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【ホラー】集

山寺の化け猫

作者: 蠍座の黒猫

「ばあさん、それやめろや。」

「ええじゃろが。やりとうなるんじゃから。」

「ばあさん。そんで、なんの話じゃ。」

「そうよ。その話よ。」


戸ぉ開けよるねこは、ええねこじゃ。ねずみとるねこも、ええねこじゃ。でもの。寝とるとこはかわええけどの。気ぃつけろや。ねこは怖いぞ。もし、じゃがの、もし、ねこが開けた戸ぉ閉めよったらの。そいつの尻尾をようみてみい。2本に見えるわ。ゆうらゆうら揺れてるみたいになぁ。そいだらな、そらもう化けとる。もうそらぁ、ねこじゃねぇわ……。なっとるんよ。化けもんになぁ……。 そいつはの、みんな知っとるのよ。人間の言ってることをの。全ぶ聞いとるのよ。じーっと、動かねぇけどな。だけれどもな、そんなとっきにはな、尾頭付きの魚こさえてな、そいつの前においてやる。そんで、けんめいにな、ええか。大事なっこったど……。ひっしけんめいにな、そいつに手ぇ合わせて頼むんじゃ。

「どうか、後生じゃけえ、出て行ってくんなさい。子ども取って喰ったりせんでくんなさい。」

そういうたらの、たいげぇのやつなら出ていきおるそうじゃ。魚くわえての、なんかひとつだっけ、人間みたいに話すらしいがの……。そうじゃ。化け猫いうたらの、裏の山ぁに、お寺あるじゃろ。すっかり誰もいかんようになったなぁお寺じゃ。あれからのことよ……。こんな話じゃ……


 ありゃあ、太兵衛が裏のお山の和尚さんのとこへ、なんかの用事でいったときのことよ。ちょっと前から和尚さん、しばらく見かけんの。と、みな言うとった。ねこ可愛がってる和尚さんでの。ええひとじゃったよ……。太兵衛は裏山の長ぁい石段をのぼっておった。まだ蝉が鳴いとったけんどの、だいぶん暮れてきたころじゃったわ。太兵衛は、お寺についたんじゃ。お寺の横はここいらの古い墓ぁあるわ。今は、墓地はかちも移してしもうて、だれも行かんようになったところ。そのころはの、まだ葬式したら、その墓地へうずめにいっとった。太兵衛が、お寺いったときもな、三日ほどめぇに葬式あったところよ。太兵衛は見たんじゃ。その新墓にいばかのところに、和尚さんがしゃがんどるのをの。太兵衛はの、和尚さんが崩れた土饅頭でも直しとるんじゃろと、思うたんじゃと。暗くなりかけとったからな。よう見えんかったんじゃろ。そいで、そのまま見てるとの、なんかおかしかったんじゃと。なんやら食べとるように見えたんじゃと。での、太兵衛はの、「おっしょさん、なにしてなさる。」と、声かけたんじゃと。そしたらたちまちに、和尚さんがこちら向いた。もう暗くなってたのにの、こちらを向いた和尚さんの目玉が2つ、ぴかぁりと、光ったんだと。そいでの、おっそろしい声で「見たなぁーっ!」と、ひと声叫んだきり、太兵衛の方へ飛びかかってきたんだと。化け猫じゃった。もう、とっくに和尚さんは喰い殺されとったんじゃ。そいで、和尚さんの衣きて化けとったんじゃの。だけんどの、その化け猫はの、また腹減って、仏さんの体を喰うとったんじゃ。そいつは、耳まで裂けた大きな真っ赤な口と、三角の大きな耳しとったと。目玉が黄色く光るんじゃと。だから太兵衛はの、おっそろしくなって石段転がるように降りたんじゃと。化け猫はの、段々降りんのが苦手なんじゃ。体が重すぎての、早くは降りれんのじゃ。そんでの、太兵衛はの、なんも出来んどんくさい男じゃったけんど、ひとつだけ得意なことは、あったんじゃ。それが、石段くだりいうての。えれぇ速さで、石段くだるんじゃ。どうやってかはわからんけんどの。それで、石段飛ぶように降ったんだと。後ろからは、「待てぇーっ、待てぇーっ」と、化け猫が追いかけてきよる。太兵衛は命からがら石段おりたんじゃ。そいで、石段の下にあった、与平の家へ飛び込んだと。「与平、助けてくれ、化け猫じゃ、化け猫じゃ。」与平には、ばさまがおった。おすて、言うて呼ばれとった。髪の毛は真っ白での、いっつも寝てるか起きてるかわからんような、しわくちゃのばさまじゃった。そうじゃ。わしよりずっとな。ええわい。わしのことはの。与平のばさまじゃ。これがの、どうしたことか、そのときばかりはの、すっくと囲炉裏端から立ち上がったんだと。そいで、土間へ降りて、戸板の前にぴったり立ったんだと。そしたらしばらくしねえうちに、「どどどどっ」と、大きなものが与平の家のまえで、急に止まったようなが音したんじゃ。静かになっての、しばらく。ばさまは、戸板にぴったり鼻先つけたまま、じっとしとった。そしたらの、いきなり「がたがたがた」戸板が外れそうなほど、揺すられたんじゃ。「おぅい。」化け猫は呼びよった。ばさまは、これに答えたら喰い殺されると知っとった。「おぅい。」化け猫が呼んどるのを構わねぇで、ばさまはの、「名前ぇ当てっこしねかい。」そう言ったんじゃ。化けもんはの、ほんとの名前ぇ知られたくないんじゃ。それ知られたら、力を無くしてしまうんじゃと。でもな、人間もそうなんじゃ。化けもんに名前ぇ知られたら、まず助からん。喰い殺されてしまう。だからの、こればっかりは、ばさまと化け猫の勝負になったんじゃ。化け猫は、ちょっと黙ったと。迷っとったんも知れんな。「……。」でもの、しばらくしての、夜の底から響いてくるみてぇな、恐ろしいこえで、「きく、か。」聞きおった。「ちがう。」ばさまは、戸板にぴったりと立ったまま言うた。化け猫はの、また、恐ろしい声で聞きおった。「さと、か。」「ちがう。」ばさまは、相変わらず戸板にぴったりとたったまま、答えたときじゃ。「がりがりがりぎぎぎぎ」戸板がなんか重いもんに押されとるように、軋んだんじゃ。戸板に爪立てて、化け猫は叫びおった。「すて、じゃ。お前の名前は、おすてじゃ!」太兵衛と与平は、縮み上がった。「もうだめじゃ、喰われてしまう。」そう思ったがの、ばさまは言うた。「ちがう……。わしの番じゃ。」「ぎゃおおおお!」化け猫は、どんどん戸板を鳴らして暴れおった。けんどなんでか、ばさまがぴったりと立っとる戸板は外れんかった。「みけ、じゃろ。」「ちがう。ぎゃおおおお!」化け猫は、まだ、どんどん戸板を鳴らして暴れとった。戸板は外れんかった。「とら、じゃろ。」「ぎゃおおおおおおお!」化け猫は、もっと暴れたと。ゆっさゆっさ家が揺れて、家鳴りがなったと。ばさまは、腰を抜かしとる与平に、こんな強い目しとったっかと、後で与平が言うたぐらいの光る目をして、手桶に水汲んで渡せと、身振りでいうた。与平は、なんとか手桶に水汲んで渡した。ばさまはそれを、後ろ手で受け取って、なんとしたことか、「がたがたがたっ。」一気に戸板を開けてしもうた。そこには、怒り狂った化け猫が立っておった。眼と口は真っ赤に光り、今にもばさまに襲いかかると、思うたそのとき、「びしゃっ」ばさまは、手桶の水を化け猫にかけたんじゃ。そいで、おもむろに、「甚五郎じゃ!甚五郎!甚五郎!あっはっはっはっはっ!」ばさまは、顔中口にして、大きな声で言うた。「ぎゃあああああ!」化け猫は、飛んで逃げて行った。太兵衛と与作は、「やった、やった。ばさま、たすかったぞ。」喜んで、ばさまを見たんじゃ。そしたらの、そのとき振り向いたばさまの顔はの、なんと、真っ白なねこの顔じゃったと。眼の色が片方ずつ違ったんじゃと。そうしての、それはの、ぱっと、着物をまくって外へ走っていったんじゃ。二人は、あんまりなことに、魂抜けたみてぇになっとったそうじゃ。ばさまに化けとったんじゃな。そいつが開け放っていった戸板の外にはな、お月さんが明るかったんだと。そこには、ばさまの着物だけが落ちていたそうじゃ。いつから、化けとったんか、わからんかったそうじゃ。


「どうじゃ。こんな話じゃ。」

そう言って、ばあさんは、丸めた右手をぺろりと舐めた。




どうも、最近猫とトイレにはまっているような?方言は適当です。ご容赦ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 独特の語り口に引き込まれ、情景が浮かぶままに読み進めてしまいました。 化け猫は悪いものとされているけれど、一概にはそう言えないんじゃないか、と思えるような、温度が伝わってくる物語でした。いた…
[一言] 怖いんですが、無性に懐かしさが込み上げてきました。 田舎の古屋敷で、おばあさんが囲炉裏の向こうから、淡々と語る様子が浮かんできます。 話が進むにつれ、背筋がむずむずしてくるのですが、もっと先…
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