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ヒドインになる予定でしたが、五歳児の勢いで全部をなぎ倒します!

作者: ろぐうぇる
掲載日:2026/07/17

初投稿です

 母が死んだ。


 平民だった母は病弱で、私が物心つく頃にはもう長くないと言われていた。私の五歳の誕生日に倒れそのまま天に召されてしまった。そして葬儀が終わったその日に、一人の男が迎えに来た。


「……久しいな」


 黒髪に深い藍色の瞳。整った顔立ちだが、どこか居心地悪そうに立つ男は、私の父親だった。


 母から話だけは聞いていた。貴族で、侯爵家へ婿入りした騎士。そして母との間に私をもうけた人。


「教会で魔法適性が確認された。このまま侯爵家へ引き取る」


 感情の読めない声だった。


 ……ああ、なるほど。魔法使いになれるから迎えに来たのか。別に愛情で迎えに来たわけじゃない。それでも生きていく術を持たない私は行くしかない。


 私は父に連れられ、侯爵家へ向かった。


◇◇◇


「二人ともこの子が私の娘だ」


 豪奢な応接室。玉座ではないが、それに匹敵する椅子へ腰掛ける美しい女性。この領地を治める女侯爵。そして隣には、銀髪碧眼の少女。私より二つほど年上だろうか。


 まるでお姫様みたいに可愛い。


 ……いや。


 待て。


 銀髪?


 女侯爵?


 婿入りした父?


 魔法?


 聖女候補?


 ……え。


 え、え、え?


 頭の奥で何かが弾けた。


(あ。)


 思い出した。


 前世。日本という国で暮らしていた記憶。そしてこの世界は、生前ハマっていた乙女ゲーム。その中でもネットで炎上するほど嫌われた"ヒドイン"の人生そのものだった。


 平民出身。実は貴族の隠し子。聖女候補。攻略対象全員を色仕掛けで奪い、婚約破棄を連発。最後は国外追放。


 ゲーム内でも掲示板でもボロクソに叩かれていた最低最悪のヒドイン。


(私だぁぁぁぁぁぁっ!?)


 終わった。


 人生終わった。


 待って待って待って!


 でも今は……!


(五歳だ!!)


 五歳!


 まだやり直せる!


 五歳児なら多少変でも許される!


 ならば未来を変える唯一の方法は──!私は父を完全に無視した。


 そして女侯爵へ一直線に駆け寄る。


「お姫様が二人もいる!」


 部屋が静まり返る。


「すっごい綺麗なお姫様と!」


 女侯爵を見つめる。


「すっごい可愛いお姫様!」


 令嬢を見つめる。


「ここってお城なの!?」


 父が固まった。


 執事が吹き出しそうになっている。


 女侯爵は目を丸くした。


 令嬢はきょとんとしている。


 よし。


 まだいける。


 押し切れ!


「……ふふ」


 最初に笑ったのは女侯爵だった。


「お姫様、ですって」


「お母様、お姫様って?」


「可愛い子だけが使える魔法の言葉よ」


 令嬢が嬉しそうに笑う。


 勝った!


 攻略対象変更!


 攻略するのは男じゃない!


 この家の権力者だ!!


 父?


 知らん。


 この人、侯爵家では婿でしかない。


 つまり一番偉いのはこの二人だ。


 媚びるならここ!


 全力で!


 私はさらに畳みかける。


「はっ!」


 大げさに口を押さえる。


「そういえば神父さまが、私は魔法使いになれるって言ってた!」


 みんなが私を見る。


「おじさん!」


 父を見る。


「お姫様たちを守らせるために私をここへ連れてきたんだね!」


 父が固まる。


「そうなの?」


「…………」


 父は答えられない。その沈黙を私は肯定と受け取ったフリをした。全力で乗っからせてもらおう。


「私!」


 拳を握る。


「魔法騎士になる!」


 胸を張る。


「頑張る!」


 そして満面の笑みで宣言した。


「お姫様たちを守るんだーーー!!!」


 部屋は静まり返り――


 女侯爵が声を上げて笑った。


「あははははっ!」


 貴族らしからぬ大笑いだった。


「あなた、本当に面白い子ね」


 令嬢も嬉しそうに笑う。


「じゃあ私の騎士様になってくれるの?」


「うん!」


「約束?」


「約束!」


 小さな指切りが交わされる。


 その日。


 私の運命は、ゲームとは違う方向へ動き始めた。


◇◇◇


 十年後。


 侯爵家の訓練場。黒い鎧に身を包んだ私は、魔法剣を納める。


「流石ね」


 義母は満足そうに頷く。


「もう王国でも有数の若手魔法騎士じゃない」


「ありがとうございます。ですが私などまだまだです」


 その隣では義姉が楽しそうに笑っていた。


「謙遜も様になってるわね、でもねぇ」


 嫌な予感がする。


「十年前は可愛かったわよね」


「……え?」


 義母が口元を隠して笑う。


「『お姫様が二人もいる!』だったかしら?」


「『魔法騎士になって守るんだ!』って」


 二人そろって私を見る。


「「可愛かったわねぇ」」


「~~~~っ!!」


 顔が一瞬で真っ赤になった。


「お、お忘れください……!」


「どうして?」


「可愛かったもの」


「五歳の頃の私は未熟そのものでした!」


「今も十分可愛いわよ?」


「お義母様まで!?」


 二人は楽しそうに笑う。


 私は兜で顔を隠したくなる衝動に耐えながら、悶える。


「どうか……どうかお許しください……」


「あら」


 女侯爵は優しく微笑んだ。


「謝ることなんて一つもないわ」


 義姉も昔と変わらない笑顔で言う。


「だって、あなたは約束を守ってくれたもの」


 魔法騎士になって。


 ずっと家族(入婿の父親という空気は除く)を守ってくれている。


 あの日の五歳児の宣言は、冗談では終わらなかった。


 ゲームのヒドインになるはずだった少女は。


 誰よりも大切な家族を守る、一人の騎士になっていた。




 ――これは、破滅フラグを五歳児の勢いでへし折った、一人の少女の物語である。

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― 新着の感想 ―
ナイスw
男性向けのゲームでは、主人公(プレイヤーキャラ)が、反社だったり鬼畜だったりするものもあるので、それの女性向けを狙ったんじゃないかな。 だけどね、なろう系乙女ゲームだと、攻略対象はだいたい婚約者を持…
あ〜〜〜も〜〜〜〜〜絵面がどこを切り取っても可愛い尊いなぁぁぁ!!!! ……父?入婿が何しようとしたん?
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