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ゆびきりげんまん  作者: さつき
4/8

第4話 愛華のヤキモチ

第4話です。どうぞ↓

 たった今、恋が芽生えたという訳ではなかった。なんとなーく、好きなんじゃないかなぁとは思っていた。でも、認めるのが恥ずかしいような気がして、なかなかそう決められなかった。実は、今回が私にとっては初めての恋だった。いわゆる、「初恋」ってやつだ。今まで(変人フェチということもあり)、人を好奇の目で見ることばかりだったので、新鮮な気持ちである。

 私は昨日の出来事を振り返る。「ありがとう」と言った清也の声が、頭の中で何度も繰り返される。「ありがとう」かぁ。素敵な言葉だなぁー。

「有砂ぁ――っ!!!」

「うなぁっ!?な、な、何!?」

 校庭の脇にあるベンチに座ってホケェェェっとしていた私の耳元で、愛華が力いっぱいに叫んだ。耳がキーンと鳴る。

「またボケっとしてたでしょう!?」

「ち、違うよ。ホケェェェっだよ」

「どっちでもいいの!!」

 いつも天然の愛華に、怒られてしまった。なんだかなぁ。

「…ズバッと言っていい?」

 えっ、何を!?愛華がいつになく恐ろしい目をしている!!!

「い、いいよ???」

「有砂、好きな人ができたでしょ」

 ぎゃぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――っ!!!???

何で!何で分かっちゃったの!??しかも、気がつくの早くない!?

 どんぴしゃっと当てられてあたふたしている私を見て、愛華は腰に手をあてドヤ顔をする。

「やっぱりね。最近の有砂のヘンな行動の原因は、それしかないと思ったの」

 そう言った愛華は、どこか浮かない顔をして、眉間にしわを寄せていた。

「…相手は誰?」

 私はしばらく戸惑ったけれど、恥ずかしさを押し込めて「…井尻くん」と消え入りそうな声で言った。

すると、私の言葉を聞くや否や、愛華は校舎の方に走り去って行った。

「え、ちょ、ちょっと!どこ行くの!!」

 慌てて愛華を追うと彼女は教室の中へ入って行き、自分の席に座っていた清也の目の前に凄い勢いで立ちはだかった。私は息を切らして教室の入り口にたどり着く。

「えっと!井上くん!?だっけ!!」

 違うよ愛華!い・じ・り!!!

「……」

 何が起こったのかよくわかっていない清也は、ゆったりとしたモーションで愛華を見上げる。

「……」

「……」

 一方的に敵意を剥き出しの愛華は、フンッと一息つくと、強い口調でこう言った。

「ホントはすっごく嫌だけど、すっごくムカつくけど…」

「……」

「あなたしかいないんだからね、有砂を託せるのは!!今回だけは、仕方ないから譲ってあげる!!!だから、ちゃんと有砂を守ってよね!!!!」

 話の意味を理解しているのか、していないのか、清也はいつものようにコクリと一回うなずいた。愛華はまたフンッと息を吐き出すと、ズンズンと早足で教室から出て行った。

「待って、愛華!!」

 廊下の真ん中あたりで愛華の背中に呼び掛けると、彼女はピタリと動きを止めた。最初のうちは黙って肩を上下させていたが、しばらくすると小さく震えだした。そばに駆け寄ると、愛華はいきなり振り返った。

「有砂…」

「…何?」

「ま、愛華は…これからも有砂のそばにいてもいいのかな……?」

 その瞳は少し水分で潤っていた。

「…もちろんだよ」

 私は微笑んだ。すると、緊張の糸がぷつりと切れたように、愛華はうわぁぁぁんと泣きだしてしまった。小さな子どものように声をあげて泣く愛華を、私はしっかりと抱きしめた。

「本当は…有砂に大切な人ができて凄い嬉しいのに……。有砂が井上くんばっかに心が向いちゃって、もう愛華のことなんて忘れられそうで怖かったの…」

「うん、うん」

 柔らかい愛華の髪の毛を撫でる。ズズッと鼻をすする音。不規則な呼吸。抱きしめた愛華の身体は、とても小さかった。

「愛華のこと、忘れたりなんかしないよ。私と愛華はずっと一緒でしょ?」

私はほとんどささやくように、愛華に話した。愛華は大きな瞳をさらに大きく開いて私を見つめると、嬉しそうに細めて「うん」と言った。

 その後、私と愛華は一緒に下校した。ちょっとコンビニに立ち寄って、新作のパフェを食べ、たくさん笑いあってから私たちは別れた。



 「ただいま」

 玄関のドアを開けると、珍しく妹の靴があった。どうやら先に帰って来ていたみたいだ。リビングに入ると、妹は学校のハーフパンツに、黒い長袖のシャツの上からちゃんちゃんこを羽奥るという、不思議なスタイルでソファに座っていた。TVでは銀行強盗のニュースが流れている。

「あ、おねぇ。お帰り」

「ただいま。今日は早かったんだね」

「うん。体育館が使えなくて部活ができなかったから」

 細い赤メタルフレームのメガネを薬指で押し上げながら言う。妹のよくやる癖だ。私は荷物をソファの隣に下ろすと、台所に向かい冷蔵庫を開けた。

「今日、何食べたい?」

 私が訊くと妹は、「よっこら」と言いながらソファから腰を浮かせた。

「昨日とおとといは米だったから、今日はパスタにしよーよ」

 冷蔵庫を探ると、それらしい具が見つかったので、今晩はミートソースパスタを作ることにした。

 人参の皮をむきながら、私は妹に話しかけた。

「ねえ、なぎさ」

 妹の名前はなぎさと言う。漢字は無い。

「最近どう?部活とか」

「うん、楽しいよ。まだ試合には出られないけどね」

 なぎさは玉ねぎをみじん切りにしながら答える。器用な包丁さばきは、どこか手慣れた雰囲気を漂わせる。機嫌の良いなぎさは鼻歌まじりで作業をつづけた。

「ふーん、ふーん、ふーん、ふーん…♪」

「何それ、国歌?」

「そだよ。ふーん、ふーん、ふーん…♪」

 鼻歌で国歌を歌うとは、なんと変わった妹なのだろう。そう、なぎさも実は一番身近な「変人」だったりするのだ。なんだかおかしくなって、半笑いしながら私も一緒にハミングした。

 国歌も3回ハミング、2回熱唱したところで、ようやくパスタが完成した。キレイに2枚のお皿に盛りつけ、ダイニングに運ぶ。私となぎさは向かい合って座った。

「いただきまーす」

 フォークでくるくるっと一巻、指の先ほど尾を引いた麺を口に運んだ。ちょっぴり熱かったけれど、我ながら良い出来栄えだ。

「はっ…ふぁっくっ……」

 なぎさは口をハフハフさせながら、何か唱えていた。ははっと笑いをこぼしてから、私は再びフォークで麺を巻いた。すべすべした麺が円を描きながら中央に集まる。今度はちゃんと冷ましてから、口に含んだ。美味しい。

 しばし無言でパスタを食べていたなぎさは、なんの前触れもなく言った。

「今日、お母さんの病院に寄ってきたよ」

 私は思わず動かしていた手を止めた。手のひらにビリビリッと電流がはしるような感覚に襲われる。胸が圧迫され、私は大きく息を吸い込んだ。

「そ、そうだったんだ…」

 やっとの思いで言葉を吐き出すと、なぎさは難なく話を続けた。

「お母さん、相変わらずだったよ。相変わらずボーっとしてた。窓越しにずうっと外を眺めて、話しかけても反応してくれなかった」

「……」

 指先が微かに震えだす。それを抑えるように私は苦いつばを飲み込んだ。息苦しい。口の中が乾いていく。

「何時になったら帰ってこられるのかな」

 カラーンッ

 大きな音を立てて、フォークが私の手からお皿へと滑り落ちる。その雑音にビクッとなぎさが身を震わせた。

「……おねぇ?」

「…もう、お風呂入ってくるね」

「あ、おねぇ、待っ…」

 私はなぎさの言葉を遮るように、席を立った。



***


 

 今日の学校は何だか短く感じた。あっと言う間に授業が始まって、あっと言う間にお昼が過ぎて、あっと言う間に6時間目。国語の先生が休みだったので、その時間は自習になった。国語の問題集を広げて解いていると、教室の一番端っこの席から愛華がやってきた。

「あーりさっ」

「どうかいたしやしたか?」

 つまらないワークを閉じて見上げると、愛華は目をキラキラさせながら私に顔を近づけてきた。

「井上くんのどこが好きなの?」

「ぎゃあっ!!!」

 慌てて愛華の口をふさいで、清也のほうを見る。大丈夫、真面目にワークをしていた。

「しーっ!!声がでかいよ!!!それに、井上じゃなくて、井尻だから!」

「あ、ごめんごめん」

 私に合わせて声の調子を小さくする愛華。おとぼけでおっちょこちょいだけど、やっぱり愛華とお喋りしていると、心が安らぐ。

「それで、どんなところが好きなの?」

「うーん…」

 どこが好きなんだろう。どこって言われても……よく分からないなぁ…。

「よく分かんない」

「えぇー…。ま、恋ってそんなものだよね」

「そ、そうなの???」

 どうやら、恋愛に関しては私より愛華の方がたくさんの知識を持っているみたい。すると愛華は唐突に言った。

「有砂、告白しなよ!」

 ……はぁぁっ!???

「井上くんをデートにでも誘ってさ。で、公園とかで二人きりになって…」

「いや、ちょ、ちょっと待ったぁ!!」

 つい、声がでかくなってしまってジロジロと見られる。あはは…と適当に誤魔化しながら愛華との話に戻る。

「そんな、いきなり告白とか…。まだ好きになったって気づいたばっかだし……」

「告白するのに期間なんて関係ないよぉ。ぱっと言っちゃえ☆」

「……」

 言っちゃえ☆っじゃねーよ!くそー、他人事だと思いやがって!!!コノヤロぅ!!!!

「じゃあじゃあ~、百歩譲って告白とまではいかなくてもいいから、一緒に出かけてみたら?楽しいよ、多分」

「えぇ――…。でもさぁ」

「じゃあ、愛華が一緒にプラン考えてあげるから!」

「うーん…」

 微妙な反応の私をそっちのけて、愛華は自習の間じゅうずっとウキウキ考えていた。

清也と一緒に…かぁ。

私はどうしてだか、ちょっとドキドキしてきたのだった。






※※※※※



 「おめでとうございまーす!一等の沖縄旅行当たりでーす!!」

「う、うそ…」

 夏休み。おつかいのついでに立ち寄った商店街のくじ引きで、私は人生で初めて一等を当てた。嬉しさのあまり全力で走って帰ったので、家に着いたころには酸欠で死にそうになっていた。

「おとーさん、おかーさん、なぎさ!見て見て!!私、一等当てちゃったよ!!!」

 バンっと勢いよくリビングのドアを開いて、私は旅行のチケットを頭上に掲げた。

「………」

「………」

「………」

 一瞬静まりかえった室内。パチクリとまばたきを繰り返す母。新聞紙を開きかけて静止する父。口を半開きにしたなぎさ。しばらく経って状況を把握した父・母・妹は、私を取り囲むように集まり、歓声をあげた。

「凄い、凄いわ有砂!!」

「でかしたぞー!!!」

「きゃーっ!おねぇ、きゃーっ!!!」

 ワクワクな気分で、私達家族4人は沖縄へ発った。

 父と母は夫婦でまじない師をやっている。何やら二人とも特殊な力を持っているらしいけど、詳しくは教えてくれなかった。売れっ子まじない師の夫婦は忙しくて、なかなか家族4人でどこかへ行くといったことは無かった。私はワクワクしすぎて、前日はまったく眠れなかった。

 沖縄旅行は、まだ小さかった私となぎさにとっては実に楽しくて、エキサイティングなものだった。父と母は前にも二人で来たことがあったようだけど。

1日目は有名な料亭で沖縄の豪華特産物料理を食べ、2日目は綺麗な海で泳ぎながらシュノーケリング。3日目は首里城などを見物して、ホテルをチェックアウトした。すごく充実した、思い出に残る3日間。

そうなる筈だった。

3日目。悲劇は起こった。

沖縄から帰って来て荷物を受け取り、空港の近くの駐車場に止めていた車で自宅に向かっていた。

「すっごい楽しかったね!おねぇ」

「うん!!!」

 車内では、まだ熱が冷めない沖縄旅行の会話で盛り上がっていた。

「おとーさんと、おかーさんも楽しかった?」

「もちろんよ!みんなで行けてよかったわ」

「うん、そうだな。それもこれも、有砂が一等を当ててくれたおかげだな!」

「お姉、ありがとー!!!」

 えへへ、と赤くなって頭を掻いた。幸せな時間。心の中がほかほかするような感覚だった。私は言った。

「またいつか、みんなで旅行しようね!」

 私の言葉に家族が微笑んでうん、と言おうとした時だった。


 ドンッという右横からの衝撃。

 一瞬のうちに身体が浮いた。

 私はスローモーションのような視界の中で、天と地が逆転するのをただ呆然と眺めていた。完全に逆さまになった時には、目の前が真っ暗になった――


ありがとうございました。

まだまだ続きますよー

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