其の参「出会い」
「んで……むしゃむしゃ……そうゆうことで……くちゃくちゃ……俺達はそこのスワンボードで……うま……旅をしてたわけだ……おかわり」
「なるほどな」
焼いた魚をむさぼりながら、犬斗がこれまでの十一日間を話した。
漁船と共に雄兒ヶ島を目指すことになり、ひとまず俺達一行は漁船に乗り移らせてもらった。スワンは首に縄をくくりつけ、漁船に牽引してもらっている。
この漁船、比較的小型ではあるが八人が乗れる位にはスペースはある。八人というのは俺達四人とおかめ達一行四人のことだ。仮面の男達はおかめと青鬼の他に、赤鬼と般若がいた。
赤鬼はかなり引き締まった逆三角形の身体の持ち主で、身長も一九〇cmは有るだろう。おかめほどでは無いが、かなりの大男だ。迷彩服を着ていて、背中にはアサルトライフルらしき銃を背負っている。
仮面に隠れていまいち分からないが、その下の眼光はまさしく本物のソルジャーのそれを思わせる。
般若は逆に、俺より少し背が高くほっそりとし容姿で、色あせた茶の着物を着ている。腰には武器であろう日本刀を帯刀していて、何を考えているのか掴みづらい雰囲気を醸し出している。
この老人(と呼ぶべきだろうか?)達は全員仮面を装着している。俺達は仮面の名称で呼ぶことにした。
「にしても美味いなこの魚!」
「うん、本当だよ。連れて行ってもらえるだけでなく、食べ物まで分けていただいて……ありがとうございます!」
「ハッハッハ、若いもんがそんなの気にするでない」
犬斗だけでなく俺や雉夫、猿吉もおかめが振る舞ってくれた焼き魚を食べている。これはおかめが素潜りで獲ってきた新鮮ピチピチ獲れたての魚だ。なんて名前かは知らないが、ものごっつ美味い。
ちなみに雉夫が吹き飛ばされた水柱は、おかめが漁を行っていた時の衝撃波だそうだ。はいはい、すごいすごい。
ところで、さっきから気になってるんだが……。
「…………?」
「…………」
さっきから般若が焼き魚を食している俺をチラチラ……いやガン見してくる。しかも無言で。
仮面の下ではもしかすると笑んでるかもしれないが、着けているのが般若の面だからめちゃくちゃ怖い。
ま、まさか、俺に気があったりしちゃったりして……とぅんく。
……オーケー、この話はよそう。はい、ちゅんちゅん。
繰り返し言うが、俺の恋愛対象は二次元にいるおにゃのこだけだ。現実の人間に、ましてや眼前のしなびたジイさんに欲情する予定は、今のところない。未来永劫ない。
「…………」
にしても、この般若ほんっとに口数が少ないな。もしかして寝てるのか?
「はっくしょん」
あ、しゃべった。あからさまに棒読みだけど。
すると般若はくしゃみの動きでかたむけた顔を、あたかも起きてますよと言いたげに向けてきた。俺は視線を外して見なかったふりをした。すげえ鳥肌が立った。
てか、まさか今俺の心読まれてた!?
「ところで、イケメンの兄ちゃんよ。そこに置いてあるロボット人形みたいなのは何だい?」
「あぁ、これは俺の発明品ピヨ」
「ほう。兄ちゃん発明家なのか?」
「へへ、まあな」
……ちぃっ。
今までシャクに触るから気に留めないでおいたが、女性の皆さん大歓喜。
ピヨピヨうるさいこの男、新戸 雉夫と言う奴は……すんごいイケメンです。
その容姿は絵に描いたようなモデル体型に、サラっとしていて眉毛にかかる長さの濃ゆい茶色の髪。これは染めているのではなく、英国人の祖父から譲り受けた色だ。
禿げればいいのに。
更にスッと通った鼻、不快さは感じず逆に好感を持てるキリッとした青い目。とにかく凛々しく整った顔立ちだ。
禿げればいいのに。
現在はアメリカの超名門大学に在学しており、剣術の大会で幾度となく入賞した過去がある。いわゆる文武両道を体現した完璧人間だ。
禿げればいいのに。
でもピヨとかいう口癖と、隠しきれていないオタク属性があるせいで、残念なイケメンに仕上がってるが。
禿げればいいのに。
でもそれが逆に接しやすさを生み、元からの明るくて誠実な性格も相まって、中学高校時代は学校内でも凄い人気者だった。
禿 げ れ ば い い の に 。
高校の頃にいたっては、女子生徒の間でファンクラブもできてたっけ。
そうそう、俺が雉夫の黒歴史を壁新聞で暴露したことで潰してやったんだっけな。 いやぁ、あの頃は若かった。
雉夫の話題が出たところで今更だが俺達のメンバーを改めて紹介しよう。
まずはそこで船べりにもたれて六匹目の魚をくわえてるゴリマッチョ、湯取 犬斗。
短い黒髪に茶色の瞳を持っている。身長一八五cm。
小三から中学までの同級生で、高校では番長を張ってたとか。
腕っ節が強い上に厳つい顔という典型的なゴリラ野郎だが、根は良い奴で、お年寄りと横断歩道を一緒に渡ったことがある。と、本人から聞いた。
操舵室の入り口前で、青鬼の仮面と仲良く話しているのは忠尼 猿吉。
一六〇cmと小柄で、幼少時にかかった病気が原因で髪の色は薄く明るい茶色になっている。幼さが残る中性的な顔つきに大きな黒目、それに男っ気を感じない優しい声。学生時代はたまに性別を間違えられたりしていたから、結構それを本人は気にしている。
あ、それとさっき言った病気の快復後、病弱な身体を鍛えるために中国で様々な武術を習っていたそうだ。
そして、霧を抜けてだだっ広くなった海を眺め、風に煽られる黒髪をかきあげながら鼻に指を突っ込んでいる美青年はこの俺、ヲタ太郎。
前記のようにいちいち特徴を上げなくても良いくらい無駄を省いたザ・現代の日本人。人の手を加えずありのままで生育した頭髪と、四六時中仕事に励む働き者なビジネスマンの目元をそれに加えた感じ。
暮らしは一人だ。物心ついた時から血のつながりがないオジサンの元で暮らしてた。だが中学生になる前に事故で亡くし、それ以来は一人で暮らしてる。両親はどこにいるのかさっぱりわからない。今となっては別に会おうとも思ってないがな。
あ、暮らしは一人といったな。あれは嘘だ。俺には嫁がいる。二六人いる。みんな俺だけを愛してくれるステキな子達だ。次元を超えて愛し合えるって、素晴らしいよね。
「なあ雉夫。ヲタ太郎のヤツ、何をあんなニタニタしながらでハナクソほじってんだ?」
「さあ……あいつの行動は俺達の理解をナチュラルに超えてくるからな」
「ま、相変わらずってことか」
漁船に牽引されるスワンボートのやや大きい真っ白ボディは年季が入っている。このボートに四人がどうやって乗っていたのかは企業秘密。だって言ったら絶対ドン引かれるもん。
二台借りればよかったと気づいたのは出発三日目の夕飯でのことだった。
紹介終わり。
以上が俺達四人と一艘。装備は一人一つずつリュックを背負っている。プロテインもあと一袋残っている。