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三話「秋だ! 残暑だ! テコ入れ回だ!(前編)」

 今日の天候は予報通りあまりよろしくない。空は灰色の雲で覆われ、いつ雨が降り出してもおかしくなかった。けれど、



『俺たちの心は晴れやかだぜ!』



 俺達(主に自分と直弘)には関係なかった。



「二人ともテンション高いなー」


「むしろ何故お前は高くならないんだ! これから学年でもトップクラスのスタイルを持つ中里と、アイドルの香月の水着姿が! 生で! 見れるんだぞ!」



 直弘のテンションが完全にゲージを振り切っている。一応由香梨がいることも忘れないであげてください。

 俺たちは予定通り屋内プールにやって来ていた。スライダーや流れるプールもあり、中々本格的である。

 俺達男子はとっくに着替えを終え、本日のメインイベントである女子の水着姿のお披露目を今か今かと心待ちしているところだ。



「お待たせー」



 待ち望んでいた声がついにきた。



「ど、どうかな……?」


「……胸がきつい」


「あんまり見るなよ男子ー」



 全体的にバランスが整い、モデルのようなスラッとした美しいスタイルの比奈。三人の中で一番背が低いのに胸が一番でかい若菜ちゃんは自分の豊かで柔らかそうな二つの実を気にしている。由香梨も二人には劣るものの、胸と少しぽっちゃりとした身体がむしろ色気を放っていた。

 三人の魅惑的な身体は周囲の男性陣の視線もクギづけにしていた。



『おおおお!!』



 女子達の開放的な姿に思わず声を上げる俺と直弘。全く持って眼福である。



「久志ー!」


「え? 何この手? ハイタッチ?」



 久志は戸惑いながら手を高く上げる。そこに久志と同じように高く上げていた手を近づける。手の平同士がぶつかり合い、パチーンといい音が辺りに響く。



「久志!」


「え? え?」



 謎のハイタッチが終わると今度は直弘が彼の手を掴む。



「お前の何気ない一言で今日を迎えられた。ありがとう、本当にありがとう!」



 直弘は感動で今にも泣き出しそうに見えた。



「えっと、これは?」


「……いつものことだから気にしない」



 比奈の疑問に若菜ちゃんが答えた。いつもとはどういうことだろう。



「はあ……とにかく、あんたらの感動は分かったから女子達にも目を向けてやりなさい」



 由香梨は面倒くさそうに言った。

 彼女の言うとおり改めて彼女達に目を向ける。

 比奈は白の水着姿で、見られるのが恥ずかしいのか手で隠そうとしている。顔を合わせると一層頬を赤らめた。水着姿もやばいのに、そんなリアクションをとられたら……もう鼻血ものだ。

 若菜ちゃんは黒の水着で、大人っぽいそれとまだ少女の面影を残す彼女の二つが上手くブレンドし、背伸びしてるような感じが逆に妖しい魅力を放っている。

 由香梨は赤の水着で彼女らしい活発な印象を想像させてくれるのだが……。



「……由香梨。元気を感じられないぞ」



 比奈も若菜ちゃんもそれぞれ違った魅力を感じることが出来る。しかし由香梨はどこかだらしない格好で、元気を感じられない。これなら制服姿の方がまだマシだ。



「あのね、考えてみなさいよ。一人はアイドルで、スタイルの良さが一般の比じゃないでしょ。で、もう一人は女の武器を最大まで発揮させた、女から見ても羨まボディの持ち主。対する私は何の取り柄もない普通の女……。更衣室での絶望はきっと誰にも分かってくれないわ……」



 由香梨はフッとアンニュイに口を引きつらせた。



「……別に羨まボディなんかじゃない。肩凝るし」


「ええい、黙ってなさい天然巨乳女!」



 しかも若菜ちゃんがそれに追い打ちをかける。

 ううむ、俺からしてみればそんな落ち込むことはないと思うんだけど。由香梨には由香梨の魅力があるのだから。



「そんな落ち込むなって。由香梨もいいと思うぞ。平均的な胸に少しぽっちゃりした感じがグッドだ」



 俺は素直な感想を口にしたのだが、




「へえ、平均的な胸。へえ、少しぽっちゃりとした身体……と」



 彼女は何故か凄味を出して、俺の頭をガシッと掴んだ。



「あの……由香梨さん?」


「ごめん、皆。先泳いでて。この馬鹿を少し懲らしめてくるから」


「……え!?」



 助けを請うように皆に目を向ける。直弘と久志は当然だ、と頷き、比奈はあははと苦笑いをしており、若菜ちゃんに至っては、



「……死なないでね」



 という始末である。



「由香梨さん、全力で謝るんで見逃してくれはしませんか?」


「問答無用」



 とても爽やかな笑顔でした。

 

 そして俺はなす術なく、由香梨に引きずられていくのだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「全く、和晃は乙女心を分かってないわね」


「そりゃまあ男だし」



 あのまま引きずられてきた俺は流れるプールで由香梨から説教を受けていた。



「それに俺のあの言葉はどちらかという褒め言葉だぞ」


「和晃にとってはそうでも、私にとってはそうじゃないのよ。ただでさえ最近体重増えたんだから……」



 落ち込む由香梨だったが、やはり俺は別にいいんじゃないかと考えていた。ぽっちゃり……といってもそれは太っているという意味ではない。女性モデルとかはスタイルはいいと分かるのだが身体が細すぎて受け付けないこともある。少し肉のついた方が男としては、女性に対して好感を得られる。というか色気を感じられるというか。由香梨の体型はまさにそれだ。

 ちなみに比奈の場合は細すぎもせず、バランスの良いモデル体型であると補足しておく。

 ……俺は何を語っているのだろう。



「まあ、女が体重気になるのはよく分かるけどさ、男からしてみたらよっぽどじゃない限り何とも思わんぞ。それに由香梨はクラスの女子の中ではスタイルいい方じゃん」


「そうかもしれないけどね、女の子は複雑なの!」



 何とも面倒だ。



「とにかく、別にお前に外見上女として劣っているところはないよ。それに由香梨はどちらかというと見た目よりも中身が持ち味なんだ。なのに落ち込んでたりしたら、それこそ魅力半減だ。由香梨には由香梨の武器がある。だから気にすんな」



 由香梨に彼女自身の良い所を教えて励ます。

 彼女はしばらく呆けたようにこちらを見続ける。



「……今の言葉、考えた上での発言?」


「いいや、自然の言葉だ」



 由香梨と俺は小学校以前からの付き合いである。人生でも親の次ぐらいに付き合いが長いんだ。彼女のことはこれぐらい知ってて当然だ。反面、彼女の悪いところも勿論知っているわけだが……。



「……和晃はいつか女を泣かせるわね」


「どういうことだよ」


「別にー。なんか怒る気失せた」



 理由説明を放棄される。



「満足したなら、皆の所に戻ろうぜ」


「折角だし戻るなら一周してからにしない?」



 由香梨の提案で流れるプールを一周することになった。



「そういや比奈はどうだ? 馴染めてきてる?」


「まだちょっとぎこちないけど、少しずつ確実にね。心配しなくても大丈夫」



 そうか。ならもう必要以上に気にかける必要はないかな。



「しかし和晃も比奈と出会ってからは何かと比奈がー、比奈はーって言ってるよね。嘘じゃなくて本当に惚れてるとかないの?」


「いや……ないな。人間としては好きだけど、女として好きとはちょっと違う」


「さっきまで比奈を完全に女として見てたけどね」



 ジトーっと見られる。



「……それとこれはまた別の話だから。最初に関わってから気がついたら級友にもなってるし、あいつの事情を知ってる身としては放っておけないっていうか」


「あんたは比奈の父親か」



 違うけど心境としてはそれが近いのかもしれない。



「とにかく今の所は恋愛感情はない、と」


「そういうことだ。……なあ、これってプールで歩きながらする話?」



 冷たくて気持ちいいねーぐらいの会話があってもいい気がする。



「プールといえばそうね……後で若菜に泳ぎを教えてあげてよ」


「ちょっと待て。若菜ちゃん泳げないのか?」



 由香梨はさも当然のように頷く。



「聞いてみたら、折角の機会だし泳げるようになりたいってことで今日参加したらしいの」


「やけに積極的だったのはそれでか……。でも俺に頼まなくても由香梨泳げるんだし、お前が教えてやればいいじゃん」


「まあねー。でも和晃の方が泳ぐの上手でしょ」


「そうかもしんないけど、男より女同士の方が……」



 はあと由香梨がため息をついた。何故だ。



「あんたも鈍い男ねえ。公開恋愛を始めた時一番心配してたのは若菜だよ。あれから若菜とちゃんと話をしてあげたの?」



 ああ、そういうことか。要は心配かけた若菜ちゃんときちんと話せってことか。確かに彼女は公開恋愛に否定的だったわけだし。由香梨は若菜ちゃんと二人で話す時間を設けてくれようとしているんだ。



「今日、これから話す」


「うん、ならよし」



 俺の返答に満足気に笑う。

 ちょうどプールを一周したところだった。



「じゃあ私はお邪魔にならないよう、後から合流するから。和晃は先行ってなさい」


「へいへい」



 由香梨はざばあと音を立てプールから上がる。

 彼女の後ろ姿を見て思う。

 お前も二人に引けをとらないぐらいいい女だよ、とちょっと臭い感想を。




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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は思ったことをすぐ口にするタイプですよね。人によっては好き嫌いが分かれるタイプかも。
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