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ゆびきりげんまん  作者: さつき
2/8

第2話 清也と空

第2話です

翌日。

私はいつものごとく、一人で学校へ登校した。教室に入るといつものごとく、清也が机の木目をながめてじっと息をしていた。まだ時間は早く、教室には清也しかいなかった。私は自分の机に荷物を置いて、彼に話しかけた。

「おはよっ、清也!」

 すると清也は、ぼうっと顔を上げて、少し眠たそうな目(髪に隠れているけど)をこっちに向けた。

「…おはようございます」

 何を考えていたのだろうか。昨日の帰りの時よりも、ぽや~っとしているように見える。

「清也、いっつも朝早いね!」

 コクリと頷く清也。子どもみたいで、どことなく幼い気がする。

「有砂も…早いです」

 小さな声で呟く清也。くぅ~…嬉しいなぁ…。名前で呼んでくれたぁ…。

うふふ、とちょっと余韻にひたっていた私は、清也にまた話しかけた。

「清也」

「……」

 名前を呼ぶと、反応するようにちゃんとこっちを向いて、話を聞いてくれる。嬉しい。

「清也、何時に起きるの?」

「…5時」

 早っ!?無駄に早い!?でも、そこにはツッコまず。質問を続ける。

「何色が好き?」

「…空」

 ポツンと言って、空に目を向ける清也。

「…空?空って…水色?」

 私が言うと、清也は首を横に振った。空を眺めたまま、また呟く。

「空は…いつも、違う色です」

 清也の水晶のような透明な瞳に、ガラス越しの空が映る。わかるよ、清也。空って綺麗だよね。

自然と頬が緩んでいく。ひと時の幸せを、私は今、感じているんだ。

 少しずつ教室にも人が溢れてきた。いつの間にか、清也もいつものように机の木目を眺めている。チャイムが鳴り、現実の世界の時間が進み始めた。


お昼。午前のかなりハードな授業に疲れた私は、息抜きにと愛華を誘って屋上に上がった。

今日は久しぶりに天気が良くて、暖かい。私たちはひなたに並んで座り、お弁当を広げた。

「今日は、春みたいに暖かいね!」

 嬉しそうに愛華が言う。私はプチトマトを口に入れながらうなずく。ぷちっと果肉がはじけて、甘酸っぱい味が口に広がる。

「あ~…。空がキレイだよ…」

愛華は売店で購入したツナマヨのサンドイッチを、はむっとほおばった。私はまた黙ってうなずいた。

それから私と愛華は今日の授業のことや、朝TVで見たことの話なんかをしながら、お弁当を食べ進めて行った。

食べ終わってから少し時間があったので、愛華はトイレに行くと言って校内への階段を下りて行った。誰もいない屋上でホヤンとしながら、私は寝そべった。窓ガラスにも遮られていない、生の空が見える。パステルな空色と白い雲が、風もないのにゆったりと流れて行く。

「あっ…」

空色をバックに真っ白い紙ヒコーキが二、三個、ゆるゆると円を描きながら飛んでいる。誰が飛ばしたんだろう。それから、視界の端からたくさんの赤い風船が、空を隠すように舞い上がる。これは…もう、夢?色彩の綺麗な世界を掴んでみたくて、手を伸ばした。だけど、全部私の手からすり抜けて行くように段々、段々遠くなる。

…あれ、なんだろう。温かい涙が頬を伝う。行かないで。行かないで。待って。待って。

 ――1人にしないで……


 やっぱり、寝ていたみたい。私は、自分の頬に低い体温を感じて意識を取り戻した。頭の下に柔らかいものがある。

「…ごめーん…、愛華…寝ちゃってたみたいだよ…」

 まぶたを上げると、私の瞳にこっちを覗きこんでいる清也の顔が映った。

「……のぁっ!?せ、せ、せーや!!!」

「……」

 私は急いで起き上った。毎度の無表情で、正座をしたままこっちを見る清也。

「な、何でここに???」

 跳ね上がる心臓を、制服の上から押さえつけつつ、ゴシゴシと涙を袖で拭き取る。清也が触れていた部分がひんやりする。

「用事があって来て…。いきなり有砂がしがみついてきました」

「……」

 うーん、全く覚えが無い。けど、私の寝ぞうの悪さなら…無きにしもあらず。。。

「ごめん…って、今何時!?」

 腕時計を見た清也は、2時48分と言った。もう授業始まってんじゃん!!

「起こしたらいけないと思いました」

 どうやら、清也の後に愛華もトイレから戻ってきたらしいけど、私が正座している清也の膝で寝ているのを見て、(あのこもド天然だから)起こしちゃいけないと思ったらしい。うなずいて校舎の中へ戻って行ったそうな。

「あちゃー…。5時間目はさぼるかな。清也は?まだ間に合うよ??」

 私が体操ずわりをすると、清也も隣に同じように長い脚を折って体操ずわりをした。私は微笑んだ。

「そういえば、用事って何?」

「遅いから呼びに…」

「あ…。そーゆー用事ね」

 でも嬉しい。清也が私のこと気にかけてくれたと思うと。せっかくだし、もっと清也と話をしようかな。

「ねぇ、清也」

 今朝と同じように髪で隠れた目をこっちに向ける清也。

「何で話す時、敬語なの?」

「…最初に有砂が敬語で話したから」

「ん?そうだったっけ???」

あぁー…。確か『友達になってください』って言ったかな。

「えへへ…そっか」

「……」

「清也、何人家族?」

「…3人です」

「ってことは…一人っ子?」

 清也は小さく頷いた。

「一人っ子かぁ!!憧れるなぁ…。私は、妹が一人いるんだ」

「……」

「年は3歳離れてるんだけど、今でも喧嘩ばっかりしちゃって…。食べたいものとか、欲しいものとか、見たいTVとか、絶対に取り合いになっちゃうんだ。で、最後は必ず私が譲ってやらなきゃいけないんだよね~…」

「……」

 ずっと黙ってるけど、聞いてない訳じゃなさそう。ちゃんと目をこっちに向けて、文節ごとにまばたきをしている。でも、清也も黙って聞いてるだけじゃつまらなそうなので、また質問をしてみた。

「血液型は何型?」

「AB型です」

 やっぱり。うーん、血液型は性格をよく表していますね。私の調査によると、今まで観察してきた「変な人」たちは約80%がAB型だ。血液型って、面白い。さらに、この制服の着方を見るとよくわかる。AB型は普通というより、独特ってかんじ。清也はシャツの第一ボタンまでキチッと閉めていて、こりゃ目立つ。

「シャツのボタン開けないの?苦しくない?」

「……」

 あごを引いて、自分のシャツのボタンを見ようとする清也。見えないだろ(笑)私は清也の襟元に手を伸ばして、ボタンを一つ、開けてあげた。

「…よし、どう?」

 鏡で見せると、清也は「寒いです」と呟いた。

私は腹をかかえて笑った。清也には、本当に笑わせられる。

寒い、と言った割には、清也はボタンを閉めようとはしなかった。どうやら、気にいってくれたみたい。

猫背ぎみのまま、ぼうっと空を眺める清也。清也は今、何を思っているのだろう。

その横顔を見つめながら、私は不思議な感覚になった。

――何だろう?どこか、懐かしいような温かさがある。清也は……

「有砂」

「ぬぅあっ!!な、な、何??」

 不意に清也が私の方を見た。

「…そろそろ」

 左手首につけた腕時計を私のほうに見せながら、時間です、と清也は呟いた。

「え、あぁ、うん。教室に戻ろうか」

 私たちは、校舎内へ続く階段をゆっくり下りていった。



家に帰った私は、ひとけのない室内にむかって、ただいま、と呟いた。冷たい床をスクールソックスのまま、リビングへ向かう。カーテンは開いているが、冬の夕暮れは薄暗い。パチンと乾いた機械音がして、蛍光灯が光を放った。表情の硬い家具たちが単調な光を浴びてあらわになる。その様子から、数時間の間この家に誰もいなかったことが分かる。

「ふぅ…。お腹すいた」

 食卓の上に置いてあったカラカラの食パンをトースターにかけてから、私は2階の自分の部屋に行った。窓際の小さなベットにバムッと倒れこむと、むかいにある本棚の中の一つに目が留まった。

『まいにち』

 それは、埃をかぶっていて角がボロボロな厚い絵本。私はその絵本に手をのばした。

「わぁ…懐かしいな……」

 手に取ると、ずっしり重みを感じた。カサついた指先でページをめくると、ぷんっと古い紙の香りが鼻をつく。見開き1ページいっぱいいっぱいに、黄色い菜の花が咲き続く丘が描かれている。さわやかな春風に揺れる若葉。

古い思い出が蘇える。小さい頃、よくこの絵本を広げていろんな想像を巡らせたものだ。私にしか創造できない、私だけの世界。その世界の中に、自分を存在させてみたりもした。私はさらに、ページをめくる。次の見開きには、雨にしっとりと濡れたパステル調のあじさいが咲いていた。この絵本には文字が一つもない。だからこそ、小さかった私はこの本にひかれて毎日のように見ていたのだ。

またページをめくろうとした時、チンッというトースターの音がした。私は絵本を閉じて表紙の埃を手ではらい、元の位置に戻してから部屋をあとにした。


読んでくださって、ありがとうございました!

まだまだ続きます

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