其の五「夢から醒めて」
あぁ、俺は今海の中に沈んでいってるのか……水面を通して見える月が綺麗だ。
まさにデッド・オア・アライブの瀬戸際だというのに、何故か俺は心中穏やかでいられた。
走馬灯みたいなものが頭の中でくるくる回ってる。主にアニメと愛する嫁達だけど。
ゆっくりと目を閉じる。海水が目にしみるなんて感覚も今はもう気にならない。だんだん意識が遠くなっていく。
身体から力が抜けていく。
それに伴い胸の苦しさ、頭の痛み、ついでに吊った両脚の引きつりも薄れていく。
やがてまぶた越しに透けていた月の光も見えなくなり遂に視界が真っ暗になった。
死ぬ……か。別に怖くは無い。けど、死んだらどこに行くんだろう。そんな考えばかりが頭の中を巡っている。
《……え……きょ……いる……》
……ん、なんだ?
真っ暗闇の中で声が聞こえてきた。その声はあまりにも微弱で微細で性別の判断がつかない。
《……ちから……え……のた………に》
どこかで聞いたことがあるような懐かしいような声……。そうか走馬灯から聞こえる声なのか……何を言ってるんだ。
《おまえ……れらの……きぼ……だか……》
お、少しずつだが鮮明に聞こえるようになってきた。これは……なんだ、いつも夢に出てくるおっさんの声か。
《おま……のなまえは……》
名前……誰のだ?
《……をたあ……ろう……》
ん? 俺……か?
《をたあ……ぅろう……》
俺の名前……? イントネーションがなんか変だぞ?
《をたたろう》
ありり、待て待て様子がおかしい。近くで誰かに呼ばれてる気が……。
いっ頭が痛い! いってててててえぇぇええええええ!
「ヲタ太郎! おい起きろヲタ太郎! むんっ!」
「あべし!」
頬に走った激痛により俺は目を覚ました。すると俺の目の前には……。
「うわあああ! ヲタ太郎~!」
涙目の猿吉と、
「ピヨォォオオォォオオ!? ハッ、報告、乙の救命を確認。ミッションコンプリートピヨ!」
どこから持ってきたのか酸素ボンベを持って走り回る雉夫と、
「犬斗きゅん、君は何をしようとしてたのかい?」
「え、ビンタ」
右手を振りかぶっている犬斗が俺の方を見つめていた。
何この状況ちょっと興奮するんだけど。