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ゆびきりげんまん  作者: さつき
5/8

第5話 突然の告白

「ん……」

 嫌な夢を見た。凄く汗をかいているし、何だか気持ち悪い。

私はベットから起き上って、壁に掛けてある四角い時計を見た。午前8時22分。

やばい、遅刻だ!!!

私は猛スピードでベットから飛び降り、着替えを済ませ、階段をかけおり、顔を洗い、その濡れた手でそのまま髪に手ぐしをかけ、ご飯も食べずに家を出た。

幸いなことに、学校から家まではそんなに遠くはなかったので、遅刻せずに済んだ。


遅刻しそうになったものの、学校の時間は何事もなく、いつものようにのんびりと穏やかに流れた。

5時間目と6時間目の合間の休み時間。私は教室の机にだらりとうつ伏せになっていた。昨日見た夢のことが頭の隅に引っかかっていて、なんだか浮かない気分だったのだ。愛華は今日は風邪で休んでいる。きっと愛華が学校に来ていたら、こんな私の様子を見て「有砂―、大丈夫?あっ、保健室行く!??」とか心配してくれるんだろうな。そう思うとちょっぴり淋しくなって、私は机に突っ伏したまま、ハハッと乾いた笑いを洩らした。

どうしちゃったんだ、私。今日はイマイチいつもの調子が出ない。昨日の夢が相当ショックだったかな。一体どうして私はあんな夢を……

頭を悩ませていると、そっと誰かが私の肩を叩いた。

「柏森さん。次、移動教室だよ」

 メガネをかけた男子生徒。確か、うちのクラスの学級委員の霧島翼きりしまつばさくんだったかな。

「あぁ…そうだったっけ。ごめん、ありがとう霧島くん」

 どういたしまして、と微笑む霧島くん。辺りを見回すと教室にはもう誰もいなかった。

「あっ、戸締り待ってたんだよね?ごめんね!!!」

「うん」

 私は急いで引き出しの中から、教科書とノートとワークと筆箱を引っ張り出した。荷物を抱え廊下に出て、駆け足で移動教室先へ向かう。しかし、疲れのせいか視界がだんだんかすんでくる。おまけに足もフラフラだ。

おかしいな~…。今朝は遅刻するぐらい寝てたはずなのに……。

何だか頭も重くなってきた。ゆらゆらと視界が歪み始める。私はおぼつかない足取りで階段をのぼる。けれど、行動とは裏腹に少しずつ意識が遠のいていく。

……あぁ…ダメだ……た……おれ…る…――

後ろに倒れようとしたと同時に、私の身体は誰かの両手にしっかり支えられた。

「おっと。大丈夫、柏森さん?」

「あわ…霧島くんっ!」

「ご、ごめんっ!!」と反射的に霧島くんから身を引いたが、またすぐにヘナヘナと床に崩れてしまった。

「はにゃ~……」

 あらら、と霧島くんは私の前にひざまずいて、私の額に手をあてた。彼の手はひんやり冷たくて気持ちよかった。でも、多分私のおでこが熱かったからだろう。

その映像を最後に、私は完全に意識を失っていった。


 いかんいかん、また寝ちゃった。今日は寝坊するまで寝てたのに。

意識は戻ったけれど、まぶたは上がらない。

何なのー!?こないだも寝てて清也と授業サボっちゃったのに、また眠たくてサボっちゃうのー!?まあ、今は勉強に焦らなくてもいいけどね。

……清也。

最近喋っていないような気がする。あー、喋りたいなぁ。やっぱり起きなくちゃ。清也と話したいし。

『――…り…さ』

 あっ、清也!?うん、起きるよ。


「んん……」

 視界の隙間からまぶしい光が差し込んでくると共に、うっすらと私を覗きこむ影が見える。

「…せ…いや…」

「柏森さん?」

 あれれ?声が違う。だんだん視界がクリアになってくるにつれ、その人物の顔があらわになってきた。

「あ、霧島くん…」

「目が覚めたみたいだね」

 メガネの奥の目を細めながら彼は言った。その顔を見て私はようやく思い出した。

確か霧島くんは、高校に入ってから初めて話しかけられた人だった。「よろしくね」的な。あの時の顔と一緒だぁ~。そうそう。霧島くんは顔がスッキリ整ってて、でもそのなかにどことなく穏やかで優しい印象があって…。高校にはこんなイケメンがいるんだなー!って、ちょっと関心したような。おまけに頭も良くて、スポーツも万能で…。霧島くんは女の子にモテモテなのです。

「うん。顔色も良くなったみたいだ」

 良かった、とまた微笑む霧島くん。ステキな笑顔だ。

清也もこんな風に笑ったら、きっともっとステキなんだろうな~…。いや、今でも十分私は好きだけどね!!…なんちって(笑)

「ごめんね、霧島くん。迷惑かけちゃって…。しかも授業も受けられなかったよね」

 保健室の先生はおらず、私と霧島くんの二人だけだった。

「ううん、いいんだ。最近ちょっと息抜きしたい気分だったし」

「あははっ。霧島くん意外と不真面目だ~!!」

 実はそうなんだよ、とノッてくる霧島くん。あはっ、面白い人だな。

「何だかこうして柏森さんと話すの、久しぶりだね」

「うん?そうだっけ?」

「そうだよ」

 霧島くんは私の寝ているベットに腰かけた。

「今日は朝から元気なかったよね」

「えっ…」

 霧島くんは真っ直ぐ私の目を見ている。気づいてたんだ…。

「ちょっと心配だったんだ。でも、本当に倒れちゃうとは」

「あはは…ビックリさせちゃったよね」

 心配…か。愛華以外の人に初めて心配されたような気がする。てか、それって超むなしいよね。でもどうして霧島くんが…?

「はっ、もしかして、霧島くんがここまで運んでくれたの!?」

「ん?うーん。最初は意識が無かったから、こう…何て言うのかな」

「?」

「お姫様だっこ?をしていこうと思ってたんだけど」

「うぉっ!?お、お、お姫様だっこ!!!!????」

 お姫様だっこって、あの有名なあの…めっちゃ少女漫画的なニュアンスのだっこだよね!?は、恥ずかしすぎる!!!

「え!?や、嘘!!!ちょ、え、え、え!?!?!?!」

「か、柏森さん。落ち着いて、落ち着いて」

 私は一人で顔を真っ赤にして、ベットの上でじたばたしていた。

「はっ!あ、ご、ごめん!」

「ははっ。そう、だっこして運ぼうと思ったんだけど、今とまったく同じ反応で…自分で歩いて行こうとしてたから、ちょっと肩をかしたんだ。でもほとんど自分で歩いてたよ」

「そ、そうなの…」

 それを聞いて私はちょっとホッとした。え?何でホッとしたかって??そ、そりゃあやっぱり…。ほら、初お姫様だっこは…す、好きな人にやってもらいたいもんじゃない?ね?

「な、なんかごめんねー。色々迷惑かけちゃって…」

「いいんだよ」

 ニッコリ笑う霧島くんは、ささやくように小さな声で言葉を重ねた。

「それに、柏森さんと話せてすごく嬉しいし」

「え、何?聞こえなかった」

 しかし霧島くんはかぶりをふって、何でもないよと言った。

「それより、熱は下がったかな?」

「ふぇっ」

 不意に霧島くんのキレイな顔が私に近付いてくる。何をされるのかと思ったら、どうやら私の額に自分の額をくっつけて温度を計っているようだ。反射的にギュッと閉じた瞼を、ゆっくりと開いた。視線のすぐ先に、メガネのレンズと優雅にそろった長いまつ毛がある。

あわわわわわぁぁ――…か、顔近いよぉ……。

だんだん顔が熱くなってきた。これじゃ、逆効果だ。心臓がバッコンバッコン言っている。

何だか時間が過ぎるのが凄く長い気がする。って言うか、長いよ!霧島っ!!

「き、き、き、霧島くん?」

 私がそう言った瞬間に、ガタッと入り口の方で物音がした。パッと私と霧島くんが振り返ると、そこには清也が立っていた。

「せ、清也っ!」

 私は慌てて霧島くんから離れた。清也は無表情だったけど、いつもと違って何だか変な顔をしていた。

い、今の…清也、見てたのかな!!!???どっどど、ど、ど、どーしよ―――っ!!!!

 そんな私の慌てる様子を知ってか知らずか、霧島くんはベットから立ち上がった。

「じゃあ、俺もう行くね。お大事に」

 彼はゆるりと手を振って、ステキな笑顔を私に向けた。

「う、うん。色々ありがとう」

 どういたしまして、と教室の時と同じように微笑んで、出口へ向かって歩いて行った。しかし、霧島くんは入り口付近で立っていた清也と私とのちょうど真ん中あたりにくると、立ち止まって私の方を振り返った。

「ねぇ、柏森さん」

「は、はいっ。何でしょうか?」

 霧島くんはメガネの奥の瞳を私に真っ直ぐ向け、優しく細めて、穏やかなよく通る声で言った。

「俺、柏森さんが好きだよ」

「えっ」

 聞き返すつもりじゃなかったけど、勝手に声が漏れていた。霧島くんはもう一度ハッキリと言った。

「柏森さんが好きだ。異性として」

 そうとだけ言うと、彼は清也が立っている方とは反対のドアから保健室を出て行った。

は……え?

今のって、まさか……………『告白』?

突然の愛の告白に、ただ呆然と霧島くんの去ったあとを見つめる私。しばらく見つめていて、ようやくそこに清也が居ることを思い出した。

「あ、せ、清也…」

 清也も霧島くんの方を見つめたままだったようで、私が呼ぶとまたさっきの変な顔のままゆっくりとこっちを向いた。何だか気まずい。こういうときはなんて言えばいいんだろう。

私が言葉に迷っていると、清也が先に口を開いた。

「具合、悪かったんですか」

「えっ、あ、うん」

 霧島くんは気がついてくれてたけど、清也は知らなかったんだね。

「でも、もう大丈夫みたい」

「……」

 コクンとうなずく清也。「良かった」とか言ってくれないのかな。

「…6時間目は終わっちゃった?」

 またうなずく清也。そうか。結局授業はサボったってことか。まぁ、いいや。

「……」

「……」

 しばらくの間、居心地の悪い沈黙が続いた。耐えられなくなって私は

「…もう、帰るかな」

 ベットの横に置いてあったカバン(おそらく霧島くんが用意してくれたんだろう)を手に取った。

 本当は、気まずくてこのまま去りたかったけど、なぜだか私は保健室を出る間際に清也に声をかけた。

「じゃあね、清也」

 清也はただ静かに一回うなずいた。

冷たい廊下に出て少し歩き、それからチラっと保健室を振り返ると、清也は変な顔をしたまま、じっと私の方を見つめていた。私は胸がチクチクしてきて、早足で学校を出た。



 家に帰り着いた私は、とりあえず何か食べたくなったのでコタツの上に置いてあったみかんを手に取った。

しかし、今日は凄い一日になってしまった。私の人生で初めての男の子からの告白。なんてこった。それも、今まで特に仲良くもなかった霧島くんからなんて…。

頭の中に告白された瞬間の映像がよみがえる。つい、指先に力が入って、ブシュッとみかんを潰してしまった。

「ありゃりゃー…汁がっ…。ティッシュ、ティッシュ!」

 食卓にある箱ティッシュを2枚ひきぬいて、自分の指と床のそこらに飛び散った汁を拭いた。床がものすごく冷たく感じる。こうして一人で床なんか拭いちゃってると、淋しい気分になってしまう。床に触れている部分から、じわじわ体温が奪われていく。私は使用済みティッシュを丸めて、3m先のゴミ箱にシュートした。

「よっしゃ、入った!!!」

 イエーイ、とゴミ箱に向かってピースする。

「……」

 何でこんなに淋しいんだろう。

私は瞳を閉じて自分の心に問いかけてみた。するとまぶたの裏にあの変な顔をした清也が映った。

「何で…そんな顔してるの」

 尋ねても清也は変な顔をしたままで、答えは返ってこない。

「ちゃんと言ってよ…。私、清也の気持ち分かんないよ…」

 …ん?清也の………気持ち?

私はパッと目を開けた。私は…自分の気持ちには気がついたけど、清也の気持ちなんて何も知らない。私は……清也のことが好きだけど、清也は…。

「清也は私のこと、どう思ってるのかな」


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