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三話「調査開始」

「岩垣君、ちょっといい?」



 その日、比奈が最初に話しかけた人物は直弘だった。何事かと教室がざわめく。



「朝からどうかしたか?」


「その、聞きたいことがあるんだけど……」



 比奈は何故か恥ずかしそうに手をモジモジさせながら話す。お陰で後ろで見守る男子達が「ふおおお!?」と凝視している。天然な比奈さん流石です。



「な、何だ……?」



 直弘もちょっとドキドキしてるのか緊張の節が見られる。



「昔のアイドルに詳しかったら私に教えてほしいの!」



 週末明けの学校は、男子達が一斉にずっこけることから始まった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 



「えーっと、比奈はその憧れのアイドルについて詳しく知りたかったのね」


「うん」



 由香梨のまとめに比奈が頷く。

 朝の一騒動後、とりあえずいつものメンバーが集まって比奈の話を聞くことになったわけだ。まあ、俺は大体把握してたわけだが。

 それで比奈に質問された直弘はというと、



「不覚……! 俺が香月の助けになることが出来なかっただと……!」



 と床に手と膝をつけてすずーんと落ち込んでいた。どうどう、と隣で若菜ちゃんが慰めている。



「俺はその人のこと覚えてるよ。小学生の時流行ってたし。いつの間にか姿を見ることはなくなってたけど」


「……私もそんな感じ」



 子供の頃はただ何となく流行りのものを見てただけで、誰もマネージャーさんの顛末を知らなかった。

 そもそもスキャンダルというもの自体知らないわけだから当然なことではあるが。



「由香梨は何か覚えてたりしないのか?」



 マネージャーさんのアイドル名を話してから彼女はあまり口を開かなくなっていた。何か思い当たる節でもあったりするのか……?



「……いやちょっと子供の頃を思い出して」



 由香梨は苦い顔をする。どうしてだ、と考えていたら思い当たる節が……。



「そう言えばお前、そのアイドルの真似してたな」



 図星だったのか由香梨が反応する。

 ああ、そうだ思い出してきたぞ。



「確かジャングルジムに登って、『急に歌うよ!』って言って歌ってたら足滑らせて落ちたんだったな」



 当時はものすごい心配してたけど、怪我も大したことなくて由香梨の両親も笑ってたな。

 確かに思い返すとちょっと笑えてくる。



「和晃、あんた今少し笑ったでしょ」


「いやいやそんなこと……」



 今と比べてかなり男勝りだった彼女がアイドルに憧れて、慣れないスカートを履いた。それが原因で足を滑らせ、あげくクマさんパンツが丸見えに……。



「……ぶふっ」



 抑えられなかった。



「ほう、あんた、私に喧嘩売ってるのね」


「いや、だって思い出すとあまりにも間抜けすぎて……くくっ」


「子供時代には誰だって一つや二つ黒歴史あるでしょうが! ただでさえ何をしたか語ったくせに!」



 もはや胸を掴んで完全に怒りモードの由香梨である。



「狙ってやったわけじゃないし、悪気があったわけでもないんだ」


「尚更悪いから!」



 ごもっともです。



「えっと、その本題から逸れてる気がするんだけどいいのかな……」



 久志がまともなことを言ったが、結局この時間は俺と由香梨がギャーギャー喚いてただけだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 昼休み。自分達で調べた方が早いと判断し、俺と比奈はコンピューター室に向かっていた。



「なあ、比奈」


「何?」



 これからマネージャーさんのことを調べるに当たって、先に彼女の引退の理由を言っておくことにした。彼女がスキャンダルにあったことは調べればすぐわかることだし、先に知っておいた方がショックを受けないで済むだろうと判断したからだ。

 ただ無邪気な彼女に真実を伝えるのは少し気が引ける。



「実はマネージャーさんがアイドルを引退した理由だけど――」



 俺は包み隠さず真相をバラした。



「……そうだったんだ。芸能人はやっぱりそういうこと尽きないよね」



 ショックを受けるかと思ったがそうでもなかったようだ。現アイドルとしてそういったことには肝が据わってるんだろうか。



「けど納得したよ。公開恋愛をする前のこと覚えてる? そういう理由だとあの時の彩さんの考え方は凄くしっくりくる」



 公開恋愛前か……確かアイドルでも恋をしたり青春したりしてもいいんじゃないのかって考え方か。

 アイドルは皆のものという考えが一般的で、彼氏など言語道断というのが現状だ。だからスキャンダルなんてものも存在する。

 そういったことも踏まえた上でマネージャーさんは違う見方をしてした。普通ならおかしいけど、元アイドルで恋人といる所を写真で撮られたりなんてしたら……マネージャーの立場でもそういった意見なのも納得できる。



「比奈の言う通りだ。けどそう考えると、マネージャーさんは本当の恋人との逢引をスキャンダルされたってことになるな」


「やっぱりそうなるよね」



 比奈と違って本物の恋人だからこそ彼女はその思考に至ったと考えられる。

 そうなると公開恋愛をする時に一番心境が複雑だったのはマネージャーさんなのかもしれない。



 コンピューター室でマネージャーさんのアイドル時代の名前を調べる。

 匿名で誰でも編集できる百科事典などにも彼女のことは詳しく書かれていた。

 しかし書かれていたことは特に当たり障りのないもので、どれも知ろうと思えばすぐに知ることの出来るもの、早い話本人の口から聞けるようなものばかりだった。



「うーん、確かに彩さんの現役時代のことはよくわかったね」


「ああ……」



 けど俺も比奈も満足していなかった。

 マネージャーさんは色々知ることになると言っていた。彼女の言う「色々」とは誰でも分かるようなことじゃないはず。だから彼女は俺に比奈のことを頼んだのだ。



「もう手詰まりかな」



 ネット以外にも調べる方法はいくらでもある。けどどれも俺たちが求めていることを知ることは出来ない気がする。



「いや、待てよ……」



 ある事を思いついた俺は財布を取り出し、中から一枚の紙を抜き取る。



「カズ君、それは……?」


「前に話した記者さんの名刺だ。記者さんならゴシップについて詳しいはずだし、何か知ってるかもしれない」



 この前彼と再会した時、出来ることがあれば手を貸してくれると言っていた。まさかそれがこんな所で活きてくるとは……。

 電話をかけてみる。正直望み薄だが……。



『はい、こちら――』



 電話に出た記者さんは出版社名と自分の名前を述べた。自分の名前を名乗ると彼の口調は柔らかになる。



『高城君か。こんな時間にどうしたんだい?』


「ちょっと知りたいことというか、調べて欲しいことがあるんですけど……今大丈夫ですか?」


『今ちょうど昼休みだし大丈夫だ。それで調べて欲しいことってのは何だ?』



 頼られたことが嬉しいのか、純粋に記者として調べることに意欲が湧いたのかわからないが、彼は少し高揚していた。

 俺はマネージャーさんのアイドル時代のことを知りたいと伝える。



『また懐かしい名前が出たな……。彼女のことなら、昔うちの会社が徹底的に調べ上げたらしいから資料は簡単に見つかるはずだ。ちょっと待ってな』



 そう言われると電話は保留状態になる。

 それにしても徹底的に調べ上げた、か。やはり恋人がいるとばれて相当騒ぎになったのだろう。

 少しして記者さんが戻ってくる。



『確かに資料はたくさんあったんだが、かなり膨大でな。全部調べて伝えるわけにもいかないし、時間がある時に調べて情報をまとめておくよ』


「ありがとうございます」


『これぐらいお安い御用だ。しかし彼女のスキャンダルを最初に取り上げたのはうちらしいな。じゃないと普通こんなに資料はないぞ』



 比奈の憧れのアイドルも同じ出版社にスキャンダルを取り上げられた。何という因縁だ。



『そうだ、彼女のスキャンダルの相手も調べることが出来そうだけどこっちはどうする?』


「うーん……比奈、マネージャーさんのスキャンダルの相手は気になるか?」


「ちょっとだけ気になるかな。簡単にでいいから知りたい」


「分かった」



 比奈の言葉をそのまま記者さんに告げる。



『了解だ。そっちも調べておく。とりあえず相手の名前だけ先に教えておこう。確か――』



 俺は彼の次の一言に耳を疑った。



『名前は伊賀紘平。今はテレビ関係の仕事をしているそうだ』




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