エピローグ
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体が思うように動かなかった。それでも無理に動かそうとすると、痛覚が警告を発し、悲鳴を上げたくなるような痛みが生まれる。
視界もボヤがかかっているようで整然としない。首だけは何とか動くので、上に上げ、逆さまになった世界を見る。
少年が見たことのない戦隊もののフィギュアを抱えて泣いていた。膝辺りがぼんやりと赤くなっている。
泣くなよ、少年。元気な男の子だろ。それぐらいの傷、すぐ治るさ。
それよりも君が抱えているフィギュアは無事か? 俺も昔、戦隊ものは見てたんだ。今はそんな感じになってるんだな。
声をかけたくても言葉は上手く紡げない。それどころか少年の元にすら行けそうにない。
とにかく少年が無事で良かった。突き飛ばす結果になっちゃったけど許してくれ。
瞼が徐々に重くなる。小さい頃、砂場に手を突っ込んで、その上から砂を乗せていったら、重くなり過ぎて抜けなくなった、なんてことがあった。あれに似ている。
俺はここで死ぬのだろうか。
何だよ、死ぬならここは走馬灯とか浮かんでくれよ……。
心残りがあるとすれば何だろう。やっぱり文化祭の部活の劇か。
ようやく、憧れの人と共演出来たのに。憧れの人が憧れる大切な人に、彼を見て俺はこうなったんだ、と渾身の演技を見せるつもりだった。それも残念だが、無理なようだ。
ああ、くそ、最期かもしんないのに考えるのは部活や男のことか……いいのか悪いのか、わかんないな。
瞼の重みに耐えられず、瞳が閉じられていく。世界が消えていく。考えることすら面倒になって、この感覚に身を任せたくなる。
「――君!」
誰かが俺の名を呼んだ。
「――祥平君!」
何だ、梨花か。眠いから、少し寝るな。意識を失う前に女の子に名前呼ばれて良かったよ。
ぷつりと音が途切れ、同時に世界もシャットダウンした。




