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アイドルと公開恋愛中!  作者: 高木健人
1章 二年生編
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十四話「公開恋愛ラジオ」

 あの宣言からおよそ二日ほど経過した。

 一度は姿を潜めた香月比奈の名前は色々な場所で引っ張りだこになっていた。

 ちなみに今回は批判ばかりではなかった。あの男は何がしたかったの、といった困惑だったり、根性の据わった馬鹿といった呆れ等の意見も多く見られた。そのお陰か某掲示板では議論するためのスレッドが立てられたり、香月比奈を寝取る方法を議論するためのスレッドも立てられたりしてる。

 ……まあ、前回とは方向の異なるご感想を頂けたし、批判があっても今のところは俺のみに集中しているようだし結果オーライだろう。何より香月比奈の勢いが再燃したというのが一番の収穫だろう。これが良いことによるものか、悪いことによるものかはここでは置いておく。


 現状はこんな感じである。

 一方俺たち本人は今日収録のラジオのために打ち合わせを重ねていた。



「前回は番組やこちらの判断で色々指示を出しちゃったけど、今回はそういうのは一切なしにしようと思う」


「私達の好きなように喋れということですか?」


「企画とかもあるし、大まかな流れはやっぱりあるけどね。けどテレビじゃないし台本を見ながらも出来る。前回のデートみたいにはならないと思うよ」



 伊賀さんは手元の台本を示しながら言う。



「でも前回もある程度自由にやらせてくれたんですよね」



 あの初デートも一定の流れは決まっていたものの、どういった会話をするかとか、恋人らしい振る舞いをどうするかなどは自分達に委ねられていた。嫌なことを無理矢理やらされるのに比べれば全然いいんだけど、ある種自由だったからこそ失敗した部分が多いわけであって……。



「高城君が不安になるのも無理ないわ。でもあの時は二人共ああいったのに慣れていなかったのもあるわ。今回は前回のそれとは全く違うわ。だから高城君は自由にやって頂戴」


「……俺『は』?」



 マネージャーさんは何故か『は』の所を強調してくる。


「ええ、二日前の件で高城君は台本に縛らせずに自由にやらした方が面白いと確信したわ」


「僕もそう思うな。普通素人が……例えプロでもあんなことしようなんて発想は浮かばない。高城君はその自由な発想で番組を盛り上げてほしい」



 何故かマネージャーさんに加えて伊賀さんまで勝手なことを言ってくる。



「いえいえ、そんなことないですよ。あれは若気の至りというか何というか……。あれから自分が何て言われてるか知ってますか? 根性の据わった馬鹿ですよ」



 マネージャーさんはしばし思案し、



「馬鹿と面白いは紙一重よ」



 なんて言ってくる。

 その考え方はどうだろう。



「とにかく進行役は比奈、番組を盛り上げるのはどちらかというと高城君の役割よ。ここ最近の比奈はちょっとだらしなかったけど、もう大丈夫よね?」



 マネージャーさんは香月さんの方を向く。



「はい。高城君にあそこまでしてもらって失敗してたら流石にばつが悪いんで。やってみせます」



 彼女は余裕たっぷりに笑う。そんな彼女の姿は今まで一番頼もしかった。



「こうなった比奈は強いわよ。もう心配はいらないわ高城君」



 マネージャーさんも安心したようににっこりと笑った。



「さ、もうすぐ本番だけど……心の準備は大丈夫かい?」



 伊賀さんが確認をとる。



「もちろん大丈夫よね」


 俺たちの代わりにマネージャーさんが答え、



「二人とも腕の見せ所よ。今度こそ成果を期待してるわよ。頑張りなさい、比奈に高城君!」


『はい!』



 そして――俺たちの公開恋愛ラジオが始まった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「まずは普通のお便りを紹介していきます」


「え、初回なのに普通のお便りとかあるのか」


「緊急で募集したらしいけど、結構きたみたいだよ」


「そうなのか……意外だ」


「では最初のお便り。這いよれ魔王さんからのお便りです。えーっと……紹介していいのかなこれ……」


「何て書いてあるんだ?」


「『比奈さんの彼氏の宣言聴かせて頂きました。テレビでこんなことするなんて頭イカれてるなとか思いました。比奈さんを独占していい気になるんじゃねえぞこの野郎』とのことです」


「おいスタッフ。ちゃんと内容読んだのかお前。え、何面白そうだからつい、だって? ただの批判じゃねーか!」


「まあまあ落ち着いて。……で、何でカズ君はお便りを増やして戻ってくるの?」


「いや、外のスタッフに文句言おうとしたらこれ届いたんで読んで下さいって。何々、『あの時の言葉は本当なのか信じられません。本人の口から処女ですとはっきり言ってほしいです』だってよ」


「え、えええぇぇぇえええ!?」


「うわ、顔真っ赤!」


「な、何で私が言わないといけないの……? あ、あれはたか……カズ君が勝手に言ったことで……」


「でも事実だろ?」


「え、いや、まあそうだけど……か、カズ君だけズルい!」


「ず、ズルいって何だよ」


「カズ君もどう……大人の階段登ってないって宣言して!」


「宣言したところで誰得なんだよ!?」


「ま、まさかカズ君はもう……?」


「いや、まだだけど! 確かにまだだけど、女性と違ってこういった経験あるないはまた意味合いが変わってくるんだ。どちらかというと言うと恥ずかしいというか何というか……」


「私としてはまだの方が嬉しい……んだけど」


「そ、そっか……」


「は、はい気を取り直して次のコーナーいきましょう!」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「つ、疲れた……」



 ラジオの収録は無事終わった。ぶっちゃけ高校生が言っていいのこれという内容が多々あったが……もうどうとでもなれ。



「うう……色々な番組に出たけど、今日みたいのは初めてで……」



 香月さんは香月さんでどよーんとわかりやすいぐらいに落ち込んでいた。彼女はどちらかというと清純派アイドルとして活動していたらしく、今回のバラエティ寄り(?)のラジオは初めてのことばかりだったらしい。

 時々興奮して高城君と呼びかけたのもその一端らしい。中でも彼女が童貞と言いかけたことは絶対に忘れない。



「お疲れ様、二人とも。比奈のイメージは崩れちゃったかもしれないけど、いつもとは違う魅力が引き出せていたと思うわよ」



 労いの言葉とさりげないフォローが入る。



「そろそろ伊賀が戻ってきてもおかしくないんだけれど」



 マネージャーさんが呟いたタイミングに合わせたかのように伊賀さんが控室に入ってくる。



「朗報だ! さっきのラジオ、ここ最近ではかなり聴取率が高かったらしい。高城君のあれの影響があるとはいえ、凄いものらしい」


「本当ですか? 良かった」


「それだけじゃないよ、比奈ちゃん。二人のラジオを週に一回のレギュラー化が決定した! あと他に比奈ちゃんにバラエティ番組の出演依頼も来てる!」


「事実なの、それは」



 震えるマネージャーさんの言葉に伊賀さんは強く頷く。



「そう……そうなのね。比奈のアイドル活動が、彼女の夢が救われたのね、今度こそ」



 彼女の夢が救われた――。

 マネージャーさんの何気ない一言が胸に響いた。一時はもう駄目かと思ったけど、俺の出すぎた行為はちゃんと実を出したんだな……。

 そう考えると達成感が感じられる。実感が湧く。やってよかったと素直に思える。



「おめでとう、かづき――」



 さんと言おうとした所で言葉が止まった。

 隣に座っていた彼女がいきなり抱きついてきたのだ。突然の事に困惑するが、それも彼女の歓喜の声で流れてしまう。



「やった、やったよ!!」



 きっと嬉しさの余り、思わずやってしまったことなのだろう。彼女の声はほんのちょっぴり涙声になっていた。



「あらあら……これは『振り』じゃなくなる日も近いかしら」


「高城君、そういう時は優しく背中に手を回すんだ」



 大人たちはニヤニヤしながら茶化してくる。けれど抱きついてる本人には聞こえてないようだ。


 多分、正気に戻ったら彼女は慌てて体を離して顔を赤面しながら必死の弁解をしてくるであろう。まだまだ彼女との付き合いは短いけど、その姿は容易に想像できた。

 彼女のそういった一面を見れるのも、公開恋愛をしたからというなら、それだけで公開恋愛を始めた価値はあるだろう。

 これからも彼女と過ごしている内にまだ誰も知らない彼女の一面が見えてくるかもしれない。いつかそんな彼女の姿を見れるように祈りつつ、今はここでしか見ることのできない香月比奈を見ようとそっと手を背中に回した。




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