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Short story 5  作者: 怜悧
2/11

2

彼が踊っているクラスメイトのもとへ向かったあと、わたしはほかのクラスメイトと話して回ることにした。


地元イギリスの子もいるけれど、わたしのような留学生も多く、それこそ世界各国からイギリスへと勉強に来ている。

卒業したあとは国に帰る子もいればイギリスに留まる人もいるけれど、どちらにしてもこれから簡単には会えなくなる。

もしかしたらこれから先ずっと会えなくなるかもしれない。

だからみんなの声と顔をずっと覚えておけるように、話しておこうと思った。


「サヤの住んでるところとタクの住んでるところって近いの?」


聞いてきたのはマリア。タイ人の女の子で、本名は難しくて発音できないので英語名を使っている。彼女がイギリスでのわたしの一番の友達だ。


「ううん、結構遠いんだよ。飛行機で2時間くらいはかかるかな。」

「えー、うそー。日本ってそんなに広いの?」

「いくら日本が狭いって言っても、みんなが思うよりはずっと広いよ。」


日本の国土がよほど狭いと思っている人が多いらしく、飛行機で国内を移動するっている話をするとずいぶん驚かれる。


「そっかー、じゃあおんなじ日本でもタクとはあんまり会えないってこと?」

「うん、そういうことだね。」


いつもこの話題になると、不思議な感覚に襲われる。

今、イギリスにいて、毎日のように顔を合わせて挨拶して、同じように苦しんだり楽しんだりして。

それが日本に帰ったらほとんど会わなくなる。

同じ日本人で同じ国内にいれば物理的な距離は近いはずなのに、イギリスにいるよりもはるかに離れてしまうのだ。

寂しくなるだろうな、と、ふと思った。



「タク、ガールフレンドが日本で待ってるんだよね。」

「そう言ってたよ。帰国したら結婚するのかもね。」


拓斗には日本に彼女がいる。イギリスに来た当初からその話は聞いていて、2年も遠距離恋愛をすることにずいぶん驚いた。


『よく彼女が待ってるって言ってくれたね』と、彼に言ったことがある。すると彼は

『俺もそう言ってくれるとは思わなくてさ、実は別れようって言ったんだよ。そしたらさ、彼女が、留学で離れるから別れたいっていうなら俺が帰ってくるまで待つから別れない、って言ってさ。』


そう言った表情が照れくさそうな嬉しそうな、そんな感じだったのを覚えている。

そう、そのことは最初から知っていたのに。


「マリアはどうするの?」


思考を切り替えるために話題をマリアのことに変える。

マリアにはこちらでできたイギリス人の彼氏がいる。

マリアがタイに帰ると、彼女は遠距離恋愛をすることになる。


「一旦帰国するよ。家族の顔も見たいし。しばらくはお互いが休みの度に行ったり来たりするつもり。将来のことは、それからかな。二人とも気持ちが変わらなければ一緒になるし、そのときはわたしがイギリスに住むつもり。」


国籍の問題は、やっぱり大きい。

マリアは彼氏とたくさん二人の将来について話し合ったんだそうだ。

きっとだからこそ彼女は前向きで明るくいられるんだろう。

マリアは急にわたしの近くに寄って、いたずらっ子のようにニヤリと笑ってわたしを肘でつついた。


「サヤ、帰国して素敵なボーイフレンドできたら連絡してよ。写真つきで!」

「・・・たぶん。」

「たぶんじゃなくて、絶対だからね。MUSTだから!!」

「Ok、そうする。」

「でもさあ、サヤ。」

「何?」

「イギリスで思い残すことない?」

「思い残すこと、ねえ・・・、」


そう言われて、ひとつ、頭に思い浮かんだことがある。


「ほら、こっちのジェントルマンに告白して将来日本に迎えに来てもらう約束をして、空港で涙のお別れをする、とかさあ。」


そんなマリアの答えに苦笑する。


「マリア、どこまで妄想してんのよ。それはマリアがやりたいことでしょ。」

「あはは、そうなんだよねー。実はそんなのやってみたいんだよねー。」


そう言ったマリアに苦笑を返す。

実はそれに近いことを考えていたわたしが内心ドキッとしたのは彼女には内緒だ。

わたしの想いは、誰も知らない。


読みやすいように少し間隔をあけてみました。


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