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現し世は桜花の化身  作者: 和達譲
;サイ編 桜花の章
40/75

;世話役



姫様の発病の報せは、瞬く間に城中へと広まっていった。

それは大きな波紋を生み、誤解を呼び、彼女を孤立させるまで、そう時間はかからなかった。



ある者は彼女を蔑み、ある者は彼女を哀れみ、

追いやった彼女へ向かって、卑しく後ろ指を差す。


一人、また一人と、感染を恐れた某が、彼女のもとを去っていく。

気付けば、私を除いて誰一人、彼女の周りに居なくなっていた。



つい先日まで、我先にと厚誼を望み、あわよくば御零れに与ろうと、媚びへつらっていたくせをして。

今や掌を返すように、彼女を煙たがる始末。


まるで黴菌扱い。

お門違いな憶測や、心ない誹謗の数々に、どれほど彼女は傷付けられたことだろう。



それでも、彼女は冷静だった。

自らの運命を真摯に受け止め、いずれ来たるその未来、その時から、決して目を逸らさなかった。



いっそ暴れてほしかった。

もっと憤って、泣いて喚いて、彼女の中で燻っている全てを、私にぶつけてほしかった。


しかし、彼女はそうしなかった。してくださらなかった。

彼女が私にかけてくれるのは、いつだって、八つ当たりの言葉などではなかった。




"────わたしの側にいたら、サイまで病気にさせてしまうわ"。




何度も謝って、何度も私を遠ざけようとした。


自分と関わると、不幸になる。

みんなの反応は、とても自然なことだと。




"だからサイ、あなたも、わたしから離れて"。




疲れた顔で訴え、熱っぽい手で私の背を押す。

弱音を吐かず、涙を流さず、決死の覚悟で孤独を貫こうとする。




"わたしのためを思ってくれるなら、どうか。

わたしを、今日に置いていって────"。




私は思った。この人を、孤独にさせてはならないと。

あの日誓った。この先なにがあろうとも、最後までこの人を守り抜くと。


さすがに、最後と最期が同時とは。

こんなに早くに迫られることになろうとは、予想しなかったけれど。


私は彼女から、貴女から離れない。

貴女がどう生き、どう儚むとも。

貴女の最初で最後の命令に、私は背きます。





「雪竹城庭番、第九席・唯桜姫つき世話役、玉月才蔵。

ここに────」




そして、病の発覚から五日後。

上様の命により、私は、姫様の世話役の任を解かれた。






あめばな



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