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出席番号2番 アオキ マキ

アオキは、服飾系の専門学校を卒業した後、古着屋でバイトをしながら、デザイナーを夢見ている。


今は自分が作った服をバイト先の古着屋に並べてもらうのが精いっぱい。

でも、いずれは自分のブランドを立ち上げたいという野望を抱いていた。


しかし、とりあえずは、自分が作りたい服を自由に作れる環境に満足している。


あまりお金にはならないけど……。

売れるようにするために、自分の価値観を市場に合わせようとは思わない。


今のスタイルでのんびりと続けて、いずれ世間が認めてくれたらいいなと思っている。


そんなアオキは、旧友たちと久しぶりに会えることに心を躍らせていた。

同窓会の日がくるのが待ち遠しかった。

同窓会の前夜は、まるで遠足を前にした小学生のように、興奮してなかなか眠れなかった。


同窓会の当日。

何通りもの服を着て、鏡の前でチェックをした。

厳選した勝負服。

もちろん自分で作った服だ。


中学のクラスメイトに会うのに、余計な気を遣う必要は感じない。

だから、心置きなく、勝負服を選ぶ。

だから、世間一般には奇抜と評価されるのがわかっているスタイルでやってきた。


電車を降り、待ち合わせの場所となっている駅の改札を抜ける。


すぐに懐かしい顔を、いくつも見つけた。自然と頬が緩む。

集合時間の15分前だった。


改札を出てすぐのところに15人ほど集まっているが、そのほとんどが女子だ。

男子の参加者は少ないのだろうか。

それとも遅れているだけなのか。

そんなことを考えながらアオキは、手を振って旧友たちの方へ近づいていく。


すぐに向こうもアオキに気がつき、手を振り返してくる。


「すごい服ね。」


アオキは、後ろから声をかけられた。


後ろを振り返ると、アイザワ、マカベ、ワタナベの3人が並んで歩いていた。


どうやら同じ電車に乗っていたようだ。


成人式の日から会っていなかったが、みんなの顔を見て、すぐに誰かわかる。


懐かしさが、胸の中から溢れてくる。


みんなの姿をじっくりと観察する。

登山ということだからか、スカートの女子はいなかった。

もちろん制服で来ているのは男女ともにいない。

動きやすい服装で、靴もスニーカーがほとんどだった。


昔の雰囲気を醸し出しているのは……。

幹事のホンダと、当時ホンダとよく一緒にいたイイヅカ、オガワの3人だった。


中学時代は、3人ともサッカー部で、典型的な不良だった。

この日の3人の姿は、当時の面影を残していた。


3人とも、同じような姿をしている。

黒い髪はオールバックで、キッチリ固められている。

真っ白なズボンに下品な柄のシャツを着ている。

大きく開いたシャツの胸元には金のネックレスが光っていた。


3人とも、今では普通のサラリーマンである。

これは同窓会のために、あえて昔流行った不良ファッションでやってきたのだろうか。


それにしても、センスが無さすぎる。


アオキは、自分の服装も当時の印象と違わないだろうという自負があった。


しかし、旧友たちから、センスの欠片もない彼らと同類に見られているとしたら心外だ。


旧友たちの目が少し気になる。


 

中学時代からアオキは、奇抜なファッションセンスを持っていた。


内気な性格で、決して社交的ではなく、どちらかというと大人しい方だった。


しかし、ファッションとなると違った。


目立ちたいという欲求ではなく、自分の着たい服を着なければいけないというような使命感が自分の中にあった。


中学では、登校してから規定ジャージに着替えて過ごすのが一般的だった。

もちろん、ジャージは規定ジャージ以外認められていない。


アオキにはくすんだ赤色の規定ジャージは、耐えられないスタイルだった。


そこでアオキは、規定ジャージのアレンジをした。


わざと肘や膝の部分をヤスリで痛めると、着物の端切れで裏当てした。

破れた穴からカラフルな和柄がのぞく。

しばらくすると、それだけでは満足できず、端切れで肘当てやひざ当てを施した。

カラフルな和柄の主張が一気に高まった。


これを見て、他の女子たちが一斉にマネを始めた。


こうして学校中で肘当てや膝当てをするのが流行った。


当然、学校では問題となった。

ジャージの表側への加工は一切禁じられ、当て布は一斉に取り外された。


しかし、こんなことで大人しくダサい規定ジャージで我慢するアオキではなかった。


アオキは、いろいろなファッションスタイルを生んだ。


袖の内側に柄のある布を縫いつけて、折り返して見せるファッションは、再び流行を生んだ。


ジャージの上着をおもいっきりカスタムし、リバーシブル仕様にしたのは、中学時代の最高傑作だった。


さまざまなファッションスタイルを生んだアオキだが、どれも教師に見つかると禁止された。


しかし、始めは怒っていただけの教師の中から、だんだんとアオキの作品に理解を示してくれる教師が出てきた。


もちろん、それでも禁止はするのだが、アオキの作品に対して感心してくれ、次の作品を楽しみにしているような教師が出てきた。


特に美術の教師は、いろいろとアドバイスまでくれた。色の使い方については、この美術の教師の教えが基礎になっている。


クラスメイトの正直な評価と教師たちからの反響が面白く、アオキの創作意欲は果てることがなかった。


アオキがデザイナーになりたいと思った原点は、この中学時代にあった。



アオキたちは、幹事のホンダに着いたことを伝えた。


ついでに、あとどれぐらいの人数がくるのか確認する。

まだ10名以上来ていないということだった。

多くの男子たちが、社会人になっても時間にルーズなところは、変わっていないようだ。


女子が集まると、時間潰しの世間話には困らなかった。

久しぶりに会うと積もる話があり過ぎて困るぐらいだ。

内容は、誰が結婚したとか、その結婚式がどうだったと、身近な他人の話がほとんどである。


アオキは、自分がデザイナーの卵みたいなことをしていることを話した。

自分が着ている服も、自分が作った服だと説明し、いろいろと意見を聞いた。


クラスメイトたちは、相変わらず冷やかしやお世辞ではなく、率直な意見をくれる。

アオキも万人から認められるスタイルではないことを自覚している。

だからこそ、いろんな人の正直な評価が欲しいのだ。


ずっと会っていなかった友だちがほとんどだ。

しかし、中学時代の友だちとは不思議なもので、遠慮せずに意見を言い合える。


きっと、そこまで嘘が成熟していなかった頃の友だちだからだろう。

自然と当時のような気持ちで会話してしまう。


噂話も飽きてきたし、自分の服の話もできたので、アオキは話題を変えることにした。


「誰か最近面白いことなかったの。」


アオキは、みんなに尋ねた。

そろそろ、ここにいるみんなの話が聞きたかったのだ。


「面白いというか、すっごい腹の立つ話なのだけど、ちょっと聞いてよ。

 占いにいったらさ、とんでもなく勝手なこと言われちゃってさ。

 本当に頭にきちゃう。」

 

マカベが言う。


アイザワがマカベの耳元でささやいた。


「リン、ちょっとやめなさいよ。」


アイザワの声が漏れ聞こえてくる。

そんなことを言われると、気になってしまうのが人の性。


「何よ、何よ、気になるじゃない。それにしてもリンが占いって、なんか似合わないわね。そもそも、占いなんて気にするの。」


フルタが、面白そうに言う。


フルタは、中学時代は小さくて細くてお人形さんみたく可愛かった。

それが、卒業を前にして少し丸くなっていった。

今では、すっかりプクプク太って子豚のような可愛さになっている。

それでも、はっきりと物を言う口調は変わっていない。


「私だって乙女です。そんなこと言うと殴るわよ。」


マカベが、笑いながら拳を握って振り上げる。

周囲から笑いが起こる。


「それで、何て言われたのよ。」


フルタが、尋ねた。


「『同窓会で2人死ぬ』って。

 本当に信じられないでしょう。普通そんなこと言わないでしょう。

 どうせ嘘なら、白馬に乗った王子様が近い将来現れるでしょうとか、そういうことを言って欲しいわよね。」


マカベの言葉に、軽い笑いが起きた。


「リンに白馬の王子様は、絶対にないと思うけど、その占い師もひどいわね。

 それどこの占い師なの。」


フルタの質問に、マカベが答えると、何人かが聞いたことあると言う。

みんなが尋ねるので、そのときのことをマカベは少し詳しく話した。


どうやら有名な占い師だったらしい。

都内での活動はお忍びだったらしいが、それが当たると評判になり過ぎて取材がきて、実は大物政治家や有名人なども利用しているような占い師だったということが発覚し、そのせいで今は都内での営業はしていないらしい。

現在は、地方の代豪邸で、完全予約制の営業のみしかしていないという。


「ちょっと、気味が悪い。私帰ろうかな。」


スエマタが、ボソリと言う。


「たかが占いじゃない。

 それに同窓会と死は、直接の因果関係はないような感じだったわよ。

 そうだったわよね、アイ。」


「久しぶりに会った古き友人の中に、2つの死が見えるとかだったかしら。

 でも、助言ももらっているのよ。

 機会を大切にして精一杯楽しみなさいってね。」


マカベに突然話を振られ、一瞬戸惑ったアイザワが答える。


「それって、リンとアイが死なないとわかっているから言えることよね。

 2人死ぬってことは、無理心中とかもあるわけでしょう。

 それとも事件に巻き込まれるとか。私はやっぱり帰るわ。」


スエマタは、ヒステリーを起こしかけていた。


昔からスエマタには、情緒不安定なところがあった。

どうやら大人になっても治っていないようだ。


そんなスエマタの面倒を見ていたのがムカイだ。

ムカイが、スエマタの腕を引き、少し輪から外れたところでなだめる。

昔と変わらず、今日もムカイがスエマタの面倒見るようだ。


「何も今日ここで死ぬって出たわけでもないし、それに占い師だって言っていたのよ、絶対ではないって。

 運命とは、いくつもの選択と周囲の事象が積み重なって生まれる結果だって。

 確かそんな感じだったわよね。」


気まずい空気の中で、マカベがアイザワに確認する。


「概ねそんな感じだったわね。」


アイザワが、返事をする。


「リン、そんな気にしないでもいいわよ。

 私たちだって占いをそんなに気にしたりしないわよ。

 そんなに占いが当たるなら、私たちは今頃アラブの石油王と結婚する方法でも聞いて、豪華な生活をしているわよ。

 少なくても彼氏ぐらいはいるわ。あぁ出会いが欲しい。」


アオキが言うと、大きな笑いが起きた。

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