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プロローグ

  

「ゴンドバルの動きが不穏でございます」

 給仕長が囁いた。

 ラスタバン王は、手元の魚料理から目を離さず答える。

「不穏な動きは、今に始まったことではあるまい」

 白身魚を上品に仕上げた最後の一口を運びながら、言葉を続ける。

「どだい、ゴンドバルの存在自体が、このイディンにとって不穏そのものだ」

「いえ、今回はかなり具体的な動きで」

 給仕長タニヤザールは、王の横で細い体を伸ばした。テーブルの置かれたテラスからは、満開に咲き誇る中庭のチェアリが望まれ、まるで薄紅の雲の上にいるようだ。給仕が気配もなく背後から、空になった皿を片づけていく。王は口髭に着いたソースをナプキンで拭った。

「では、姫達のファステリア訪問に関係があると?」

「おそらくは」

 タニヤザールが左手を上げて合図を送ると、脇にいた異国風の給仕が音もなく進み出た。手にしたベオル酒を王のグラスに注ぎ、また静かに元の場所に戻る。

「しかし訪問は取り止めにはできんぞ」

「それは、わかっております」

「警備を厳重にせい」

「あまりに重々しいそれでは、先方に失礼かと存じます。また姫様方も、お心安からずお思いになられるかと」

 ここまでくれば、給仕長の言いたいことは分かっている。

 ベオル酒のグラスを口にしたところで、海から風が吹き寄せ、王宮の壁を伝ってチェアリの重い花枝を大きく揺らした。雪のように乱れ飛ぶ花弁がテラスまで上がり、数枚がクロスの上でくるくると回る。その可憐さに花のように育った上の姫を思い、王の顔がほころんだ。

「お前の思う通りにして良い」

 本日昼食のメインディッシュが運ばれた。スパイスの香りが殊更食欲をそそる王の好物、野趣あふれる山ウズラの煮込み。彼の表情が満足そうに緩んだ。

「そのための『給仕』だ」

 言い添え、ナイフで切り分けた一口が嬉々として口へ運ばれる。が、幾度か咀嚼を重ねる内に眉が寄せられ、小さな唸りが漏れた。

「かしこまりました」

 タニヤザールは身を折るように軽く白銀の頭を下げ、そして付け加えた。

「材料の吟味は、ことさら厳しくするよう調達人に申しつけておきましょう」


 



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