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「魔女」として断罪された悪役令嬢の話

作者: 成瀬利人
掲載日:2026/05/01

 おひめさまを陥れようとした魔女は、おうじさまによって処刑されることになりました。しかしおひめさまは、その寛大な心で、自身を傷つけた魔女を許したので、魔女は極刑を免れ、辺境の高い塔に幽閉されたのでした。


 見方によっては若干同性愛気味かもしれませんので、苦手な方は閲覧をお控えください。

 何があったのかは記憶にないが、ここに居る以上、私が悪いことだけは確かだった。


 硬いベッドの上から、動くことはできない。視界の先には、備え付けられた机があったが、足枷の鎖の長さでは、そこまで届くことは無い。力を使えば、或いは、容易に抜け出せるのかもしれなかったが、そうする気力もなかった。

 頭を動かすことの無いまま、視線だけを動かす。私がここに来て以来、一度も動くところを見ていない鉄の扉と、反対側に小窓がひとつ。見える空は晴れ渡っていて、地面は見えなかった。


あの魔女が悪いのだと、皆が口ずさんだ。何をした覚えもなかったが、或いは、私が生まれてきたこと自体が間違いであった。

私を産んで身体を弱らせた母が、死の直前、私に対して誤ったことが、脳裏に焼き付いたままだった。余りにも幼い頃だったので、私の記憶にある母はそれだけだった。


 私が産まれなければ、母が身体を弱らせることもなかったし、魔女を生み出したとして、家族がその立場を奪われることもなかっただろう。家族には、恨まれているかもしれなかった。けれど、それでもよかった。寧ろ、恨んでほしかった。


 教会の伝承に記された、聖女とやらが、魔女とどう違うのか、私には結局、わからないままだった。或いは、それが分からないことこそが、私が「魔女」である所以なのかもしれなかった。


 何がいけなかったのだろうかと、どうすればよかったのだろうかと、今更考えても意味があるわけではないが、しかし時間だけは無限にあるので、私は、それを考えながら日々を過ごした。

王太子との婚約は、しかし家同士で決まったものであったので、そこに愛情はなかったし、必要さえなかった筈だった。王妃教育は問題なかったはずだ。


では、私が魔女だからか。

やはり、その結論に至ってしまって、しかし、私は、それを否定する材料を探した。これでは、私を育ててくれた父や兄たち、使用人たちに、申し訳が立たない。


 市井に住まう平民の中に、聖女がいたのだと、噂になったのは、私が16歳の時だった。貧民街の少女だった。私と同い年であったらしいが、健康状態がよくないのか、それよりも幼く見えた。

2人暮らしだった母のもとを離れ、少女は、教会で、聖女としての教育を受けることになったらしかった。


それから何があったのかは知らないが、1年後には、私は断罪の場に立たされていた。


 ただ、少女はずっと、何かを叫んでいたが、私には聞こえず、ただ、王太子は「お前のせいで彼女が錯乱した」と言っていたことが、ずっと気がかりであった。


 魔女である以上、それも、私の力は伝承に記されていたそれよりも強いらしく、処刑しようにも回復魔法が勝るうえ、何より、私による呪いを王家や教会は恐れたので、私は、着の身着のまま、辺境の塔に幽閉された。


 死ねない身体だった。それでも、心は摩耗した。


 きっと、私なら逃げることができるのかもしれないし、復讐することだって簡単だったが、しかし、だから断罪は正解だった、と思われるのが嫌で、私は、未だここに居た。


 食事も、睡眠も、必要なかった。断罪されるまでは、貴族の令嬢として、そして王妃候補として、適切な時間の睡眠と、管理された食事と、その他生きるために必要なたくさんのことがあったはずだが、それもいらなかった。きっと、魔女だからだった。


 ふと、物音が聞こえた気がして、とうとう気でも狂ったかと、私は自嘲した。それが、本当に久しぶりの笑みで、多分、ぎこちなかったのだろうと、泣きたい気持ちになった。情緒は不安定だったが、動いているだけ、ましだった。


 兎も角、それが幻聴だと思っていたので、私は、突然金属の軋む音を立てて動いた扉に、瞠目する羽目になった。

開けた本人は、その、美しいままの少女は、私の姿を見とめて、同じく、瞠目していた。


「…逃げれたでしょう!」


 叫ばれた、その言葉の意図が分からなくて、そして何より、どうして少女がここに居るのかわからなくて、私は、無言を返すしかなかった。

 驚きのあまり少し身を引こうとして身じろぐと、手足に付けられた金属が音を立てて、少女は、泣きそうに顔を歪めた。


 少女が大股でこちらに歩み寄って、その一歩を踏み出すたびに、純白の衣装が光を跳ね返しながら揺れた。そして、鈍く微かに光を放つのみの、私の手首と足首に付けられた枷に触れる。暖かい力を感じて、すぐに、それらは音を立てて床に落ちた。

 私がまだ驚いているうちに、抱きしめられた。


「…汚れるわよ」

「今更です!」


 少女が叫んだ、その声は、しかし、先程よりも震えていて、少女が泣いているのだろうとわかった。私の足枷に触れるためにしゃがみこんだ彼女は、そのまま私に抱き着いたので、私の胸に顔をうずめるようなかたちだった。

 それを視認しようとして、私は、漸く、自分がドレスを着ていたことを思い出した。断罪された日は、丁度王家のパーティーで、本来婚約者から贈られるはずのそれを、しかし私は王太子から受け取っていなかったので、長兄とその夫人がくれたものだった。黒い生地に赤い刺繍のそれは、私に残された、唯一の家族からの贈り物だった。


 どうしたら良いのかわからなくなって、私は、丁度母が亡くなったときに兄たちがそうしてくれたように、その背に手を回して、ゆっくりと撫ぜた。

 その体温に、私まで涙を落してしまって、少女がそれを拭って、赤い目のまま、しかし大人びた微笑みを向けたので、私の涙は止まらなくて、少女も、私も、幼子のように、声に出して泣いた。


 それから、外が暗くなって、いつもは私は暗闇を見つめるだけだったが、少女が魔法で周囲を照らしてくれたので、私は、少女に手を引かれて、塔の階段を下りた。


 ここに来た時には目隠しをされていたので、私は、初めて、塔のあるここの近くに、人が住んでいるのだと知った。随分と小さな村だったけれど、少女はその中の民宿に私の手を引いて入って、その温かさに、私はまた泣いた。


少女は、2つの簡素なベッドとテーブルがあるだけの部屋の、一方のベッドに私を座らせて、それから少女は、先程塔でそうしたように、私の前に跪いて、しかし今度は泣くことも、抱きしめることもなく、ただ、私の手を握ったまま、私が落ち着くのを待った。


「王国が、滅んだのです」


 そう、少女が言った。


「だから、もう、いいんです」


 聞きたいことは、沢山あった。

 けれど、心がいっぱいで、何より、少女の声が優しかったので、少女に握られた手を引いて、そこまでの力は無かったはずだが、少女はそれに身を任せて立ち上がり、それから私の隣に腰掛けたので、その身体を、今度は私が抱きしめた。


 その温度に、鼓動に、私は、今日はこのまま眠ってしまいたいと、久方ぶりの疲労と睡魔の心地よさに、身を任せた。

 成瀬です。

 一応細かい設定はありますが、気にせず読んでください。

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