;世話役
姫様の発病の報せは、瞬く間に城中へと広まっていった。
それは大きな波紋を生み、誤解を呼び、彼女を孤立させるまで、そう時間はかからなかった。
ある者は彼女を蔑み、ある者は彼女を哀れみ、
追いやった彼女へ向かって、卑しく後ろ指を差す。
一人、また一人と、感染を恐れた某が、彼女のもとを去っていく。
気付けば、私を除いて誰一人、彼女の周りに居なくなっていた。
つい先日まで、我先にと厚誼を望み、あわよくば御零れに与ろうと、媚びへつらっていたくせをして。
今や掌を返すように、彼女を煙たがる始末。
まるで黴菌扱い。
お門違いな憶測や、心ない誹謗の数々に、どれほど彼女は傷付けられたことだろう。
それでも、彼女は冷静だった。
自らの運命を真摯に受け止め、いずれ来たるその未来、その時から、決して目を逸らさなかった。
いっそ暴れてほしかった。
もっと憤って、泣いて喚いて、彼女の中で燻っている全てを、私にぶつけてほしかった。
しかし、彼女はそうしなかった。してくださらなかった。
彼女が私にかけてくれるのは、いつだって、八つ当たりの言葉などではなかった。
"────わたしの側にいたら、サイまで病気にさせてしまうわ"。
何度も謝って、何度も私を遠ざけようとした。
自分と関わると、不幸になる。
みんなの反応は、とても自然なことだと。
"だからサイ、あなたも、わたしから離れて"。
疲れた顔で訴え、熱っぽい手で私の背を押す。
弱音を吐かず、涙を流さず、決死の覚悟で孤独を貫こうとする。
"わたしのためを思ってくれるなら、どうか。
わたしを、今日に置いていって────"。
私は思った。この人を、孤独にさせてはならないと。
あの日誓った。この先なにがあろうとも、最後までこの人を守り抜くと。
さすがに、最後と最期が同時とは。
こんなに早くに迫られることになろうとは、予想しなかったけれど。
私は彼女から、貴女から離れない。
貴女がどう生き、どう儚むとも。
貴女の最初で最後の命令に、私は背きます。
「雪竹城庭番、第九席・唯桜姫つき世話役、玉月才蔵。
ここに────」
そして、病の発覚から五日後。
上様の命により、私は、姫様の世話役の任を解かれた。
『雨降り花』