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少年は願い、少女は求める。

娘神はかく思う。

作者: 池中織奈

 私の一番古い記憶。それはお母さんとお父さんが笑って私を見下ろしていること。

 私の一番幸せな記憶。それはお母さんとお父さんと一緒に遊んで、自由気ままに過ごしたこと。

 私の一番悲しい記憶。それはお母さんが奪われてしまった、気づけば封印されてしまったこと。

 私の一番寂しい記憶。それはお母さんが封印されているのを黙ってみているしかできなかったこと。

 私の一番怒った記憶。それはあの女がお母さんを封印しておきながら厚かましくもお父さんを傍におこうとした事。

 私の一番嬉しい記憶。


 それは―――――……。






 お母さん、お母さん、お母さん。私は久しく感じていなかったお母さんの魔力を感じて、必死にとんだ。お父さんから連絡があった。お母さんが目覚めたって。

 私はまだ神々としては幼くて、年なんてあの女――ピリカと同年代で、千年も生きていない。あの女は、本当に許せない。私は生まれてからたった百年、二百年ほどしかお母さんと一緒に居られなかった。それからの八百年お母さんと会話を交わすこともお母さんと笑いあうこともできなかった。

 今すぐにでも八つ裂きにしてやりたかった。だけど、私はピリカよりも弱い。ピリカの力は強大で、本当にあの女、性格悪い癖に神力だけは人一番強くて。

 それにピリカに惹かれた神々は大勢いた。ピリカに手を出せば私もお父さんも無事では済まない。

 お父さんは言った。

 ―――お母さんが目覚めた時に、私とお父さんが居なければお母さんは悲しむって。

 帰る場所を用意しててあげたかったのだろう。そしてお父さんはお母さんが消えないように、ひっそりとピリカに悟られないようにお母さんへの信仰を伝えていた。

 お父さんは本来、どこまでも不遜で自由な人だ。人のご機嫌取りをするなんてそれまでしていなくて、誰にも態度を変えなかった。

 そんなお父さんが、プライドを捨てて、お母さんが帰ってきた時に居場所を用意するためにとピリカに笑いかけた。

 お父さんは、お母さんが大好きなのだ。

 お母さんは優しい人。神としての責務をきちんとこなしていて、慕われていた風の女神だった。そんなお母さんだからこそ、お父さんは大好きで、他人なんてどうでもいいって態度なのにお母さんや私の事は構ってくれた。

 飛ぶ。

 下界をひたすら飛ぶ。

 お母さん、お母さん、お母さんと、目覚めたお母さんをただ求めて。

 そして下界で久しぶりに見たお母さんは―――――、ほとんど神力を失っていて、人間と対して変わらないほどに弱体化していた。だけど、そんなの関係なかった。

 「お母さんっ!」

 私は弱体化した身体で必死に一人、歩いているお母さんの元へと自身を顕現させ、叫んだ。

 私が目の前に現れたことによっぽど驚いたのだろう。お母さんの美しい深緑の瞳が見開かれた。

 「フィート……?」

 そして、私の名を呼んだ。

 お母さんが私の名前を呼んだ! お母さんが動いてる! お母さんが私を見てる! お母さんがここに居る! それだけで、どうしようもなく嬉しくて、ああ、本当にお母さんの封印は解けたんだって実感して、「お母さん」とその名を呼んでおもいっきりお母さんに抱きついた。

 もう九百歳を超えてるのに母親に抱きつくなんていい加減、大人になれよとでも思われるかもしれない。でも、でも、八百年もあの女に封印されて動けなかったお母さんが動いているんだよ。本当に八百年ぶりにお母さんと話す事が出来るんだよ。だから、我慢出来なかった。

 お母さん、お母さん、お母さんって、まるで小さい子みたいにお母さんに抱きついて私は泣いた。だってさびしかった。だって嫌だった。お母さんが居なかった事。

 ピリカのした封印は私やお父さんじゃ解けるものじゃなくて、目の前にお母さんが居るのに封印を解く事ができなくて、本当に長い間待っていた。

 しばらくして、落ち着いた私の顔をお母さんはまじまじと見る。

 「フィート、あなた……無事だったのね」

 「うん! お父さんも元気だよ!」

 「そう、フランも……」

 「うん! でもお父さんはピリカのご機嫌取りしているからこっちこれないよ」

 「ピリカのご機嫌取り?」

 あ、お母さんの顔が少し悲しげに歪んだ。って、違うよ、お母さん、お父さんはお母さん一筋だからピリカに心がつうったわたけはないよ。

 「お母さん勘違いしないで! お父さんはお母さんが今も大好きだから。ただお母さんが目覚めた時にお父さんがおかしくなってたり消えてたらお母さん悲しむからって敢えてそうしているだけだから……。本当はお母さんの元へお父さんも行きたかったんだよ。でも、あの女が居るからこれなくて……」

 あの女は美しいお父さんがお気に入りで、しょっちゅう側に置こうとするのだ。自分より目立つものが気に入らないとばかりの態度のあの女はお母さんの封印が解けた事を知ればまたお母さんを封印しようと、いや多分今度は消滅させようとするはずだ。

 そんなのさせたくない。そんなの許さない。

 「そうなの……」

 「うん! ねぇ、お母さんはこれからどうするの?」

 「あのね――」

 そしてお母さんが告げたのは、神力を回復させるために人々の願いをかなえ歩きたい事と、封印されているお母さんの元へ強い願いが届いたからその願いを持つ人の元へ行こうとしている事だった。

 「それなら私も手伝うよ! お母さんが昔のように神力を回復できるように」

 だって何れピリカにお母さんの封印が解けたことがばれた時にお母さんが神力を回復させていなければ本当にまずいことになるもん。そんなの嫌だから私はお母さんの手助けをするの。というか、ただお母さんとずっと一緒に居たいっていうそういう思いのせいもあるけどね。

 それに私はピリカに関心を持たれていないから、お父さんと違って側に居られやすいから。

 「ふふ、ありがとう。フィート」

 そういってお母さんが笑ってくれるから、これから何もかもうまくいくんじゃないかって勝手に期待してしまう。


 そして私とお母さんは目的のために動き出した。




 ――娘神はかく思う。

 (お母さん、会えてうれしい。お母さんの笑顔がまた見れて嬉しい。絶対にお母さんをまた私から奪わせ何てしない)



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― 新着の感想 ―
[一言] ついに母神さまが封印から復活して動き出しましたね これからどの様なことになっていくのか楽しみにしています
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