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【完結・改稿】ノヴァゼムーリャの領主  作者: 文野さと
第二部 故郷は心の住まう場所
115/154

114 帰還2−1

「そうか。ではもし、その噂が真実なればなんとされる」

 ファイザルの小さな変化も見逃すまいと、女王は男を見据えながら問うた。

 レーニエの出生にまつわる噂。

 それは、つまり両親、ソリル二世アンゼリカと、故ブレスラウ公レストラウドが、同じ父親を持つ、腹違いの姉と弟ではないかと言う事だ。

 父とはアルバイン先王である。

 以前ファイザルは、レーニエ自身にその疑いを聞かされていた。

 彼女はずっと苦悩してきたのだ。


「なにも。私には意味のないことでございますれば」

 ファイザルはまっすぐに女王を見つめ、静かに答えた。女王もその湖のような瞳を真正面から受け止める。

「……成程な」

「……」

「成程、そうか」

 女王は感慨深げに繰り返した。

「ようわかった。私はな、あれが我が娘であると、和平使節に立つ前に、公けにしたのです」

「そう、聞き及んでおります」

「皆には酷く驚かれた。今更、昔の醜聞を蒸し返さなくてもと、(いさ)める者もいました。しかし、あれの心根を聞いて、私は決心したのです。今こそ、過去の亡霊を解き放つ時であるとな」

 ソリル二世、アンゼリカ・ユールは、きっぱりと言い放った。

「あなたにも聞いて欲しい。だからこそ、この接見を早々に認めたのです。よろしいか」

 女王はずいと身を乗り出した。

 輝きの強い、挑戦する瞳は、凄味さえ漂わせている。

 ファイザルは身を引き締めた。

「は!」

「あれは私とレスター……ブレスラウ公レストラウドの間に生まれた愛しい子。しかし、かつて一部の者達の間で、公と私は姉と弟の関係にあるのではないか、と言う噂が流れました。レスターと父の面立ちが、少しばかり似ていると言うのでね。彼が当時のブレスラウ公、大ライナスの養子だったのは周知だったし、父の後宮にいた女性が、レスターの生まれた時と同じくして、産辱で亡くなられた事もあって」

 女王はファイザルが理解したかどうか見る為に少し言葉を切った。

 王家のデリケートな事情の前に、青い瞳は複雑な色を浮かべていた。

「私たちは奇跡のような偶然で知り合い、すぐに恋に落ちた。姉弟だなんて、そんな事は信じなかったし、レスターに至っては気にもしなかったのです。自分があんなクソ爺ぃの血を引いている訳がないとね。それから戦争やらいろいろな事があって、当時の関係者はほとんど亡くなってしまい、長い間に噂も忘れ去られていたのです。レーニエが生まれた事を知っている人は、ほとんどいなかったし」


「ですが、当のレーニエだけはずっと、自分の出生の疑惑に怯えていた。私がいくら否定しても信じようとはしなかった。私もあの子の疑念を払拭するほど(みつ)に関わってやれなかったこともあって、そこまで苦しんでいるとはわかってやれなんだ。ですが、ノヴァから戻ったあの子の眼差しを見た私は、改めて調べてみたのです。時が経っていましたので、苦労はしたのですが」

「左様でございましたか。しかし、私は」

「そんな事、どうでもよいと言うのでしょ? わかります。私もずっとそう思っていました。でも、あの娘の気持ちもあるのでね。だから、この話を先にさせてください」

 女王の言葉は、いつしか君主が臣に対するものではなく、一人の母親のものになっている。

「よろしいのですか? 私のような者に打ち明けられて」

「ファイザル殿に知って貰いたいのです。その中には、えげつない話も含まれますが、あなたが易々と口を滑らす人ではないと言う事はわかります」

「恐れ入ります。こう申しては尊大に聞こえるかもしれませんが、その点はご信頼くださってよろしゅうございます」

 ファイザルはあえて表情を消して応えたが、主君の重々しい告白を前に、落ち着いた態度は女王にも感銘を与えたようだった。

「うん」

 彼女は頷き、しばらく考え込んでいたがやがて口を開いた。



この一話、以前は8000文字以上あったんです。

あの頃はよく書いていたなぁ。そして無駄な修辞がすごく多かった。

今なら(今でも?)見向きもされないかもです。

刻みます。

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