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八話「誘導デート(?)」

 まず始めに言っておく。

 今日はデートではない。遊び。お出掛けだ。

 ただ相手が女の子な以上、多少外見に力を入れることも、待ち合わせの予定時間より少し早く来ることも決しておかしいことじゃない。

 携帯には「デート頑張ってね」という趣旨のメールが友達から届いた。重ねて言うが、決してデートではない。



「あ、カズ君」

 

 様々な邪念を振り払い、声のした方に目を向ける。

 彼女の姿が見えた瞬間、振り払ったばかりの邪念が倍になって戻ってきた。

 白いフリルのミニスカートに、七分袖の薄い水色のシャツ。スカートから伸びる綺麗な白い足に、膝上まである靴下が僅かに太ももを盛り上げている。いわゆるニーソってやつだ。

 思わず唾を飲んでしまう程の可愛さを持っていた。



「早いね、来るの」



 俺を見つけるとパタパタと近づいて話しかけてくる。



「……カズ君?」



 つい彼女に見とれてしまっていた。

 不思議そうな顔をして首を傾げる様子も可愛げがあってさらに悶々とさせる。



「え、えっと比奈こそ予定の時間より来るの早かったな」



 時間を確認するとまだ予定の時間になっていなかった。

 彼女は恥ずかしそうに視線を逸らして、



「き、今日は特別な日だから浮かれて早く来ちゃった」



 ようやく分かった。直弘よ、これがいわゆる萌えというやつだな。可愛いとか、美しいでは表現できないこの悶々とさせる感じ。……いい!



「比奈、その台詞は色々と危険だから無闇に言わない方がいい」


「? う、うん」



 釘を打っておく。彼女はきょとんとしてたけど。



「それにしても、今日の服、その……凄く似合ってるな」



 女の子と遊ぶ時に服を褒めるのは基本……なのかどうかはわからなかったが、今日に限ってはその通りだったので自然と口から出た。



「ほんと? 私にしてはちょっと大胆かなあ、なんて思ってたけど」



 確かに比奈は清楚な服装をしてくるのが多かった。こんな短いスカートに絶妙な絶対領域……。

 男にとっては眼福です。本当にありがとうございます。



「これ、昨日少ない友達に相談して薦められた格好なんだ」



 少ない友達とか自分で言わない。

 何はともあれ、友達グッジョブ!



「たまにはそういう服装もいいと思うよ。歌歌ってる時とかもっとフリフリのドレスとか着てるじゃん」


「あ、あれは舞台用の着替えで……!」


「何より、可愛い。いつもの比奈とギャップがあって、ドキドキする」


「―――!」



 ついに比奈は顔を真っ赤にして言葉を紡げなくなった。

 ああ、こういう姿を見れるなんて公開恋愛最高。いつまでもからかっていたい。

 でも、今日は遊ぶことが真の目的じゃない。



「さ、そろそろ行こうぜ。時間が勿体無い」



 彼女は火照った顔でうん、と小さな声を出して頷き、俺の隣に並んだ。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 集まった時間が時間なのでまずは昼食を摂ることにした。

 相変わらず彼女とランチの時は例の店である。



「ここに来るのももう四回目だ」


「私以外ともここに来たの?」


「比奈にここ紹介されて、美味しかったから友達ともここに来たんだ」


「そうなんだ。何か嬉しいな」



 嬉しそうにクスクスと彼女は笑った。

 本当はスキャンダルの真実を暴く場所としてここを使い、やはりあまり味を楽しめなかったことは言わないことにした。

 そう考えるとまともにここの料理を味わうのは二回目となる。一回目もどちらかというとシリアス気味だったので、純粋に食事を楽しむのはこれが初めてかもしれない。



「そういえば今日は変装してこなかったんだ」



 料理を注文した後、俺はそう切り出した。

 彼女がオフで出掛ける時はメガネをかけたりサングラスをかけたり、何かしら変装をしていたけど、今日は素の彼女だった。



「するかどうか悩んだんだけどね。折角だしっていうのもあるし、カズ君と私は表向きはこ、恋人同士だし大丈夫かなって」



 俺相手なら世間上は公認の仲だから見られても問題ないってことか。公開恋愛をしてからは俺にばかりメリットがあるな。してよかった公開恋愛。



「その代わりジロジロ見られまくったけどな」



 商店街の人通りでは注目の的だった。



「まあ、それは仕方ないね。そういう仕事してるし、公開恋愛が更に追い打ちかけちゃったし」



 しかし芸能人の彼女は俺と違って慣れっこのようだった。



「それで、ご飯食べた後どこに行くの?」



 彼女はその先のことで頭がいっぱいなようだ。



「そのことなんだけど、比奈はいつも何して遊んでるんだ?」



 アイドルがどういったプライベートを送っているのかも気になるし、同時に女の子としてどういうことをしてるのか知りたかった。



「うーん、いつもは色々店を回って服見たりとか」



 定番中の定番だ。男も全くしないわけじゃないけど、女の子程楽しむことは出来ないと思う。



「後は……漫画喫茶で漫画を読んだりとかかな」



 予想外の言葉が出てきやがった。



「それは珍しいな。けど、漫画喫茶って遊ぶところなのか……?」



 のんびりするのにはいいと思うんだけど、遊ぶとはちょっと違うような。



「よく遊ぶ友達も芸能人でね、目立たないようにっていうのもあるけど。一番はその友達が漫画好きだから付き合わされたって感じかな」


「そうなんだ。比奈も漫画好きなのか?」


「最初はそこまででもなかったけど、今では大好ぶ……大好きです」


 

 今、大好物とかって単語が漏れそうだったけど……。聞かなかったことにしよう。

 でも漫画好きなのか。直弘も漫画好きで色々詳しいし気が合うかもしれない。



「他には何してるんだ?」


「この二つ以外はあんまり……。遊ぶ回数もそんなに多くないから」


「……そっか」



 こういったのには乏しいか。なら、定番だけどカラオケなんてどうだろう。



「じゃあ、カラオケに行ってみない?」


「カラオケ……」


「そう。どうだ?」



 彼女はしばし考える。



「興味ある! 行ってみたいな」


「じゃあ決まりだな。ランチの後は歌うぞー!」



 この店の料理はやはり美味しかった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ここがカラオケボックスなんだね……!」



 彼女は物珍しそうに部屋をキョロキョロしている。今時の若者でボックスなんて言う人あまりいないような気がする。



「機械を操作して曲を入れるんだよね。えっとこれかな」



 個室に入るまで緊張気味だった彼女も今ではこの通りだ。何でも興味を示す子供みたいだった。



「これで歌いたい曲名を検索したり、アーティストを検索して曲の一覧から選んだりするんだ。予約すれば曲が始まるから。採点ランキングなんかもあるよ」


「へえー」



 彼女はあれこれ機械を弄る。

 アイドルの彼女はどんな曲を入れるんだろうか。凄く気になる所である。

 待ってる間マイクの音量やエコーの音量の設定を済ませておく。



「えっと……じゃ、じゃあこれ」



 自身あり気に機械にピッと触れる。

 そして流れ出すイントロ。あまり聞き慣れないけど、これって……。

 テレビを見る。そこにはとてもわかりやすい演歌のタイトルが映し出されていた。



「なんで演歌!?」



 貴女ピチピチのJKですよね!? いや、まあ演歌でも何も問題ないんだけど。



「な、何歌っていいか思いつかなかったから……」



 初めてカラオケに来たということもあるのかもしれない。次は流行りの曲を入れてくれるのを期待しよう。

 イントロが終わり、ボーカルがいよいよ入る場面になる。



(――え?)



 正直、演歌はあまり聞かないけれど。比奈の歌うそれはとても魅力的だった。

 透き通るような声、心地よい高音、はっきりとした強弱。演歌が好きになりそうなぐらい聞いてて気持ちいい。



「どうだった?」


「……凄い」



 そうとしか言えなかった。

 歌が上手いのは知ってたけどこうして生で聞くとまた違った迫力がある。

 やはり彼女はアイドルなのだ、と改めて思い知らされる。



「次はカズ君何か歌ってみて!」


「いいけど、比奈の後だとどうしても見劣りするぞ……」



 比奈の後に歌うと自分の歌唱力が惨めに思えてくる。



「大丈夫、私はそんなの気にしないから。楽しく歌うカズ君が見れればそれでいいよ」



 比奈は何て良い子なんだ。彼女を育てた両親に尊い感謝を送りたい。



「ならご期待に添えて――」



 一昔前に流行ったJPOPを入れ、思うままに歌った。


 それからはしばらく交代で色々な歌を歌った。流行りの音楽、一昔前の流行したものは勿論、一昔前のアニソンは結構盛り上がった。

 驚いたのは比奈が最近のアニソンをノリノリで歌っていたことだった。漫画好きというのもあってアニメも見てるのかもしれない。


 喉が暖まってきた所である提案する。



「折角だからさ、自分の歌歌ってみてくれない?」


「私の曲?」



 頷く。



「こういう所で持ち歌はちょっと恥ずかしいかな……」


「今は二人きりだし、ぜひ聞いてみたい。どうしてもダメなら無理強いはさせないけど」


「うーん……」



 彼女はしばし悩んだ末、機械で自分の名前を検索する。



「特別だからね! カズ君のお願いだからだよ!」



 彼女は声を荒げて主張する。意地になってるみたいで可愛らしかった。



「じゃ、じゃあ行くね」



 イントロが流れ出し、曲が始まる。

 比奈の着信音にもなっている彼女のデビュー曲だった。

 そして自分の歌だからか、出来については最高のものだった。生と録音ってこんなにも違うものだと知った。素晴らしい。聞いてて気持ちが高まる。



「いやー、最高でした。もうこれだけで今日は満足だ」


「そんなによかった?」



 彼女は恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにはにかんでいた。



「ああ。俺のなんてどうでもいいから、このまま比奈の独占ライブを堪能したい」


「そ、それは恥ずかし過ぎるからパスで」



 まあ流石に無理か。



「そういえば比奈ってライブとかはしたことないのか?」


「デビューしてそんなに経ってないからね。持ち歌が少なくて今まで出来なかったんだ」


「出来なかった?」



 その言い方だと今は出来るってことだよな……?



「そろそろやるよーみたいな話があったんだけどね。スキャンダルのせいでそれどころじゃなくなっちゃったから」


「……ああ」



 あの時比奈の仕事のほとんどがキャンセルになったんだった。レギュラー化していた番組からも降ろされ、新曲の制作も中止になったと聞いた。



「じゃあ今はそういった話はないのか」



 うんと悲しげに言うかと思ったが、彼女はしばし逡巡し、



「……カズ君には話しても大丈夫かな。実は新曲の制作が新たに始まって、その発表の場としてライブ開催するらしいんだ」


「それ本当か?」



 意外だった。水面下でそんな計画が動いていたとは。



「これは行くしかないな」


「あーうん、カズ君はどちらかというと開催側に回ってもらう形になるかもって話になってるんだ」


「なん……だと……」



 これまた驚いた。



「まだ企画段階であまり話さないようにって言われてるから、くれぐれも内密に。よろしくね?」


「ああ、了解」



 本来なら正式にやることが決まってから俺にも連絡が来ることになってたのだろう。



「よし、じゃあライブに向けて歌の特訓といくか!」


「だ、だから恥ずかしいって!」



 こうして二人だけの楽しい時間は過ぎていく。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「楽しかったー!」



 カラオケを終え、二人で外をのんびり歩いていた。

 彼女は今日という日を満足してくれたようだ。



「責任とか言って私のわがままを聞いてもらってありがとね」


「いや、俺も楽しかったし。二人でこうして伸び伸び出来る時間ってあんまりなかったからさ」


「そうだね。……また時間が出来たらこうして遊ぼうよ」


「ああ。でも今度は二人だけじゃなくて皆で遊びたい」



 彼女は一瞬困った顔をしたけど、笑みを浮かべて、



「うん。私も頑張ってみる。皆とちゃんと友達になりたい。今度はカズ君もいてくれるから……信じていいよね」


「勿論」



 そう返事すると彼女はぱあっと顔を輝かせた。



「なんか寂しいな。このまま別れて帰るの」


「同感だよ」



 本当の恋人じゃないけど、恋人らしい言葉がこの場には合っていた。



「そうだ、折角だし学校に寄ってみないか? 実は忘れ物してて帰りに取りに行こうかどうか考えてたんだ」


「構わないけど、もう大分暗いよ。今の時間って学校開いてるの?」



 辺りは日も沈んできていて、街灯が点いてもおかしくない時間だった。



「部活もやってるだろうし、開いてるよ。よっしゃ、そうと決まれば早速行こう」



 二人で学校に向かい始める。夜に登校してるみたいで可笑しな感じがした。

 

 時間はほぼ予定通りだった。比奈も計画通り連れていけてる。

 今日は充分に楽しかったけど。本当に楽しいのはここからだ。



「ここだよね。私達の教室」


「うん。先入りな」


「じゃあお先に――」



 彼女にとっては何気ない言葉だったのだろう。実はこれ、開始の合図なんだ。

 軽快な音が響いた。一斉にクラッカーを開いた音だ。



「え? え?」



 彼女は何が起こったかわかっていない様子。

 クラッカーから飛び出した装飾物を纏った彼女に続き教室に入る。



「お待たせしたな。連れてきたぞ」



 教室を見渡す。クラスメイト達が揃っていた。教室には様々な装飾を施し、いくつかくっつけた机には大量の飲み物とお菓子が置いてある。



「和晃ー!」



 急に男子共が俺にやって来て、頭をがっちり掴まれる。



「俺らがいそいそと準備してる間に香月さんとイチャイチャしやがって……!」

「夏休み前までリア充爆発しろとか言ってたよなお前」

「後で体育館裏に来いや……!」



 何だか凄く目の敵にされてる……。何をされるっていうんだ。



「お慈悲を、お慈悲を!」



 助けを求めても男子共の圧迫は続く。



「これは一体……?」



 主役である比奈はまだ状況を把握出来ていなかった。



「驚いた? 比奈のために皆で準備したんだから」


「わ、私のために?」



 由香梨の言葉に比奈は更に困惑していた。



「そうそう、うちのクラス主催の香月比奈歓迎会だ」



 男子共の拘束から何とか脱出を果たし、説明を始める。



「比奈が皆と仲良くしたいと思ってるのと同じで、皆も比奈と仲良くなりたかったんだよ」


「そうそう。そのために和晃が比奈を連れ回してる間にこうして準備してたんだから」


「しかも俺が全面協力したんだ。素晴らしい物に仕上がっているぞ」



 直弘はどうしてこんなに偉そうなんだ。



「え、えっと、でも私……」


「言ったろ、比奈」



 そう、比奈にはあらかじめ忠告してある。



「覚悟しとけってな」



 とにかく比奈を楽しませるため、喜ばせるため。そして皆と仲良くなってもらうために。今日という日を設けたんだ。



「何かっこつけてんだ!」

「中二病かよ恥ずかしい」



 ……まあ、外野のせいでしまらないんですがね。



「最初は誰だってぎこちないものさ。色々話して互いに理解しあって、ようやく本当の友達になれるんだ。今日のこれは比奈と皆がそうなるための歓迎会だ」



 手を差し出す。

 彼女は恐る恐る、ゆっくりとだけど、俺の手を握った。

 友達として、親友として、そして一人の女の子として比奈を迎える。



「比奈。ようこそ、崎ヶ原高校へ――」




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