客の少ない喫茶店
久々に連載小説を書いて投稿。
誤字等は見つけ次第報告頂けると嬉しいです。
日常系ほのぼの推理コメディーを目指しています。
推理と言っても重い犯罪、殺人事件等は書かないと思います。
日常系ほのぼの推理コメディーを目指しているので。(大事な事なのでry
一話は主人公を紹介するお話です。
積もる雪はまるで白い絨毯のように辺りを染め。
泥で汚れようとも空から舞い散る雪は何事も無かったようにまた地面を染め上げる。
そんな二月前半の日曜日。
行きつけの喫茶店で僕は一人頭を抱えていた。
「クビになった……」
沢山のバイトを掛け持ちしていた僕は疲れからかとあるバイトでミスを犯しそのバイトをクビになった。
給料が良かった分、普通に辛い。
「またですか……」
落ち込んでいると一人の少女が声を掛けてくる。
この喫茶店、ルアの店員である立花 雪だ。
高校時代からの付き合いであり友人だ。
雪の父親がマスターを務める喫茶店 ルアで店員をしている大学生には見えない小柄な少女だ。
黒髪のショートカットで無表情の良く言うとクール 悪く言うと愛嬌のないそんな少女だ。
「またとは失礼だな 三回目だ」
雪に心外とばかりに反論する。
「ここ二週間で三回目でしょう?」
「うっ」
そう僕は二週間で三回もアルバイトをクビになっている。
ファミリーレストラン、ゲームセンター、居酒屋。
ファミリーレストランでは皿を一日で六枚も割りゲームセンターではUFOキャッチャーの鍵を閉め忘れ盗難、居酒屋ではお客さんの頭へビールをぶっ掛けた。
「呆れました まさかそんな事をしていたとは……」
「一回目は眠くて意識が朦朧としていて二回目も眠くて三回目は……」
「ああ、もういいです どうせ眠くて頭が流し台に見えたとでも言うんでしょ?」
「なんで分かったし……」
「図星ですか 本当に馬鹿ですね」
雪の呆れたようなその言葉に僕はぐうの音も出ないと言ったように机に伏す。
「あと幾つバイトをしているんですか?」
「すりー」
「三!?」
間抜けた声で返事をすると雪が驚きのあまり大声を出した。
耳元で叫ばないで欲しい……まあ、確かにバイトを三つ……いや、前までは六つか そんなに掛け持ちするのは流石におかしいのだろう。
「いつ寝てるんですか……?」
「大丈夫大丈夫 毎日きっちり三時間は寝てるから」
そんな僕の言葉に雪は溜息を吐いた。
「少しこちらへ」
何を思ったのか雪は僕の腕を引っ張って行く。
「ちょっ待って痛い痛いそんなに強く引っ張らないでよ」
制止の声も聞かず雪は腕を引いて行くどうやら奥の休憩室に向かっているようだ。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないです 店に来たって事は今日は休みなのでしょ?」
「ま、まあそうだけど」
「じゃあ少し休んで下さい 早死しますよ」
そんな雪の言葉に大袈裟だなあと手を広げる。
「いいからここで少し寝てて下さい! 抜け出したりしたら今後一切この店の出入りを禁止します」
「え……?それは困るんだけど」
「自業自得です 休んでて下さい」
不味い事になった。
そんな事を思いながら室内を見回す。
剣幕に押され言い出せなかったが実はこの後もシフトが入っている。
だがここで抜け出せば出禁になる。
僕にとってそれは非常に不味い。
この喫茶店ルアは僕の唯一の憩いの場だ。
客は常連客が大半でいつも店には数人しか居ない。
それで店をやって行けるのかと思う事もあるが昔からそうだったし多分、大丈夫なんだろうな。
暖房の効いた部屋は暖かく直ぐに寝てしまいそうだ。
「こんちわっす」
急に後ろの扉が開いた、
視線を動かし扉の方を見ると茶髪の少女が立っている。
活発そうな高校生ぐらいの少女だ バイトだろうか。
「ひっ」
少女を見ると何故か怯えられた……。
「あ、あの誰っすか?」
「立花さんの友人で監禁された身」
「えっと……」
凄い困惑しているようだけど僕も凄い困惑している。
雪の奴も言っといて欲しい。
「説明するのが面倒くさいから立花さんに聞いてよ」
そう言うとそそくさと少女が出て行く。
我ながら凄い塩対応だと思うが疲れているんだ許して欲しい 少女には悪いが。
「失礼します」
ノックをして雪の奴が入ってきた 隣には少女が雪の腕にしがみついてる。
「あのー、バイトの子を怖がらせないでくれませんか?不審者さん」
「うん あの対応は無かったなと反省はしている……ん?ちょっと待って不審者さんって何さ?」
「いや、この子がそう呼んでいたので、良いネーミングセンスしてると思いますよ?」
「酷いなあ……」
「あ、あのこの人は?」
少女が雪と僕を不思議そうに見ながらそう尋ねる。
「ああ、この馬鹿っぽい人は最上 夕と言って貴方が通っている高校のミステリー部の副部長だった人です 因みに部長は私です」
少女が困惑した表情で雪を見る。
まあ、生徒会長とかだと凄いとなるけどミステリー部というパッとしない部活の部長と副部長と言われてもどういう顔をしていいのか分からないんだろうな。
実際、僕もどういう顔をしていいのか分からない。
「最上さんですか?立花さんとはどういう関係なんですか?」
さっきまでの怯えた様子はもう無く興奮した様子で詰め寄ってきた。
好奇心を隠せないと言っているようなそんな目をしている。
まあ、恋だ愛だの騒ぐ青春真っ盛りの時期だししょうがないのだろう。
僕も昔は男女が仲良くしていると顔を突っ込みたくなる病気を患っていた。
「ッツ!」
「つ?」
雪が思いっきり僕の足を踏んでいる。
的確に指だけを狙って踏んでくるので凄く痛い。
余計な事を言うなと言うことなんだろうけどそんな事をされたら余計言いたくなる……。
「特に何もないよ」
だが雪から伝わってくる殺意に僕は言うのを止めた。
流石にふざけて命を散らしたくはない。
本当っすか?と少女が言ってくるが何か言った瞬間首が飛びそうなので本当だよと笑いながら返す。
「じゃあ立花さんと最上さんはどう言った関係なんすか?」
その言葉に雪と顔を見合わせる。
残念ながらその質問にはこう答えると僕達は決めているのだ。
「「友人」」
「声を揃えて言う辺りとても怪しいっす 知ってますかお二方男女の間に友情は成立しないんですよ」
「まあ、高校時代に色々あったんだよ」
「むむっ何か事情がありそうですね これは新聞部として知っておきたいです」
少女の目がまた好奇心に染まる。
この手の人間はとても面倒くさい。
「あ、そう言えば名前を聞いてなかったね」
我ながら露骨な話題逸らしである。
流石にこんなので騙されるわけが……。
「そう言えばそうでしたね 私の名前は黒田 優香です 友達と一緒にこの店でアルバイトをさせて貰っています!」
「黒田さんね じゃあ僕はそろそろ帰るからじゃあね」
騙されてくれた。
話題も逸らせて自然に帰れる。
完璧じゃないか……。
今日、バイトに遅れると迷惑かけるしね 思ったより早くこの監獄から脱出出来たのは嬉しい。
脱出出来るのは黒田さんのおかげだし足を向けて眠れないね。
「ちょっと待って下さい 何自然に帰ろうとしているんですか?」
隣の魔王さまに肩を掴まれた。
肩から鳴っちゃ駄目な音が鳴っている気がする。
「えっと……」
「今日は休みなんですよね?」
「あの」
「休みなんですよね?」
鬼だ……鬼が居られる。
雪は最初から僕の嘘を見抜いてたんだろうか。
雪の射抜くような視線に僕はこう答えるしか無かった。
「休みじゃないです……」
そう言うと雪は大きく溜息をつく。
「最初からそう言えばいいのに変に嘘をつくから余計に怒られるんですよ」
「はい」
ぐうの音も出ません。
「でもバイト仲間の方に迷惑を掛けるのもあれですね 何時からですか?」
「え?」
「シフトは何時から入っているんですか?」
「六時からだけど」
「あと一時間ちょっとですか?距離は?」
「ここから原付きで十分ぐらい」
「分かりました じゃあ三十分だけ寝て下さい」
「え?」
「だから私が三十分後に起こしますから今直ぐ寝て下さい 隈が凄いですし少し寝ればマシになるでしょう」
雪が有無も言わさないと言った声色でそう言ってくる。
確かに少し眠いのは確かだけど今直ぐ寝ろと言われてもな。
「分かりましたか?」
「はい」
雪の凍えるような視線に兵士のように敬礼しながら答える。
「そうですか 毛布を持ってくるのでここで少し寝てて下さい 起こしますので」
どうやら魔王さまには従わないと駄目なようだ。
起こしてくれるらしいし少し寝るのもありだな。
まあ、心配してくれる女の子が居るってのは男として嬉しい事なんだろうけど。
ああ……本格的に眠くなってきた。
目を閉じる。
今すぐ寝落ちてしまいそうだ。
「おやすみ雪」
「はい おやすみなさい 夕」
「……絶対付き合ってるっすよ」
最後のは聞こえなかった事にしといてやる……。
夕が何故、あんなにバイトをしているのかは後々語られる予定です。
余談ですが苗字は戦国大名から取らせてもらっています。
寝れなかったのでこんな夜中に投稿……。