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それだけを望む   作者: 二尾 二穂
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1-4

 相変わらず体調は良くない。

 こんな生活を選んだのだから良くなるはずもない。

 悪化していく一途であることを冷静に予測しながら、チェスの駒を一つ動かす。


 盤上遊戯ボードゲームをしている暇があるなら、PCのキーの上で手を動かしている方が生産性もあるのだが、挑んできた相手が私にとっての重要人物キーパーソンであるなら、相手をしない選択肢は私の中に存在しない。

 今朝、前に研究会を通じて知り合った技術者の一人から相談を受けたプログラム上の問題について解決策になるかもしれないことをあれこれ考えながら、拮抗きっこうしていた試合ゲームノワール優勢へと傾いていく様を無感動に見つめる。

 

 グレアムがブラン。黒は私だ。


「君のチェックメイトだよ。ベリンダ。今のところ、全戦全勝のお気持ちは?」


 あと5手もすればどんなに足掻いても自分が負けると予想したのか、グレアムのほうからゲーム終了の言葉コールがかかる。

 秀麗な顔に皮肉気な薄い笑みを浮かべて問われた言葉に、正直に返す。


「あなたに認めてもらえるのはいつかってことだけね。それ以外に、ただのゲームに何の感情を抱くというの?」

「僕としては、どうして君のようなつまらない人間を認めなければならないのかをいつも考えているよ」

「私にはその権利があるからよ」

「でも、僕にその義務はない」


 平行線の、いつものやり取り。


「早く諦めて、私を彼に会わせて」

「早く諦めて、僕たちの生活を脅かすのをやめてくれないか?」


 その言葉が、心からのものであることはよくわかる。しかし、


「無理よ。私は、さいごまで諦めない」

「狂人は、始末におえないね」


 グレアムは半分あきらめたような呟きとともに立ち上がって私の横を通り過ぎる。

 すれ違いざま『死ねばいいのに』と低い囁きが耳元にハッキリと届いた。


 けれど、私は振り返らない。

 顔色ひとつ変えることなく、囁き声の意味を理解する。

 理解して、何もしない。


 それが、私が取るべき正しい態度。


(まだ、平気。大丈夫)


 なのにその言葉は、それからしばらく、いつまでもいつまでも私の頭の中に響いていた。

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