表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・改稿】ノヴァゼムーリャの領主  作者: 文野さと
第二部 故郷は心の住まう場所
93/154

93 障壁10−2

「レーニエ様、私も殿下のお考えは正しいと思います。だって、とても合点がいきますもの。正論ですが、正論とは正しいことなのですわ」

「え?」

 沈み込んでいた顔が上がり、シザーラはそれへきっぱりと頷いた。

「はい。私も祖父と同じく、レーニエ殿下をご信頼申し上げたいと思います」

「私が考え無しにした提案に、ご立腹されてはおられないのか?」

「いいえ。こう見えて、あのお爺さんの孫ですわ。そう言う事もあろうかと思います。ましてやレーニエ様は、誠実なお気持ちからあのような事を申されたのでしょう?」

「……言ってはみたが、上手くいくとは限らない。私には何の権限もないし、持つ気もない。ましてや、人の気持ちは不確かなものだから」

 悲しみの影が、再びレーニエの眉間を覆った。

「そうかもしれません。ですがよい方法だと思います。祖父もそう思ったからこそ、私に話してくれたのですわ。第一レーニエ様は着想だけで、ワルイ部分はどうせ祖父が考えたのでしょ?」

「さ……それは……。だが、私には何の見通しも持てない」

「まぁ、後の事はお爺さまや、そちらの文官に任せてですね……私も会議には出させていただくかもしれませんが。余りご心配なさらぬ方がいいと思います。何といっても後は、政治家の仕事ですもの」

 シザーラはやはり政治家の顔で不敵に笑った。

「ところでレーニエ様」

「はい」

「お聞きしたいと事がございますの」

 突然口調を変えてシザーラが改まった。

「何でしょう」

「レーニエ様、レーニエ様の想われる殿方は、お近くにいらっしゃるのでしょう?」

 昨夜、祖父から会見の一部始終を聞き、自らの感性で概ね事情を察したシザーラはカマをかけている。

「……え?」

「唐突に申し訳ございませぬ。不愉快とお思いでしたら、ご返事いただかなくともようございます。ただそんな気がしただけで」

 彼女はそれ以上追及することはせず、穏やかに隣国の王女に微笑んだ。

「もしそうなら、お悩みの点を、その方に打ち明けられてはいかがですか? ご信頼申し上げられる方なのでしょう? 今は大変な時期なので、思うような心の交流はできないのかもしれませんが、レーニエ様のお気持ちをお話するだけでも良いと思われます」

「なぜ、そのような事を私に?」

「私も女だからですわ」

「おん……な?」

「はい。私もこの数年、家族が次々に亡くなったり、私自身も殆ど軟禁状態にあったりして大変辛うございました。何より辛かったのは、人に会えない、想う方に会えない、話ができないという事でした。最近になってやっと、少しばかりの自由が許され、自分なりに動いていたのですけれど」

「……」

「アラメイン殿下ともいろいろ誤解があったり、疑念がわいたり……その内会う事も叶わなくなって……一時は諦めたのです。そしたらあの方、ご苦労がたたってご病気になられて」

「お辛かったであろうな」

「それはもう……でも私、思い切って秘かに会いに行ったのです」

「会いに?」

「ええ、でもその時の事は一生忘れません。僅かの時間でしたが、直接会って、お話しして……気持ちを伝え合えて」

「気持ちを……?」

「はい。ですから今、こうして二人でいる事ができるのですわ」

「ならば、私などが要らぬ事を提案して、お二人が周囲から誤解を受けたら心苦しいが」

「その事も話しあいます。まだいろいろ細かい変更を加える事ができるかもしれない。レーニエ様のお人柄がわかりましたので」

「……」

「ですが、今は殿下の事。レーニエ様にもし憂いがあられるなら、今後の両国の折衝にも波紋が広がるかもしれませぬ」

「私の気持ちが落ち着けば、両国間の協定が円滑に進むとでも? そんなことはないだろう?」

「そうかもしれません、でもそうでないかもしれません。レーニエ様が想うお方と幸せになられた方が、私にとっても都合がいいので……つまり私も私情で申しているのでございます」

 そう言ってシザーラは微笑んだ。 


 シザーラが辞去した後、レーニエはしばらく一人で考え込んでいた。

 やはり。このままではいけない。

 シザーラ殿の言うとおり、話もせずにあれこれ思い悩んでいても何も解決しない。私は、何のためにここに来たのだ。

「サリア」

「ここに」

 サリアがすぐに顔を出した。

「現在皆の動きはどんな具合かな?」

「文官の方々は、昼食そっちのけで細かい条文を作成中のようです。纏まったら両国で擦り合わせるのではないかと。武官の方々は護衛に立ったり、交替で休憩されたり……」

「とすれば、一階にはあまり人がいないのか?」

「出入口は厳重に警戒されていますが、そうですね、廊下などは静かでございました。次の休憩までには少し時間がありますし。それが何か?」

「すまないが、少し部屋を出る。サリアはついてこなくていい」

「……承知いたしました」

 何かを察したのであろう、サリアはそれ以上聞いてはこなかった。

 レーニエはこっそり階段を下りた。

 サリアの言うとおり、薄暗い廊下には誰もいなかった。

 広場に面した正面の扉は固く閉ざされており、その辺りに護衛の兵士が見える。外も厳重に警備されている。

 ファイザルの部屋は知っていた。

 階段を降りて左の三つめ。外で異変があった時、直ぐにレーニエを守りに走れる場所。

 彼はきっと部屋にいる。自分がここにいるのだから。レーニエはそう確信していた。

 とにかく会って話を聞いてもらおう。私の想いを伝えたい。

 胸が高鳴る。

 彼はどんな顔をするのだろうか?

 断りもなく部屋を訪問したことに腹を立てるだろうか?

 彼に叱られたことは幾度となくあった。だが、それはいつもレーニエの身を案じてのことで――。

 レーニエは彼の部屋の前に立つ。

 心臓はさっきからどうしようもなく暴走している。しかし愚図愚図はしていられない。こんなところを誰かに見られたら、彼に迷惑が懸るかも知れなかった。

 意を決してノックする。

 応えはない。

 レーニエはぐいと顔を上げた。再びノックした後、扉を細く開ける。

「私だ。入らせて――ヨシュア……」

 思い切って声をかけてから一呼吸置いてレーニエは扉を開け、中に滑り込んだ。

 目の前に―――

 ファイザルは居た。

 こちらに広い背を向けて。

 しかし、その腕は――

 レーニエの知らない婦人を抱きしめて、そして――。

 二人は口づけを交わしていた。



土下座。

すみません!

ここがきっと底辺かも。

レーニエちゃんファイト! 彼女の提案とは!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そうそう、ここ、ここですよ。 ヘタレ極まれり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ