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「ね、サヤ、写真撮ろう!」
マリアの言葉にうなずいて、自分のカメラをバッグから取り出す。
「はい、撮るよー。」
マリアがわたしのカメラを持ってなるべく自分の体から遠くに離して、わたしたちふたりが入るように角度を調整する。
かしゃ、とフラッシュが光り、写真がちゃんと撮れたのをモニターで確認したあと今度はマリアのカメラで写真を撮る。
それからは周りのクラスメイトを巻き込んで、ひたすらみんなと一緒に写真を撮った。
「あ、拓斗。一緒に写真撮ろう。」
いつの間にか写真撮影の輪に加わっていた拓斗に声をかける。
「ああ、いいよ。」
実は誘うのには勇気が要った。
了承してくれたことにほっとして別のクラスメイトに自分のカメラを渡すと、拓斗も自分のカメラを同じように渡した。
「はーい、じゃ、もうちょっとふたり近づいてー。」
カメラマンになってくれたクラスメイトがわたしのカメラを構えて言う。
その言葉に、拓斗がわたしに近づいて、肩に手を回してきゅっと引き寄せた。
どくり、鼓動が鳴る。
肩を組むなんて普通のこと、そう自分に言い聞かせて冷静になろうとする。
「はい、撮るよー。3、2、1・・・」
すっと、拓斗が顔を寄せ、頬が触れ合いそうな距離に近づく。
息が、止まる。
パシャ、とフラッシュが光り、近づいた距離が一瞬で離れていった。
止まっていた呼吸が再開し、一気に全身に血液がめぐる。
けれど肩に回された手はまだそのままで、離れる気配がない。
嬉しい半面わたしのとんでもなく早い鼓動が肩から伝わってしまうんじゃないかと緊張で身が固くなっていく。
「じゃあ今度こっちのカメラね。」
と、クラスメイトの言葉でまだ拓斗のカメラがあるのを思い出した。
そうか、それで手がそのままなんだ、と納得して少し体から力が抜けた、その時。
「じゃあ撮るよー。3、2、1・・・」
ふたたび拓斗が顔を寄せ、
ほんの一瞬、頬が触れた、気がした。
パシャ、と光るフラッシュ。
すぐに離れていく、頬と、手。
「サンキュ。」
そういって肩に回された手はするりと離れ、彼はカメラマンをしてくれたクラスメイトからカメラを受け取った。
彼が離れるとともに、驚きと混乱が一気に押し寄せる。
――今、頬が触れた?
「はい。」
わたしのカメラも受け取ってくれた拓斗が、わたしのカメラを渡してくれる。
渡してくれる拓斗の表情はいつもと変わらずにこやかで。
――きっと、頬が触れたのも単なる偶然。
そのときのわたしは、動揺した表情をみせないようにするのに必死だった。
留学してから写真を撮るときに自然と肩を組むことが多くなって、触れることには慣れてきたはずなのに。
そこに何の意味もないとわかっているのに。
回された手が嬉しかったのは、
離れていった頬が寂しかったのは。
その理由に、わたしはずっと前から気づいていた。
ちょっと今回は短いですね。
でもこの小説は3話完結ではありません。
珍しく・・・。