、その人を家族に迎えて?あなたのためにも、マリアのためにも」

 

 ゼスは無言でセレナを強く抱きしめた。

 バタバタと足音が聞こえ、ゼスは力をゆるめる。

 

 「あ!パパずるい!私もママに抱きつく!」

 

 板挟み状態のセレナは優しい微笑みを浮かべた。

 

 

 カチカチ……カチカチ……

 

 23時30分。

 神様がくれた時間は、もうすぐ終わりを告げる。


 今日は父のベッドで家族3人で眠ることにした。

 

 「さぁ、寝ましょうか」

 

 2人はセレナを挟んで川の字になりセレナの手を片方ずつ握りしめた。

 

 「ママ、もうちょっとで、またいなくなっちゃうの?」

 

 マリアの不安そうな顔、隣を見ればゼスも同じ顔をしていて、マリアと同じ考えをしているとわかった。

 

 「さすが親子、同じ顔をしているわね。でも大丈夫よ。神様からの時間はもうすぐだけれど、私は姿が消えるだけ。2人の傍に居て見守っていることには変わらないわ」

 

 ゼスは妻の頬にキスをした。

 マリアは母にぎゅっと抱きついた。

 

 『離れたくない』

 

 3人が、その思いだった。


 カチカチ…カチカチ…ゴーン

 

 午前0時を告げる時計の音が家中に響き渡った。

 

 その瞬間、2人は急な強い眠気に襲われ、瞼を閉じていた。

 

 「愛しているわ…2人とも……」

 

 セレナを淡い光が包むと、スゥーっと体が透けて溶けていく感覚だった。

 

 


 カチカチ…カチカチ…ゴーン

 

 時計の音に、ハッと目を覚ました2人は、間に居たはずのセレナがいないことに顔を見合わせた。

 

 セレナが寝ていた場所は雪が溶けたような水跡がり、形見の赤い石が付いた綺麗な銀の指輪がひとつ残っていた。

 

 「ママ……ママ!」

 

 「セレナ……!」

 

 2人は抱きしめあい、涙を流し続けた。

 

 

 着替えもしないまま部屋を出てリビングに向かう。

 リビングからキッチンを見つめてみても誰もいない。

 

 「……マリア、朝ごはん食べようか」

 

 「……うん」


 ふとテーブルを見ると、そこには1枚の手紙が置いてあった。

 

 「これは……!」

 

 まぎれもないセレナの字で書かれていた。

 

 

【愛しい2人へ

 

 まさか、また2人と過ごせる日が来るとは思っていませんでした。

 神様に感謝しなくちゃね。

 

 ゼスは私が居なくなってから、私の分までマリアを見てくれる為に、農家に転職したこと。

 マリアを今まで大切に育ててくれたこと、本当に感謝しています。

 ずっと守っていてくれて本当にありがとう。

 

 マリア、もっとパパに甘えて良いのよ?

 泣いても良いのよ?

 無理しなくて良いの。

 私の分までパパはあなたを支えて守ってくれるわ。

 

 雪だるまの伝説の話は、アルトくんがマリアの笑顔が見たいと、マリアのために、必死に調べた話です。

 マリア、アルトくんにお礼を言ってね?

 

 短い時間だったけれど2人と過ごせて本当に幸せでした。

 ずっと、2人を見守っているからね。


 愛しい愛しい私の家族、どうかこれからも仲良くね。

 

 私は2人に出会えて幸せな人生でした。

 ありがとう。愛しているわ】

 

 

 2人は手紙を見て泣いてしまった。

 

 セレナは昨日、本当にいた。

 夢じゃなかった…。

 

 2人は抱きしめあって、たくさん泣いた。

 でも、それは悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙だった。

 

 笑って生きていこう。

 だって、愛しい母が傍で見守ってくれているのだから。


 2人は不思議な温かさに包まれていた。

 まるでセレナが2人を抱きしめているかのようだった。

 

 

 「おはよう!アルト」

 

 「マリア!風邪は大丈夫なのか?」

 

 「うん、もう大丈夫!」

 

 次の日、マリアはアルトと共に、学校へ行く。

 たわいもない話をしていつものように笑う。


 「ねぇ、アルト。雪だるまの話、試したの?」


 「いや、しなかった」


 「あの話、本当だったよ…アルト、調べてくれて本当に本当にありがとう!」


 目を丸くしているアルトに、マリアは心からの笑顔を向けた。

長い長いお話になってしまいました…。

今更ながらわけて書けば良かったと思います…


貴重なお時間をありがとうございました

お目汚し失礼いたしました。

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