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四話「秋だ! 残暑だ! テコ入れ回だ!(中編)」

 比奈達と合流しようと動き出したものの、彼女達はどこかに移動してしまったらしく中々合流出来なかった。というわけで施設内をあちらこちらと周っているところだ。

 こんな時に携帯さえあればすぐ連絡取れるのに、と現代人らしい悔しさを感じる。



「どこだ……」



 客は結構多い。秋とはいえやはり暑いからか。ただ若い子よりも家族連れが目立つ。親と戯れる子供を見るのも癒されるが、健全な男子高校生としては若い女の子が多い方が嬉しい。非常に残念だ。

 来年こそは夏に来ようと決心した所でようやく見知った顔を発見する。



「おーい、久志ー」



 水も滴るいい男・久志だった。彼もこちらに気づいたらしく、手を振ってくる。



「よかった。やっと見つけた。完全に迷子だったんだ」


「なら合流出来てよかった。俺たちもカズ達を探してたし。それに困った事が起きて助けが欲しかったから」



 彼は隣にいるそれに目を向ける。

 久志は何故か小さい女の子と一緒だった。目が赤く腫れていて、どことなく怯えている。

 ……あり得ないと思うけど、まさか。



「……誘拐したのか?」


「んなわけあるかっ!」



 久志はロリコンではなかったか。それはよかった。

 というかボケてる場合じゃない。久志の大声ツッコミで女の子を必要以上に驚かせてしまった。



「この子、迷子らしいんだ。迷子センターに連れてこうとしてるんだけど……」



 チラッと久志が女の子を見る。すると女の子はビクっと体を震わして距離を少し取る。




「……こうして怯えられるんだ」


「……なるほど」



 更に話を聞くと、どんなに優しく話かけても態度を変えてくれないらしい。だからと言って放っておくわけにもいかないということで途方に暮れてたらしい。

 とりあえず屈んで女の子の目線に合わせる。距離はそのままでコミュニケーションを試みる。



「こんにちは」



 距離を取られた。何故だ。全力全開の笑顔だったというのに。



「大丈夫、このお兄ちゃんは悪い人じゃないよ」



 久志がフォローしてくれる。一応久志は女の子と僅かではあるが打ち解けているらしい。

 距離はそのままだが、こちらに目を向けてくれる。話を聞くぐらいならしてくれそうだ。



「そうだ、香月比奈って女の子知ってる?」


「香月……比奈……テレビに出てる?」



 儚い希望だったけど、どうやら成功したらしい。



「そうそう。彼女が歌ってる姿は見たことある?」



 女の子は頷く。



「お兄ちゃん、彼女の大ファンだから歌ってる時のダンスを真似出来るんだ。ほら」



 立ち上がり、適当に踊り出す。勿論振り付けなんて覚えてないから本家の要素はどこにもない。

 しかし予想以上に周囲の視線を集めていた。横に目をやると若いカップルがクスクス笑いながらこちらを見ている。畜生お前らなんて爆発しちまえ。

 けど俺の突飛な行動は無駄じゃなかったらしく、



「あはは」



 と女の子は笑ってくれた。



「どうだ、完璧だろ?」


「ううん、全然違うよ。本当はね、こうしてこう……」



 女の子は小さい体で懸命に踊り出す。ダンスの出来はともかく、見てて微笑ましかった。

 しばし比奈をダシに使ってコミュニケーションを進め、警戒心が解けてきた所で改めて質問する。



「お母さんかお父さんはどこにいるかわかる?」


「わかんない……」



 迷子だもんな。そりゃそうだ。



「じゃあ、迷子センターに行こう。そこに行けばお父さんとお母さんに会えるからさ。お兄ちゃん達がそこまで案内してあげる」



 しかし女の子は首を振る。



「お母さんが知らない人に着いていっちゃ駄目って」



 ああ、頑なまでに警戒してたのもそれが理由か。小さな子だけどちゃんとした意思を持ってるんだ。偉い。



「けど困ったな。どうすれば……」



 と参った所で、



「あ、いた!」



 という声が聞こえた。目を向けると二人の大人がこちらに駆けて来ていた。



「加奈、ここにいたのね。迷子センターにいないからどこに行ったのかと思って……」



 母親と思わしき人が女の子に抱きついた。



「すいません。うちの娘の面倒を見てもらってくれてありがとうございます」


「いえ、そんなこと。迷子センターに連れて行けなくてこちらこそすいません」



 父親の対応を久志がしている。



「本当にうちの子をありがとうございます……!」



 母親に頭を下げられる。



「俺たちは何もしてませんよ。お子さんが見つかって何よりです」



 これにて一見落着だな。



「お兄ちゃん」



 女の子の親御さんに散々礼を言われ、そろそろ退散しようというところで、



「バイバイ」



 と手を振りながら別れの挨拶をされる。

 俺たちも同じように手を振り返し、女の子とその家族と別れを告げる。



「助かった。流石だよ、カズ」


「いや、あの子が比奈のこと知ってたからどうにかなっただけだ。感謝するなら、有名になってくれた比奈にするべきだな」



 もしあそこで反応してくれなかったら万策尽きていた。



「ところで久志はどうして一人であそこにいたんだ?」


「トイレに寄ってその帰りに偶然ね。カズこそ菊池さんはどうしたの?」


「ああ、それは……」



 ここまでの一連の流れを話す。



「なるほどね。でもそれって菊池さんも迷子になってるんじゃ……」


「充分あり得るな……」



 そこら辺全く懸念してなかった。



「じゃあ、俺は菊池さんを探してみるよ。直弘達なら競泳プールにいると思うから、先に行ってて」


「わかった」



 競泳プールの方向を教えてもらい別行動を始める。別れる際、久志はこちらを向いて、



「やっぱカズは凄いな」



 笑顔を振りまきながらそんなことを言ってきた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ここの競泳プールは半分がコース分けされておらずに自由に泳げ、もう半分、つまり四コース分はきちんとローブが張ってあるものだった。比奈達三人は自由に泳げる側にいた。



「何やってるんだ?」


「あ、カズ君」



 見れば比奈が若菜ちゃんの手を持って、若菜ちゃんはそれを支えにして水に体を浮かせていた。



「泳ぎの練習だ。見ればわかるだろう」



 位置的に直弘は言葉で指南していたようだ。俺が来たことで一旦練習をやめ、普通に立った。



「少しは泳げるようになった?」


「……バタ足なら任せて」



 腰から上は駄目なのか……。



「由香梨に若菜ちゃんに泳ぎを教えてあげてって頼まれたんだけど、俺は必要ないかな」



 そしたらコースのある方で準備運動も兼ねて泳いでおきたい。



「……是非教えて」



 と思ったが食い気味に請われた。



「……それに二人は競争したいらしいし」


「そうなのか?」


「ああ、話の流れでな」


「岩垣君、泳ぐの上手っていうから私も対抗心が湧いちゃって」



 やはり比奈は負けず嫌いのようだ。



「……私のせいで二人ともあまり泳げてなかったから、丁度いい」


「準備運動はちゃんとしたし、それなら私はあまり泳がなくてもいいんだけど」


「……遠慮しないで」



 こんなに拒むってことは比奈の教え方に不満でもあったのだろうか?



「中里が二人きりを望んでいるようだし、そうしてあげよう」


「え……そうなの?」


「そうだ。だから俺たちは体を暖めておこう。じきに久志と菊池が戻ってくる。そしたらその二人に審判を頼もう」



 二人はさっさとコースのある方へ行ってしまった。



「……和晃君」



 ちょんちょんと背中をつつかれる。



「ああ、泳ぎを教えるんだったな。早速やるか」


「……うん。だけど、本当によかった? ……比奈と離れちゃって」



 若菜ちゃんは申し訳なさそうに言う。



「別に比奈といつも一緒ってわけじゃない。それにこうして他のやつと絡んでくれた方が嬉しい」


「……和晃君、娘を心配する父親みたい」



 俺って比奈に対してはそう見られているんだろうか。俺、将来親バカルート突入しちゃいそう。



「父親みたいっていうのはともかく、俺も比奈以外の人達――若菜ちゃんとも一緒にいたいしね」



 若菜ちゃんを見ると顔を俯かせていた。表情は見えないが心なしか頬が赤くなっているような……?



「……私も皆と、和晃君や、勿論比奈とも一緒にいたい。だから今、私は嬉しい」


「俺もだ」



 はは、と笑顔を浮かべる。

 若菜ちゃんはそんな俺をジーっと眺めて来る。どうしたんだ? 若菜ちゃんにジト目で見られるのはご褒美レベルの嬉しさではあるんだけど。



「……撫でて」


「はい?」


「……だから、撫でて」



 若菜ちゃんは撫でやすくするためか頭を差し出してくる。



「いや、撫でるのは構わないんだけど、どうして突然?」


「……男ならごちゃごちゃ言わない」



 無理矢理押し切られている感が半端ないぞ。



「……ほら」


「わかったわかった。お姫様の仰せのままに」



 よくわからないが、とりあえず彼女の頭に手のひらを置いてさすり始める。若菜ちゃんは気持ち良さそうにその感触を味わっていた。



「……よし、充電完了」



 充電って何だ。



「……これで溺れても大丈夫」


「大丈夫じゃないから。水を舐めたらあかんぞ」



 一度水中で足をつったことがあるのだが、あの時の恐怖は今でも忘れられない。



「……真面目なツッコミはいいから、泳ぎ方教えて」



 彼女は甘えるように求めてくる。



「はいはい」



 猫のようなお姫様の望むまま、水泳の特訓を開始した。




今回のお話で10万文字突破です。

PVは15万アクセス、UAは2万8千アクセスを突破しました。

ここまで来れたのも読者の皆さんのお陰です。

今後もどうかよろしくお願いします。

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