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ゆびきりげんまん  作者: さつき
1/8

第1話 友達になりたい

初投稿作品です。文法とか誤字・脱字とかめちゃくちゃで、読みづらいかもしれませんが、暇つぶしがてらにでも見ていただけたら、光栄です。

『指切り拳万 嘘ついたら 針千本 飲ます 指切った』――





 「うわー、今日も寒いなぁ」

 12月。高校に入ってから初めての冬がやってきた。私、柏森有砂(かしもりありさ)は学校に向かう通学路を歩いていた。昨日は雪が降っていたみたいだけど、雪は残っていなくて、ただ辺りに冷たい空気がただよっているだけだった。

 さて、一見普通の女子高生の私だが、一つだけみんなとは違うところがある。私は、「変人フェチ」なのだ!←こんなこと言ってる自分が一番変人だったり(笑) 私は、「変な人」にとても敏感で、見つけたらどうにもこうにもしてられなくなる衝動に駆られちゃうのだ。クラスの中でハブられそうな人とか、アンテナですぐに察知。ビビビッ。

 そんな私が最近注目しているのは、同じクラスで私の右斜め前の席の、井尻(いじり)くん。何か、そこにいることさえも、忘れてしまいそうな存在感の薄い子。(事実、アンテナ持ちのこの私も右斜め前の席になるまで、彼の存在に気がつかなかった) 休み時間のあいだとかは、机の木目をじっと眺めて静かに呼吸を繰り返している。ビジュアルは、色白で背が高く、とてもヒョロヒョロ。まるで、モヤシみたい。あ、モヤシっ子って言葉が、ピッタリ似合いそうな感じ。制服なんかはシャツの第一ボタンまで全部しめていて、うちの学校じゃなかなかいないようなマジメファッション。で、「変人」の極めつけは、長くて目元を隠しきってしまっている前髪。その前髪が、どことなく陰気で、 何事にも消極的な感じをうかがわせる。前髪で隠れているからどんな目をしているのかは分からないけれど、きっと見たら、こっちまでもが暗ぁ~くなっちゃいそうな目をしているのだと思う。目が死んでる、とはこのことか。みたいな。友達もいないみたいで、喋っている姿をみたことがない。つまり、誰も彼の声を聞いたことが無いのだ。授業でも、この冬までの何百日かで当てられたことが一度もないし。高いのか、低いのか、カラスみたいなダミ声なのか…謎に包まれている。


 そんな彼。今朝、私が学校に着くと、ひとけのない廊下で数人の男子たちに絡まれていた。いいや、これはちょっと修羅場っぽい感じだぞ。私は、階段の陰に身をひそめて様子をうかがった。

「おい、さっさと吐けよ。俺の財布盗んだの、テメェだろ」

「俺らが優しいうちに、白状したほうがいいぜ?」

 絡んでいる男子は、クラスの中でも超ガラの悪い奴らだ。どうやら、奴らの中の一人が財布を盗まれたらしい。

「……」

 どんどん壁際に追いやられる井尻くん。下を向いたまま、何も反応を示さない。けれど、彼の様子は怯えているようには見えなかった。

「なんとか言ったらどうなんだ、あぁン?」

 井尻くんはぐいと胸ぐらをつかまれた。それでも、怖がったりしていない。結構度胸がすわっているのか??

「……」

「いつまでも黙ってんじゃねえよっ!」

 ボグゥゥッ!

「っ!」

 男子たちの中の一人が、井尻くんを殴った。細い身体が窓ガラスに叩きつけられる。それでも井尻くんは呻き声も洩らさず、その場に倒れていた。

「何も言わないで、見逃してもらえると思ってんじゃねーぞ!!」

「……」

 それでもなお、何も言わない井尻くん。その時、教頭先生が廊下の向こうからやってきた。

「やべ、教頭が来た!」

「ちっ、今日はこの辺で許してやるよ」

 それから、汚い言葉を二つ三つ吐いて、男子たちはどこかへ行った。

教頭先生は、床に倒れている井尻くんのことに気がついていないのか、見向きもせずに、階段を下りて行った。

 華奢な身体をゆっくりと起こす井尻くん。細くて長い指で壁をつかみ、よろけながらも立ち上がった。雪のような肌に大きなアザや赤い切り傷がうっすら浮かぶ。そのまま、服のホコリもはらわず、髪型も整えずに廊下を歩きだした。

 あぁ…やばい。こーゆーいじめられた姿って、見てると切なくなるわ……。

 と、その時。

―――あっ。

 目があった。確かに。彼は階段を上る前に私の方を見た。

息が止まる。細くて真っ直ぐな黒い髪の間から、瞳が覗く。井尻くんの目は、光を宿していない水晶のように透明で、その視線は氷のように冷たかった。でも、その奥深くに、何か熱いものがフツフツと湧き上がっていた。

怒ってる?怒ってるの? でも、どこか淋しそうな瞳だった。

 たった0.5秒くらいの刹那が、100倍くらい長く感じた。彼は何事もなかったかのように、そのまま階段を上がって行った。

い、今のは何??

冬なのに、背筋を汗が流れる。私の心の奥を見透かされたような気分だ。

「あれー、有砂。こんなところで何やってるの?早く行かないと、遅刻しちゃうよ」

 少し腰を抜かして、へたっと階段に座り込んでいる私に、クラスメイトでよく一緒にいる友達の福田愛華(ふくだまなか)が言った。

「あ、お、おはよ。ちょっと急な腹痛に襲われて…」

「えっ!?だ、大丈夫なの!?」

 すごいオーバーリアクション。実は、この子もちょっと変なところがある。「超」がつくほどド天然。キャラとかじゃなくて、本物。喋ってると分かる。そして、普段の話し方がドラマの台詞みたいなのだ。演技派か?と思ったりもしたけど、本人にその自覚は無いらしい。これが、愛華の普通だけど…?みたいなことを前に言われた。

「うん。もう治ったみたいだし…」

 嘘をついた後、ヤバイなと思った。

「ダメだよ!胃潰瘍とか、盲腸かもしれないし!!保健室に行こう!!!」

「いや、大丈夫だから」

 ヤバイ、ヤバイ。愛華が暴走を始めてしまった。

「本当に危ないよ!あ、動けない!?じゃあ、保健室の先生呼んでこようか!!??」

「大丈夫だって!」

 私はその場に、しゃんっと立ち上がって見せた。

「…本当に?」

 疑っているような、心配しているような。愛華は大きな瞳をうるるとさせて、私を見つめる。

可愛いなぁ。少しヘンなところを抜かしたら、絶対この子モテモテだろうな。

 私が二カッと歯を出して笑うと、ようやく愛華も了承してくれた。

「でも無理しないでね。有砂がいなくなっちゃったりしたら、愛華…愛華…」

 うっ、うっ、と半泣きする愛華。演技に見えないこともないけど、ずっと喋ってるから分かるよ。本当に心配してくれてるんだよね。だって、愛華はとても優しい子だから。

「いなくなっちゃったりしないよ。ヘンなこと言わないでよ」

 二、三回愛華の頭を撫でてから、私たちは教室に入った。

 教室に入ってから、私は真っ先に井尻くんに目が留まった。うぅ…。ちょっと警戒…。井尻くんはさっき殴られたことなんか無かったみたいに、ただそこに座っていた。私が変な顔をしていると、愛華がまた心配そうにこっちを見ている事がわかったので、急いでいつもの顔に戻して、席に着いた。

さっきのことを思い出すと、こころの中がモヤモヤしてきた。一体、なんだったんだろう。どうして目が合っちゃったんだろう。頭がごちゃごちゃしたまま、朝のホームルームが始まった。


下校時間。結局私は、井尻くんのことをじぃ~…っと観察していたけれど、心のモヤを晴らすための「何か」を発見することは出来なかった。大体、その「何か」を発見したところで、本当にモヤが晴れるのかどうかもわからないけど。

 ガラッと小さな音を立てて、井尻くんがイスから立ち上がった。それだけでビクッとする私。←馬鹿か

どうやら彼は部活などには入っていないみたいで、そそくさと正門を出て行ってしまった。いつもは、用もないのにずっと学校にいて暇をつぶす私(同じく部活動無所属)も、今日は井尻くんを追って帰ることにした。

「……」

 歩くのが速い。井尻くんと同じスピードで、気づかれないように忍び足で歩くのは、なかなか難しかった。学校から三つ目の角に井尻くんが姿を消したところで、私は走って追いつこうとした。

すると

ドンッ 「うぎゃっ!?」

自動販売機で飲み物を買おうとしていた井尻くんとぶつかってしまった。

わー…、なんでこんな角に自販機が……

「…へ…へへへ……」

「……」

 笑って誤魔化そうとする私に、-500℃くらいの視線を送る井尻くん。

風に揺れる黒髪。小さな薄い唇。青白くて乾燥している肌。こんなに近くで見たのは初めてだ。私の知らない井尻くんが、新しい井尻くんが、私のことを見降ろす。

「……」

 無言で立ち去ろうとする井尻くんを、私は必死で呼びとめた。

「ま、待って井尻くん!!」

 彼は私の声など耳に入っていないように、歩いてゆく。何故だろう。ここで井尻くんを捕まえないと消えてしまいそうで、そんなことないのにどうにかしなくちゃって思って、私はダッシュして井尻くんの手をつかんだ。

ひいっ!冷たっ!!氷みたい!!!でも、今はそんな場合じゃない。

「…えっと……あの…その…ですね」

 唐突に手を掴んだ私は、言葉に迷う。なんて言えばいいんだろう。消えちゃいそうだから捕まえた、なんてことは言えないし…。

その時、私は愛華のことを思い出した。

ずっと喋ってるから分かる。

きっと、井尻くんだって同じはず……。たくさん喋ったら、もっと井尻くんのことを理解できるかもしれない。

「い、井尻くん!わ、私の友達になってください!!!」

そう叫んで、私は恥ずかしかった。高校生にもなって、友達になってくださいって…。変だ、絶対に変だ。

「……ひ………って……」

「え?」

 井尻くんが、何か言った!私は言葉を聞き取ろうと、耳を澄ませた。小さな音が、私の鼓膜に静かに響いた。

「ひやかしに来たなら、帰ってください」

 少し高めの澄んだ声。その音は、私の心の隅をえぐった。

「えっ…そんな。ひやかしに来たなんて…。誤解だよ?」

 私の頬を冷たい汗が伝う。私の言葉に何も返さない井尻くん。代わりに、じっと私を見据えている。

その目は、あのときの目と同じだった。あの、水晶の目…。その瞳に私は恐怖心を覚えた。恐い。私の心の中に暗雲が立ち込める。それはまるで、あの眼差しから心の奥底にあるものを隠しているようだった。

冷たい。怒ってる。でも、やっぱり淋しい――

 また去って行こうとする井尻くんの背中に、私はタックルした。

「っ?」

 突然の私の攻撃に、身を強張らせる井尻くん。私は抱きついたまま言った。

「まだ返事してくれてないじゃん!私の友達になってくれるの?くれないの?答えないと、放さないからね!!!」

 自分でも、何やってんのと呆れた。こういうイノシシみたいな、猪突猛進なところが馬鹿なんだよね。もう、猪なんだか、馬なんだか、鹿なんだか分かんないし。

 振り払われるかなーと思ったけど、彼はそんなことせずにじっと息をしていた。背中ごしに、心臓の音がする。私の音も井尻くんに聞こえているのだろうか。

「僕みたいな友達が欲しいんですか」

 ずっと息を繰り返していた井尻くんは不意にそう呟いた。それは一聞、冷たい言葉に聞こえたけど、私は彼の微かなメッセージに気がついた。いや、私が勝手にそう感じただけかもしれないけど…。さっきまでだらんと下がっていた肩に、少しだけ力が入った。きっと彼は自分の言葉が上手に使えていないだけ。さっきのどこか淋しそうな目が私の脳裏に浮かんだ。本当は「僕が友達になってもいいの」と言いたいんじゃないかな…。でも、これは私がそう思ってるだけだから、ちがうのかも。分からないけれど、淋しそうな目を思い出すと…。

私はタックルしていた手を放し、彼の前に立って最高に笑ってみせた。

「うん!私、井尻くんと友達になりたい!!いろんなこと話したい!!!」

何か、変人フェチから一線越えて、私は井尻くんと本当に友達になりたいと思った。もっと知りたい、彼のこと。そして、このモヤモヤを――。

 すると、井尻くんは、笑いはしなかったけれど、ゆっくりと頷いた。

「嬉しい!」

 私は井尻くんの両手を握った。彼は一瞬ビクッとした。あれっ…、手を触るのはNGだったかな?

私はパッと彼の手を放し、自己紹介を始めた。

「私、同じクラスの柏森有砂。えーと、12月31日生まれのA型。趣味は…」

 変人を探すこと、とは言えないかな。私は本を読むこと、と言った。井尻くんはコクコクと、頷きながら話を聞いている。相変わらず、顔はポーカーフェイスっていうか…無表情だけど、彼のオーラからはもう、警戒の色は消えていた。

「井尻くんは?名前何ていうの?」

 井尻くん、井尻くんって言ってるから、私は彼の名前を知らない。

井尻くんは、たっぷり間をとった後

「井尻清也」

と、消えそうな声で言った。

「せいや…かぁ」

 清也。何か、イメージピッタリだ。「清」って字、綺麗で好きだなぁ。

「じゃあ、これからはお互い名前で呼ぼうよ!」

「……」

少し困ったような、照れたような顔をした清也。←勝手に使ってみた。

こんな顔、はじめて見た。目はやはり隠れててよく見えないけれど、ちょっとかわいいなぁ。

「清也」

 にこりと微笑んで名前を呼んだら、清也はまたコクリと頷く。

「あ…りさ」

 うわー…!嬉しい!うれしいいいい!!!か細い声だったけど、確かに聞こえた。うれしいよ!!

「うん!学校でも、そう呼んでね」

「……」

 無表情で清也は頷いた。無表情だけど、いつもより明るく見えた。

私は、ずい と清也の目と鼻の先に右手の小指を立てて突き出した。

「……?」

「友達として、約束ね!これから、私と清也はずーっと友達!!」

「……」

 清也はまた一瞬困ったような苦い顔をした。おっ!?またテレているのか?

しばらく迷っていた清也だったが、ゆっくりと、すごーくゆっくりと、白くて細い指を絡ませてきた。

うーん、冷たいっ!でも、この感覚にもいつか、慣れる日がくるといいな。

そして、私は歌を歌った。

「ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼん のーますっ ゆびきった!」


 そのあと、また一言、二言、言葉を交わして(清也は単語でしか言わないけど)、私たちは別れた。

「またね!」

 私が手を振ってかけて行くと、彼も小さく手を振っていた。

一つ、新しい清也に出会えた。プレゼントを開けた時のような嬉しさが私を包む。胸がぎゅっとなる。

私はそっと、自分の右手の小指に触れた。


読んで下さって、

ありがとうございました(*^o^*)

まだまだ続く予定です。

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