出席番号5番 オオタ タロウ / 出席番号6番 オガワ ナオト
ホンダは、オオタの実家に同窓会の招待状を送った。
しかし、招待状は郵便局から戻ってきた。
中学を卒業して1年後にオオタの住んでいたアパートは取り壊され、その場所は現在コインパーキングになっている。
ホンダは、知り得る限りに連絡を取ったが、オオタの連絡先を知る者は見つからなかった。
結局、オオタのところに招待状は届かなかったため、オオタは欠席となった。
~出席番号6番 オガワ ナオト~
オガワの父親は、病院の医院長で、オガワはいわゆるボンボンというヤツだった。
小さい頃から甘やかされて育ったオガワの頭は、お金を積んでも医学部に入れないレベルだった。
そのため、医者になることをオガワ本人も親も諦めていた。
何とか3流大学を卒業したオガワは、経営者として父親の病院の跡を継ぐためのレールに乗せられているところだった。
小川は今、父親の病院の総務部で課長として働いている。
父親の病院で、総務部に部長以外の管理職が配属されるのは初めてのことで、これは息子のために父親が作った責任のない役職ポストだった。
そんなボンボンで頭の軽いオガワは、ホンダたちのパシリとして中学時代を過ごした。
いつも懐がホヤホヤのオガワにとって、金を使わされることは苦痛でなかった。
金で解決できる分、暴力によるイジメを受けないで済むのは、オガワにとってはラッキーなことだった。
それにホンダは、パシリとして使うだけでなく、自分の子分として認め、自分たち以外の者がオガワに手を出さないよう庇ってくれた。
サッカーの上手くないオガワを、ホンダは同じサッカー部として扱ってくれた。それがオガワにとっては嬉しかった。
中学校を卒業した後も、オガワはホンダと連絡を取っていた。
オガワには、役割があった。
ホンダの予定を伺い、仲の良かったメンバーを集め、ファミレスで食事をしてからカラオケという定番の親睦会を年に何回か開くことだ。
高校を卒業してからは、ファミレスが居酒屋に替わって続けられた。
大学を卒業し、ホンダが中学のときに同じクラスだったクドウと結婚すると、オガワはホンダに声をかけにくくなり、7年間続いていた親睦会が途切れた。
その親睦会が途切れて2年が経とうかという頃、ホンダと結婚したクドウが、ひとりでオガワの病院にやってきた。
それから、クドウとオガワは、何度か2人きりで会った。
オガワは、ホンダに黙っているのが辛かったので、そのことをクドウに告げた。
「リョウには、内緒にしてね。
いつか、私の口から打ち明けるまで絶対に秘密にして頂戴。
リョウの親友であるオガワくんだからこそ、信じているわ。」
そうクドウに言われてしまっては、オガワは素直に従うしかなかった。
こうして、オガワとクドウの秘密の関係が続いた。
始めは、月に1回程度だったが、次第にオガワとクドウが会う頻度は増えていった。
3ヶ月後には、オガワとクドウは毎週会うようになっていた。
オガワの病院は、駅から少し離れているが、中学校の学区内にあり、オガワとクドウが一緒にいる姿は、頻繁に知り合いに目撃されていた。
そのせいで、いろいろとよくない噂が流れていることを、オガワは察していた。
しかし、何の釈明もせず、その件についてオガワは、堅く口を閉ざして過ごしていた。
ホンダに隠し通せないような状況にまで発展したとき、クドウからホンダに真実を打ち明けたという報告があった。
クドウからの報告では、今後のことについても、ホンダと2人で話し合ったということだった。
しかし、その結論は出ていないらしい。
とりあえずの方針の下、時間だけが過ぎていく。
そんなある日、ホンダから同窓会の誘いがあった。
中学時代には、いろいろと楽しい思い出がある。
行きたいという気持ちがまず沸いたが、その後に他の参加者から、この噂の真相を尋ねられるのではないかという不安が沸いた。
だが、オガワは、この件に関する質問に対しては、一切答えないことを決意し、同窓会に参加することにした。
この同窓会に参加しない方がいいのではないかという考えは、当然あった。
しかし、この同窓会に秘められたホンダとクドウの意図を察すると、オガワは参加するべきだと強く感じたのだった。
オガワは、中学時代から変わらないホンダへの親愛の情を抱き、同窓会に参加していた。
オガワは、ホンダとイイヅカが、楽しそうに会話する姿を、少し離れた後ろから眺めつつ、クドウのことばかりを考えていた。
クドウは、ずっと後ろの方を歩いているようで、ここから姿は見えなかった。