エピローグ
夜空の星が美しい。こうして空を見上げるなんていつぶりだろう。
「今日は疲れたね」
「凄かったよ、ほんとに」
ライブが終わって、俺達二人は帰宅についている途中だった。けれどライブの余韻が中々消えず、小さな公園に寄り道して、二人で星空を見上げている。
「そうだな、語りつくそうと思えば一晩中語れるけど」
「さっきも十分聞いたし、今日はもういいかな」
ライブが終わった後、彼女が一息ついたところでどうだった、とか聞いてくるもんだから全力で語りつくした。周りが疲弊して、比奈も苦笑するしかないほどに熱く語った。
「風、気持ちいいね」
「そうだな」
長かった一日もあと二時間程で終わる。まだまだ余韻冷め終わらぬってとこなんだけど。物足りない。まだ比奈と何かしたい。
「そういえば後片付けはいつも翌日って言ってたけど、いつもの後夜祭はどんなことしてるの?」
機材などの後片付け等は全部翌日にやることになっている。後夜祭があるため、これは通年のことだ。
「そうだなあ……」
後夜祭があるのは知ってる。知ってるんだけど……実は去年出ていないんですよ私。参加自由だからめんどうだし帰っちゃった勢です。
「例えば優秀な模擬店のクラスを表彰したりだとか――」
出てなくてもこれがあるとは聞いていたのでまずはこれを語る。他には……適当にでっち上げるか。
「異性の子とダンスしたりだとか」
「ダンス?」
「そ、ダンス」
嘘をついたのも比奈の目が期待に満ち溢れているのが悪い。その純粋さ何とかしてくれ。……いや、いいけど。そこが最高なんだけど!
「ダンス、か……。それもやってみたかったな」
「…………」
彼女は少し物足りなそうに言う。全く、こういう時ぐらい素直になってほしいものだ。
「比奈、手を出してみて」
「え、こう?」
比奈は手を差し出す。俺は彼女の手の前で膝立ちをし、両手で優しく包み込む。
「――私と一緒に踊りませんか、お姫様……なんてな」
「……は、はい」
月明かりに照らされた彼女は恥ずかしそうに頬を染めていた。けれど決して嫌な顔はしてないし、むしろ嬉しそうだった。
「では、こちらへ」
立ち上がり、比奈をこちらに引き寄せる。片方は手を掴み、片方は彼女の腰に腕を回す。
「えっと、私、こういったこと初なんだけど」
「俺もだよ。見よう見まねだ」
少しだけ素を出したところでまた演技に戻る。
「――ですが今宵のお客様は貴女唯一人。ぎこちなくても構わないですから、私に合わせて動いてください」
「――はい」
俺達は小さな公園で踊る。観客は誰一人いない、俺と彼女だけの舞踏会。
……いや、違うな。主賓の二人と観客は一人。その観客とは空に高く浮かび、幻想的な明かりを放つ真ん丸いお月様だ。
月を唯一の観客として。俺と比奈、二人の後夜祭はまだ終わらない。




