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それだけを望む   作者: 二尾 二穂
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1-5

 目の前を、沢山の虫が飛んでいる。


 ときどき私の体にも纏わりつくが、気にしていては作業が遅々として進まない。

 飛び交う虫には幼少期に慣れているし、無視して指導されたとおりに枯れかけやひどい虫食いといった葉っぱをちぎっては麻袋の中に入れていく。


 私の通う学校は、生徒のボランティアや慈善チャリティー活動も重視している。

 将来は社会的地位が高くなる傾向にある生徒が、積極的に社会に関心を持ち、その地位に応じた振る舞いを身につけることを目的としており、定期的に学校を上げてそういった活動が行われる。

 その結果、学校近くの大きなパーティー会場やコンサートホールがある施設の庭園で、私は庭師の真似事をしていた。


 学校御用達(ごようたし)のこの場所で、3日後には学校主催のチャリティーコンサートが開かれる。


 幼い頃から音楽に親しんでいる生徒も多く、そういった生徒たちの実力は音楽の才能を持つ生徒ではなく、また音楽学校でもないくせにかなりの水準にある。

 私は楽器と触れ合った記憶が一切といってよいほどない人間であるため、演奏者側には回れない。よって、会場係のひとつである庭園の整備に回された。

 しばらく作業をしていて、気づくと袋の4分の3ほどを枯れかけやひどい虫食いの葉が占めていた。


 一度、収集場所に戻ろうか、と袋の口を縛ろうとしたとき、袋の中から私の掌の半分ほどもある大きな蜘蛛が飛び出して私の体を這い回ろうとした。


 何かを思うより先に、反射的にそれを手で払って、飛んでいくはずの方向を見た。

 けれど、手を払ったとき当たった感触はしなかった。

 だから、いくらその方向を見ても蜘蛛は存在しない。


 でも代わりに、怪訝そうな顔をしたグレアムの姿がそこにあった。


「どうかしたの?」

「虫」


 私の行動の意味が分からなかったらしいグレアムの問いに、端的に答える。


「へえ、ちょっと季節外れだけど庭だしね」

「あなたこそ、こっちに何の用?演奏担当なのに」

「頭冷やしに来たんだよ。演奏ホールの空調はき過ぎてて逆に暑い」

「そう。遅れないようにね」


 今度こそ麻袋の口をきちんと縛って、運ぼうと歩き出す。


「貸して」


 グレアムが近づいて来たと思ったら、私の手から袋が奪われた。


「どこに持っていくんだ?」

「自分で持っていくわよ」

「質問の答えになってない」

「噴水のところ」


 答えると、グレアムは袋を奪ったまま歩き出す。

 袋はまた私が使うので、自然とグレアムの後をついていくことになる。

 足の長さが違うため、グレアムと私の距離は縮まるどころか離れていく。


 自然と目に入った彼の背に、先ほど私が見たのと同じ大きさの蜘蛛が現れた。


 それを見て、私は何もしなかった。


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