第8話 それぞれの想い
文章を書いてから投稿に至るまでに約2年…
改めて読み返すと変な所もありますが、あえてそのままにしました。笑
モヤモヤする。
昼休み。俺は自分の席の机に腰を下ろして、昨日の帰りのことについてじっと考え込んでいた。
柏森さんが井尻に怒って走り去った後、俺達3人は何とも言えないような空気にさらされていた。でもすぐに井尻は何事も無かったかのように一人で帰って行った。福田さんと二人取り残された俺は、福田さんから
「有砂と井上くんを仲直りさせるの手伝って!!」
と、お願いされた。
じっくり福田さんと話をしたら、福田さんは全部知っていた。俺が柏森さんに告白したことも。
ついでに、
「翼くんだって、有砂が井上くんのことを好きってこと、気がついてるんでしょ?」
そんなことも知っていた。あの子は凄い子だな。
そう、俺は気がついていた。
ダテにずっと柏森さんのことを見ていた訳じゃない。多分、柏森さんが自分の想いに気がつく前から、俺は分かっていた。
だって柏森さんの目は、恋をしていたから。
だからこそ、俺は焦っていた。今までは遠くからでも彼女の事を見守っていれたらいいと思っていたが、それだけじゃ気が済まないようだ。しっかり、この手の傍で守りたい。井尻なんかに、柏森さんを渡したくない。だから、保健室にアイツが来たとき、思わず言ってしまった。
結果、柏森さんを困らせてしまうことになった。でも、それでも傍に居たかった。
なので、正直に言ってしまえば、今の状況は俺にとっては都合が良かった。このまま二人が離れてしまえばいい。そしたら俺が、柏森さんを守ってあげられる。
でもそれは、本当に俺が望んでいることなんだろうか。
俺は机の上に乗っていた消しカスをはらった。
結局、福田さんには「手伝う」とも「手伝わない」とも言わなかった。福田さんも、俺の複雑な心境を分かってくれたのか、それ以上はしつこく言ってこなかった。
アイツ……井尻は一体何なんだろう。
いつも無表情で、感情がいまひとつ読めないし、何を考えているのかもよく分からない。柏森さんが自分のことを想っているということには、気がついているんだろうか。
俺は少しイライラしてきた。何でアイツが柏森さんから好かれるんだろうか?良い所が俺にはよく分からないけど……
……いけない。
こういうのを「嫉妬」って言うんだ。嫉妬は一番カッコ悪い。アイツが柏森さんから好かれているなら、それを越えられるように努力しなくちゃ。嫉妬より努力だ。
それより今は、アイツと話がしたい。
「霧島―、ちょっと配布物あるからついてこーい」
「あ…はいはい」
担任に呼ばれて教室を出ると、ちょうど井尻が廊下にいた。
「あ」
井尻も俺に気がついた。すると井尻は微妙に顔をしかめた。柏森さんの言う「変な顔」だ。
「先生、俺ちょっと急用」
「え?」
担任が呼びとめるより早く、俺は井尻の腕をつかんで走った。
ひとけのない3階廊下まで来たところで、俺は井尻に言った。
「お前さぁ」
「……」
「柏森さんの気持ち、ちゃんと分かってるのか?」
井尻は首を縦にも横にも振らずに、ただじっと俺の目を見据えている。
何だよ、コイツ。本当に何考えてるのか分かんないな。
「俺がこんなこと言うのも傲慢な気がするけど…」
「……」
反応は示さないけど、ちゃんと聞いているんだろう。井尻の目は真っ直ぐに俺を見る。
「柏森さんはお前に裏切られたような気分なんじゃないのか」
「……」
「最近のお前の行動を見ててもそう。どうしてそんなに柏森さんに冷たく接するんだ?柏森さんがお前のこと信頼してくれてんのは分かってんだろ?」
井尻はうんともすんとも言わない。俺は次第に苛立ち始めた。
「どうしてか言えよ」
井尻は俺から目をそらした。俺はついに井尻の胸ぐらをつかんだ。
「何で黙ってんだよ!!そんなに自分の気持ちを隠さなきゃならない理由があるのかよ!!!」
俺がそう言うと、井尻は目を見開き、俺の手を振り払った。
「…どうして逃げるんだ?」
「……」
待っても待っても、答えはきっと返って来ない。
仕方がないから、俺は自分の気持ちを喋った。
「お前がちゃんとお前の気持ちを話してくれたら、誰もこんなに遠回りしなくて済んだんだ」
井尻は少しうつむいた。
「俺は……柏森さんのことが好きだ、誰よりも。だから本当はお前が柏森さんから遠ざかってくれたほうがいい。…けど」
俺はもう、井尻にではなく自分自身に言い聞かせていた。
「分かってるんだ。柏森さんを本当に幸せにできるのは、俺じゃない」
ゴクンと井尻がつばを飲む音がして、俺はコイツの人間らしいところを初めて見た気がした。
「ずっと見てたら薄々気づいた。柏森さんにとって、この世界で一番大切な存在は井尻だって。泣く時も笑う時も、嬉しい時も悲しい時も、一緒に過ごしていたいのはお前なんだって」
「……」
きっとコイツも分かっていたんだろう、柏森さんの気持ちは。だったら…
「ちゃんと応えてやれ」
「……」
心臓の音が3回鳴るくらいの間があり、井尻はひとつ、重くうなずいた。
その反応に何かがふっきれたような気持ちになって、俺は井尻の前から去って屋上に向かった。
外の空気はひんやりしていて、容赦なく俺の頬をさした。
寒いながらも俺は、シャツのボタンを上まで閉めてそのままコンクリートの上に寝そべった。
「馬鹿だな、俺」
灰色の雲はゆっくりと、冷たい北風に流されるように動いていく。冬の空ってこんなに閑散としてたっけ。
結果的に一番俺がむなしい立場になっちゃった訳だ。でも、後悔はしてない。
できれば柏森さんの一番近くで、いつまでも守り続けたかった。けれど、今の彼女はあの時のか弱い少女とは違う。たくましくて、芯からしっかりしていて、真っ直ぐで、とても素敵な女性になった。きっと俺が助け舟を出さなくても、その脚でしっかり立つことができる。
俺の役は御免になったってことか。
じゃあ、これから俺はどうすればいい?
これからだって、彼女のことを見守り続ければいい。傍にはいられなくても、それでいい。柏森さんが俺を選んでくれなくったって、俺はずっと柏森さんのこと愛してるから。
無理に頬の筋肉を上げて、俺はニッと笑ってみせた。
すると、それに応えるみたいに、空から桜の花びらのような白い泡雪が降ってきた。
「ばーか。メソメソしてんじゃねーよ」
左の頬にのった雪の花びらはツンと冷たく、けれどその美しい姿はすぐに体温で融けていった。
帰りのホームルームが終わり、下校時間。
どうも、昼休みが終わってから霧島くんの様子がおかしい。いつもみたいに爽やかなのには変わりないが、どこか違う。少し元気がない気がする。何があったんだろう。きっと私の昨日のことが原因だ。
どうしたのかきいてみようと思ったけど、霧島くんはホームルームが終わると逃げるように帰ってしまった。
「あっ…」
肩を落とす私に、愛華が声をかけてきた。
「有砂、一緒に帰ろう」
「う、うん」
「…霧島くん、どうしちゃったのかなぁ…」
帰り道を共に歩く愛華に、霧島くんの様子がおかしいことを伝えると、愛華は珍しく難しい顔をしていた。
「ねぇ、有砂」
「…なに?愛華」
たっぷりと間を置いてから、愛華は口を開いた。
「愛華昨日ね、霧島くんに有砂と井上くんを仲直りさせるのを手伝って欲しいって言ったの」
「えっ!?」
霧島くんに、そんなことを!?
「な、何考えてるの愛華!?だって、霧島くんは…」
「分かってるよ。っていうか、翼くんが分かってたの」
「…??」
「翼くんは、有砂が井上くんのことが好きだってこと分かってたの」
「…えっ」
そうだったんだ…。
そこまで愛華に教えてもらってから、私は心臓の奥からヒリヒリするような気持ちになった。あぁ、この気持ちは。
きっと今まで霧島くんはこんな思いをしてたんだ。
「だから、翼くんには勝ち目は無いよって意味で言ったの」
「そ、そんな…いくら何でもそれは…」
「有砂」
愛華は立ち止まった。真剣な眼差しが私をとらえる。
「有砂が井上くんを想う大きさってどれくらいなの?」
「どれくらいって…」
「他の人に告白されたくらいで揺らいじゃうものなの?」
愛華の言葉が私に厳しく、優しく、サックリ突き刺さった。
「有砂は自分の気持ちに全然正直じゃない。いっつも他の人のことばっかり優先して、自分のことは後回しにしてる。そんなんでいいの?」
「……」
愛華に言われて初めて気がついた。私は何でも自分の中でややこしいことは後回しにしていた。他の人のことを考えることで誤魔化していた。こんな所にもまだ弱い自分が残っていたのか…。
って言うか、霧島くんに告白されて、少し自惚れていたのかも。トホホ
「私…」
「うん」
「私、清也のことが大好きなの!」
私はなぜか声を張り上げて、愛華にそう宣言した。愛華は満足そうに笑って「うん」と言った。
「それでよろしい!!あは」
愛華は再び歩き出した。私は制服のポケットから手鏡を取り出し、自分の顔をチェックしてみた。
夕日のせい…って言うのは本当かどうかわからないけれど、とにかく真っ赤だった。
すごーく期間が開いてしまいました^^;
ちゃんと完結させるつもりですので、気長に読んで下さる方はよろしくお願いします!