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【完結・改稿】ノヴァゼムーリャの領主  作者: 文野さと
第二部 故郷は心の住まう場所
107/154

106 障壁21−1

「レーニエ様、ちょっと……あまりくっつかないでください」

 自分から抱きこんだはずなのに、腕の中の娘がぴったり体を寄せてくるのに辟易(へきえき)してファイザルは(うめ)いた。

「いや。私はこうしていたい」

「俺が妙な気を起こす恐れがありますので、宜しくない」

 ファイザルは半ば本気で言った。

 色は濃くても夏服の生地は薄い。ここまで柔らかい体を押しつけられては。その上、甘い香りが立ち上って鼻腔をくすぐるのだ。

「みょうなきって、何?」

「……言えません」

 言える訳がない。

「聞きたい」

「俺が頭の中で考えていることを知ったら、あなたはきっと逃げ出してしまうでしょう?」

「そんなことはない!」

「そうか……なら」

「きゃっ!」

 片手で胸を覆われてレーニエは思わずびくりと背筋を伸ばし、ファイザルは意地悪そうに微笑んだ。

「ほら、ね?」

「びっくりした……それだけ」

「お痩せになられた?」

「そ、そぉかな?」

 レーニエの頬は真っ赤で、無意識に男を煽っている。

「……少しだけ周り道をいたします」

 そう言うと、ファイザルはハーレイの速度を落とした。

「うん」

 嬉しそうにレーニエは彼に身を預ける。ファイザルは顎を掬い上げ、身を屈めて軽く口づけた。手綱は御さず、馬に任せている。

「ずっとこうしたかった……まったく俺は馬鹿だ。自分ながら呆れてしまう」

「馬鹿じゃない」

「馬鹿です。あなたは必死で伝えようとしてくれたのに、俺は耳も貸さず、それでいて嫉妬に身を焼いていた」

「嫉妬? あ! そうだ」

 すっかり忘れていた事を思い出し、レーニエは眉を顰めた。しかし、こんな事を聞いてもよいものだろうか。

「あの……えっとぅ……フレデリカ殿は?」

 レーニエは言いにくそうにもじもじと俯いた。フレデリカとは、あの襲撃の直前にファイザルが会っていた婦人のことである。

「フレデリカ?」

「お美しいご婦人だった」

「彼女はずっとこの街に住んでいる女で……若いころは色々教えてもらったことがあるが、今では貴重な情報提供者。それだけです」

「だけど、あなたは……そのぅ……お楽しみとか何とかおっしゃって」

 色々ってなんだろう、レ―ニエは真面目に考え込んでいる。

「覚えていたのですか?」

 きまりが悪そうにファイザルは尋ねた。

「うん……だって、あなたはフレデリカ殿とその……口づけを……」

「あー、咄嗟の芝居で」

「芝居?」

 レーニエは身を(よじ)り振り向こうとしたが、ファイザルに抱き直されてしまう。彼は顔を見られないようにそうしたのだった。

「ええ、彼女にドーミエ残党の情報を聞いている時、突然ノックがして、あなたの声が聞こえたものだから……フレデリカは後で怒っていましたけど」

「なんで?」

「あなたが不埒な俺を見て嫌ってくれたら、あなたを諦められると思って。それでフレデリカは俺に怒ったんです。俺の事を酷い馬鹿だって。まったくその通りですが」

「そうだったの」

 ほっとしたようにレーニエは肩の力を抜いた。

「気にしていたのですか?」

「……かなり」

「それは嬉しい。あなたに妬かれるなんて本望だ……だが、今聞くと笑いごとですが、あの時は俺もなりふり構っていなかった。あなたはふらふらと外に出てしまうし」

「うん……あの時は混乱して、ただ悲しくて……何かで気を紛らわせたかった」

「ええ。俺が馬鹿な事をしたせいで、あなたを戦闘に巻きこんでしまった……今でも悔やんでます」

「もうすんだことだ」

「ええ、もう言いません。思い出すだけで背筋が寒くなる……あなたは俺が守る。これからはずっと」

「ずっと? ほんとう?」

 レーニエは自分を抱く腕に頬を寄せた。

「本当ですとも。だけど……困ったな。あなたを手に入れるには、まだかなり間があるのに。まだ抱けない」

 とん、と髪に唇を落とす。

「一度でも抱けば、きっと一度ですまなくなる」

「いけないの?」

「ええ。俺が俺のけじめをつけてから。あ、『抱く』の意味がわかりますか?」

「……」

 なんとなく理解したようにレーニエは頬を染めた。

「おや、わかるのですか? 大人になられましたね。そうです……だから今は奪いません」

「……でも」

「……そんな顔をしない。直ぐにでもそうしたいのを必死に堪えているんですからね。今は残念ながらこれだけです」

 そう言うと彼は腕にぎゅっと力を込めた。



さぁさぁどんどん甘くなりますよ!

いいね、お言葉、お待ち申し上げます!

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