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なんだ、その尻は。いいえ、桃です。  作者: 天ノ川 こたろう
第一章:なんだ、その旅路は。いいえ、死活問題です。
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其の弐「ピヨピヨ聞こえるがおそらく空耳だろう」

「さ、行きますか」


 犬斗と猿吉も呆れ顔で承諾し、再びスワンは動きだそうとする。


「ピヨォォオオ! ぼぶぇをぶぉいてい……ぐぶぉお!」


 おー、雉夫のクロール綺麗だな。ちょっと感心してしまった。

 さて冗談はここまでにして、俺は近くに浮いていた流木を手にとり雉夫に差し出す。


「ほれ、掴まれ」


「ふげもっヲタ太郎てんめぇえ……よし捕まえたぁ!」


「なんだ!?」


「グボォッ」


 その時、突然辺り一面に霧が発生した。視界は白く染まって少し先も見えない。

 問題はそれだけじゃない。

 突然の霧で驚いた拍子に俺は思わず流木を手から離してしまった……この意味がわかるかな。

 

 そう、流木にしがみついてた雉夫は海に帰って行きました、はい。


 って冷静になってる場合じゃねえ!


「ちょっ、雉夫! 雉夫ぉぉおお!」


「おい何やってんだヲタ太郎! どこだ雉夫! 大丈夫か!」


 俺達は海に向かって叫ぶ。そして脳裏に浮かぶ明日の朝刊三面記事。


【新戸 雉夫氏、ドロップキックされ溺死。容疑者「ほんの小さな出来心でした」】


 あいつ浮かばれないだろそれじゃ!?


「きじ……お?」


「ん、どうした猿吉?」


「……鈴の音がする」


 眉をひそめる猿吉がそう言ったので俺も耳を澄ませた。するとチリーン……チリーン……と遠く霧の方から鈴の音が聞こえた。


「ヒィッ!」


「猿吉なんだ、どうした!?」


「お、おおおお爺さんの声が……!」


 お、お爺さん? こんな海にそんなのあるわけ


『ひとーつ……ひほうのねむりしたいかいよ』


 あったよ。


「ひいぃッ! 幽霊だよみんな! 逃げようよ!」


 猿吉はすっかり怯えて犬斗にしがみつく。確かに不気味な声だ……だが何故だ? 逃げる気にならない。


『ふたーつ……ふりそであえばえんじゃなり』


 ……なんだか懐かしい。聞き覚えがあり過ぎるような、だけど分からない。


『みいーつ……みにすかーとははたちまで』


 そしてお前は何を言ってるんだ。声はそこで途切れてしまった。


「今のは何だったんだ……?」


「さ、さあ……」


「ひゃあ! あ、あそこ見て!」


 猿吉がそう言って指差した方を見ると……一箇所だけ海水が盛り上がり、泡が海中からふつふつと湧き上がっている。

 と認識した刹那、巨大な水柱が轟音を上げ立ちのぼった。


「うわっうわわわ!?」


 その高さに空を見上げると、雉夫が宙を舞っている。そう、雉夫が。


「お前何してんだよ!」


「ピヨォォォオオオ!?」


 雉夫は真っ直ぐこっち目掛けて叫びながら突っ込んできている。


「うおぉお!? 犬斗頼む!」


「おう!」


 咄嗟に力が自慢の犬斗の名前を呼んだ。犬斗は俺の意を汲み取ったようで雉夫をキャッチする構えを取る。


「あらよっと! ほいさ!」


 数メートルの高さから落ちてくる雉夫を犬斗は難なく捕まえた。

 衝撃でスワンは大きく揺れて軽くリバースしそうになったけど、スワンも俺もなんとか持ちこたえた。


「うぅ……サンキュー……犬斗」


「へっ、良いってことよ」


「今のは何なんだ……?」


「さあ……」


 疑問に思っていると、鈴の音がだんだん鮮明に聞こえてきた。


「ちょっと、ビビりすぎだぞ、猿吉?」


「怖いものは怖いんだよ犬斗ぉ……」


「待て、聞こえるのは鈴の音だけじゃないみたいだピヨ」


「え……? なんだろ……エンジンの音?」


「それっぽいなピヨ」


 そう話しているうちに、それは段々と輪郭をあらわにしてきた。


「漁船だ」


 あれは確かに漁船だ。どんどんこっちに向かってくる。シルエットからするにあまり大型ではないようだ。


「おいおい漁船だよ。どうするどうする」


 んなことわかっとるわバカ。筋肉バカ。でも……これは好機かもしれない。もし良い人だったらこのまま陸に連れ戻してもらえるかも。

 漁船との距離はもう三mほど。船の形はくっきりと見える。


 よって俺の期待は華麗にも裏切られた。


 現れた漁船はかなり老朽化しており、所々ガタがきている。まるで……いや、まさしく難破船といっても過言じゃない。

 船体後部には「日本一」と書かれた旗が掲げてあるが、つぎはぎ(・・・・)だらけでかなり黄ばんでいる。こんな難破船に人なんていないだろう。てか、幽霊船だよこりゃ。


 そんなことを思っていた時が私にもありました。

 こんな難破船に人なんていないだろうなんて思ったその三秒後、漁船の操舵室から一人の腰の曲がった……青鬼の仮面を着けた老人が出てきた。


「ふがふがふがふが……ふっがっが~」


 やばい、何言ってんのこの人……怖い。


「これこれ青鬼さんやい、入歯がとれてますぞ」


 すると更にその仲間であろう男が入歯をもって操舵室から出てきた。

 二mはある犬斗以上にムキムキのおかめの仮面を装着した男が。

 しかも上半身裸で体中から水が滴っている。


「まったく困りますぞ?」


「ふっが~!」


 青鬼の老人はおかめから渡された入れ歯を装着した。


「ふが……ぬぅん!!」


 なん……だと?

 入れ歯が青鬼の口元に収まった瞬間、さっきまで曲がっていた腰がしゃんと伸び、目は仮面越しにでもわかるくらいに凛々しく見開いた。その立ち姿はまるで格ゲーのキャラのよう。


「……ふう、ありがとよ。これが無えとやってらんねぇからな」


「あんたさんの物忘れは相変わらずだな……ははは」


 青鬼の声は先ほどのしょぼくれた声でなく、しっかりと張りがあり渋い。そして威厳もある。ついつい師匠! とひざまづきたくなるようほどのイケボだ。

 別にしたくないけど。


 それよりもこの状況はなんなんだ?

 ボロボロの漁船から、よぼよぼなのにイケボの青鬼とムキムキで上半身裸の湿ったおかめが入歯について会話をしだす。

 

 猿吉が固まって動かなくなってしまった件について。


 とりあえず今のカオス過ぎる状況になるまでの過程を整理しよう。


 ・雄兒ヶ島の島民達が俺たちの住むアキバ県ユトリ市を襲ってきた。

 ↓

 ・ヲタ太郎、討伐の懸賞金目当てで爺ちゃんと婆ちゃんの家を出て、雉夫達と合流する。

 ↓

 ・スワンボートを入手し雄兒ヶ島へ出航。

 ↓

 ・しかし全然到着せず1週間以上漂流。

 ↓

 ・雉夫が操縦機能付きプラモデルを完成させるが、俺が蹴飛ばす。しかしそれは雉夫の発明品で、ラジコン機能搭載。

 ↓

 ・自慢する雉夫を海へ蹴飛ばす。

 ↓

 ・霧が発生し不気味な声が聞こえる。

 ↓

 ・すると突然水柱を立てて雉夫がスワンボードへ吹っ飛んできた。

 ↓

 ・霧の中から船影が見え、古いくたびれた漁船だと判明。

 ↓

 ・漁船の中からふがふが言いながら青鬼じいさん登場。

 ↓

 ・青鬼のものと思われる入歯をもった巨大なムキムキおかめ登場。←今ここ


「おい、そこのアヒルボート」


「ひゃい!?」


 どうしようガチムチおかめが話しかけてきたよ。変な声出ちったし。しかもこれスワンボートですし。


 ガチムチおかめがあらわれた! ▼


 ヲタ太郎はどうする?

 1.逃げる

 2.あいさつ

 3.ビンタ

 4.抱きつく


 2を選択!


「はいこんにちは良い天気ですね」


 いけねっ、笑顔意識しすぎて完全な棒読みになっちまった。しかも良い天気ですねって……一面真っ白に霧出てますやん。あたしゃバカわいな。

 おい犬斗、汚物を見るような目で見んな。どうすんの? フォローすんの? 死ぬの?


「…………」


 おいおい、おかめさん黙り込んだぞどうする!?


「お前達は何者だ」


 あ、おかめさん言葉発してくれたよ。警戒心ムンムンだけど。

 どう答えよう、雄兒ヶ島に行くって言ったら連れて行かれそうな雰囲気だぞこの人達。もう一旦帰りたいんだけど。さあてどうしようか。


 カタカタカタカタカタカタカタカタ……←脳内計算機の音


 タンッ!


 よし、遊んでて沖に流されて遭難したことにしよう。それならスワンボートというのにも説明が付く。


「あのですねボートを借りてあそん」


「俺達は雄兒ヶ島へ向かっている有志討伐隊だピヨ」


「そうか」


 だけどね、雉夫がね、俺の言葉にね、重ねてね、本当のことをね、言うもんだからね、俺の巧みなね、計算がね、無駄になっちゃったの。

 こんのピヨやろおぉぉぉおおおおおおおおおお!! ふぁああああああああーーーー!!


「俺達も雄兒ヶ島へ向かっている者だ。共に参るか?」


 ちくしょう……ちくしょう……青鬼さんの声渋くてかっこいいぜ……ちくしょう。……じゃなくて、なんてこった。この人達も有志討伐隊かよ。連れてってくれると言っても装備もまともに無い状態で、俺達は敵の本拠地に乗り込むのか。ヤヴァいぞ。


「ありがとう助かった。ん? ヲタ太郎どうしたピヨ?」


 雉夫が何か言って来たのでビンタしておいた。

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