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最終話:地の果てまで逃げても、筋肉(ストーカー)はどこまでも追いかけてくるようです

 

 早朝。

 東の空が白み始めた頃、私は馬車に乗って『聖筋肉連合王国』の城門を出た。


 見送りは少ない。

 私が「大げさなのは嫌いだから」と頼んだからだ。


「……お姉様。本当に行ってしまわれるのですね」


 門の前で、セレスティアが涙をこらえて立っていた。

 彼女の頭には、昨日授けられたばかりの王冠が輝いている。

 女王としての威厳と、妹としての寂しさが同居した表情。


「ええ。後は任せましたよ、女王陛下」


 私は馬車の窓から身を乗り出し、彼女の頭を撫でた。


「貴女なら大丈夫。この国を、世界一強くて健康な国にできるわ」


「はいっ……! 必ず、お姉様がいつ帰ってきてもいいように、最強の国を守り抜きます!」


 セレスティアが深く頭を下げる。

 その隣では、ガンドルが腕組みをして立っていた。


「うむ。師匠よ、達者でな! 余もここで精進し、次会う時までには大胸筋をさらに一回り大きくしておこう!」


「期待していますわ、ガンドル陛下。……バルガ国との同盟、よろしくお願いしますね」


「任せておけ! 筋肉の絆は国境よりも固い!」


 そして、親衛隊長のガイルたち。


 300名の筋肉戦士たちが、無言で整列し、一斉に筋肉敬礼した。

 その目には涙が浮かんでいるが、誰も引き止めない。

 私の決意を尊重してくれているのだ。


「みんな、ありがとう。……行ってきます!」


 私は大きく手を振った。


 御者台のトムが手綱を振るう。

 装甲馬車がゆっくりと動き出す。


 背中で羽ばたき音がした。


 見上げれば、エンジェル・グリズリーのポチが、空を飛びながら並走している。


 振り返ると、セレスティアやセバスたちが小さくなるまで手を振り続けてくれていた。


(……さようなら。私の愛した場所)


 一抹の寂しさが胸をよぎる。

 だが、それ以上に湧き上がってくるのは、未知への期待感だ。


「お嬢様、まずどこへ向かいますか?」


 トムが振り返らずに尋ねてきた。

 その背中は、以前よりもずっと大きく、頼もしい。


「そうね……」


 私は地図を広げた。

 王都も、鉱山も、エルフの森も制覇した。

 普通の場所に行っても、もう満足できない体になってしまっている。


「私は、開拓の悦びを知ってしまったわ。病みつきになるほどに」


 何もない場所を耕し、種を撒き、筋肉でねじ伏せて楽園に変える。

 あの達成感は、何物にも代えがたい。


「なので、今度はカルスト領地よりも更に『闇の深い場所』を開拓してみたくなったの! この筋肉(物理)で」


「闇の深い場所、ですか。……まあ、お嬢様なら地獄の底でも花畑に変えられそうですが」


 トムが苦笑する。


「俺は、海の近くがいいなぁ。肉ばかりは飽きました。そろそろ魚が食いたいです」


「あら、奇遇ね! 私も今、海鮮系はアツいと思ってるの!」


 私は膝を叩いた。

 高タンパク低脂質のシーフード。

 イカ、タコ、エビ、マグロ。

 筋肉にとって、海は宝の山だ。


「時代はミートではなく、シーフードなんじゃないかって!」


「じゃあとりあえず、南でも向かってみますか」


「そうね。行ってみましょう!」


 こうして、私たちは南を目指した。

 道なき道を進み、山を越え、谷を越え。

 時折襲ってくる魔獣をデコピンで排除し、岩盤を素手で砕いてトンネルを掘りながら。


 ◇


 そして、一週間後。


 私たちは大陸の最南端にたどり着いた。

 だが、そこで私たちを待っていたのは、白砂のビーチでも、青い海でもなかった。


「……うーん」


 トムが馬車を止め、唸った。


「想像以上に、酷い土地ですね」


 目の前に広がっていたのは、ドス黒く淀んだ海。

 そして、草一本生えていない、死んだような灰色の荒野だった。


 空は常に分厚い雲に覆われ、腐敗臭のする風が吹き荒れている。


 魔素濃度はカルスト領の比ではない。生物が住むことを拒絶するような、絶対的な死の世界。


「見るからにネガティブな空気が漂っているわ」


 私は馬車を降り、黒い土を踏みしめた。

 普通の人間なら、瘴気にあてられて即死するレベルだ。


 だが、私の体は喜んでいた。

 この過酷な環境を「負荷(ウェイト)」として歓迎している。


「しかしこれは、開拓しがいがあるわ!」


「さすがはお嬢様。ポジティブの方向性が突き抜けていますね」


 トムも慣れたもので、平然と荷物を下ろし始めている。


「この辺の領地は、誰の管理なんでしょうね? 勝手に開拓しちゃって良いものなんでしょうか」


「さあ? 地図にも載っていない場所よ」


 私は肩をすくめた。

 これほどの魔境だ。どこの国も領有権を主張していないだろう。

 無法地帯(フロンティア)だ。


「形にさえしてしまえばこっちのものよ! 文句を言いに来た人は全員、物理で説得して『会員』にしてしまえばいいのだから」


「まあ、そうですね! 入会させちゃえば解決です!」


「グオゥ(そのとおり!)」


 上空を旋回していたポチが降りてきて、同意の咆哮を上げる。

 私たちの思考回路は、すっかり筋肉教に染まっていた。


 その時だった。


 ズズズズズ……。


 海面が盛り上がり、巨大な渦が発生した。


「おや?」


 ドッパァァァァァン!!


 水柱と共に現れたのは、山のように巨大なイカだった。


 体長100メートルはあるだろうか。


 触手の一本一本が城壁のように太く、吸盤には鋭い牙が生えている。


 全身から撒き散らす魔力は、かつての魔神に匹敵するほど凶悪だ。


「あれは……伝説の『テイオウイカ』!?」


 トムが叫ぶ。


「なんてサイズだ! あんなの、神話級の怪物ですよ!」


 普通の人間なら絶望して腰を抜かす場面だ。

 だが、私には違って見えた。


「……美味しそう」


 新鮮なイカ。

 刺身、焼きイカ、イカリング。

 あの巨大な筋肉質の足は、どれほどのタンパク質を含んでいるのだろう。


(私海鮮系好きだったんだよなぁ〜。楽しみ〜!)


「食料よ! トム! ポチ! 戦闘態勢!」


「はい!」


 トムが気合を入れる。


 ブチブチブチッ!!


 着ていた旅装束が内側から弾け飛び、鋼鉄の筋肉が露わになった。

 いつ見ても見事なパンプアップだ。


「粉々にしてミンチにしないように、力加減を気をつけないと……」


 私は拳を握った。


 今の私のデコピンだと、イカが消滅してしまうかもしれない。


 かといって手加減しすぎると逃げられる。

 食材ハントは繊細な作業なのだ。


 そんな心配をしていると。


『そんな繊細なコントロールが君にできるのか?』


 ふと、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 冷ややかで、けれどどこか楽しげな声。


「え?」


 次の瞬間。


 パキパキパキパキッ!!


 テイオウイカが振り上げた足の一本が、一瞬で凍りついた。

 巨大な氷柱となって海面に落下する。


「あれは……」


 絶対零度の魔力。見間違えるはずがない。


『おっと! あんたばっかり良いかっこさせられない!』


 今度は、熱い声が響いた。


 ヒュンッ!


 目にも止まらぬ斬撃が走り、テイオウイカの別の足がスパッと切り落とされた。

 愛の力が籠もった、黒曜丸の鋭利な一撃。


『私も負けていられませんね!』


 さらに、誠実な声と共に衝撃波が放たれた。

 ドォォン!!

 イカの足がもう一本、根元から吹き飛ばされる。


「……まさか」


 私は目を疑った。

 黒い砂浜に、三つの人影が立っていた。


 ルイス。

 ゼノン。

 ジェラルド。


「み、みなさん……!?」


 なぜここに。

 彼らは国に残ったはずでは。


「……ふん」


 ルイスが眼鏡を直しながら、こちらに歩いてくる。


「一人で旅に行かせはしたが、『ついてくるな』とは言われていないからな」


 へ理屈だ。

 でも、ぐうの音も出ないほど彼らしい。


「そういうことです! アレクサンドラ嬢!」


 ゼノンが血のついた剣を振って、ウインクした。


「国境? 騎士団長の地位? そんなもの、貴女への愛に比べれば些細な問題です。あんな感動的なお別れをしたんですけど、会いたくて追いかけてきちゃいました!」


「私も、彼らも、あなたを諦めることなんて出来ないんですよ」


 ジェラルドが困ったように、でも嬉しそうに笑った。


「マスター・アレクサンドラ! 私たちは……あなたのその奇行(筋肉)を、一番間近で見ていたいのです」


「みんな……」


 私は呆然とした。

 国を捨て、地位を捨て、ただ私と一緒にいたいという理由だけで、こんな最果ての地まで追いかけてきたというの?


(……みんな、ストーカー?)


 普通なら通報案件だ。

 でも、なぜだろう。

 胸の奥が温かくなるのは。

 彼らがここにいてくれることが、こんなにも頼もしく、嬉しく感じるのは。


「グルァッ!(お帰り!)」


 ポチが嬉しそうに彼らの周りを飛び回る。

 トムも「やれやれ、賑やかになりますね」と苦笑している。


「さあ! アレクサンドラ嬢!」


 ゼノンが剣を掲げた。


「マスター・アレクサンドラ! ここから始めましょう! 私たちの新たな開拓を!」


 ジェラルドが拳を突き出す。


「危なっかしくて、放っておけないからな。……少しだけ手を貸してやる」


 ルイスが手を差し伸べる。


 目の前には、最強の魔物テイオウイカ。

 背後には、最強の仲間たち。

 そして私には、唸る筋肉がある。


 マンネリなんて言葉は、私たちの辞書にはないらしい。


「……ふふっ。仕方ありませんわね」


 私はルイスの手を取り、ニカっと笑った。

 最高の笑顔で。


「はい! 築き上げましょう! 筋肉帝国建国物語シーズン2を!」


 私たちは一斉に、海へ向かって駆け出した。


 常識も、運命も、全てを物理(筋肉)でねじ伏せる旅は、まだ終わらない。

 むしろ、ここからが本番だ。筋肉に終わりはない。


 私たちの筋肉伝説は、永遠に続いていくのだから――。



 筋肉フォーエバー。ナイスバルク。



 めでたし、めでた……



「でも、もう国は作ったし、ただ同じように領地を広げて筋肉国家を作っても面白くありませんわね……」


「えっ? お嬢様?」


「そうだ! トム! いいことを思いつきましたわ!」


「嫌な予感しかしないので、その先を言うのはやめてもらっても良いでしょうか……」


「私、今度は魔族を集めて、悪の筋肉帝国を作りますわ!! 魔王、目指します!!」



 愉快な魔族を集め、大陸全土を巻き込み、魔界をも揺るがす大騒動が始まろうとしていた。


 筋肉の女帝、魔王を目指し、何故か大天使アレクサンドラが誕生するのは、もう少し先の別のお話。



「私たちの戦い(筋肉)はこれからですわよー!」



これにて、完結となります!


ここまでご覧になってくださった皆様、ブクマ、星評価で応援をしてくださった皆様、本当にありがとうございました!


特に、1番嬉しかったのは、リアクションでの応援です!


中でも、毎話欠かさず全てのリアクションを押して反応を届けてくださった方がいます!本当にありがとうございます!ちゃんと届いていましたよ!


あなたのその「ワンクリック」が、更新のたびに私の筋肉モチベをパンプアップさせてくれました。


正直なところ、星評価も涙が出るくらい嬉しいんですが、それよりも、その熱意の方が私にとっては何よりも励みになって、価値のある報酬でした!


この作品は万一の場合の保険として全話投稿予約済みではありましたが、投稿はできるだけ手動で行っておりました。


投稿ボタンを押す時にリアクションがついているのを見ると、「ああ、今まさに、誰かが読んでくれているんだ」と実感でき、本当に感慨深かったです。


あのリアクションは、私にとって「読んでくださった全ての皆様からの声援」の象徴(化身)でした。


ですので、これは特定の誰かへの感謝というだけでなく、画面の向こうで応援してくださった全ての皆様に対しての、私からの特大の感謝です!


私は、皆様に楽しんでいただける作品を書き、エタらずに最後まで投稿し続けることでしか、皆様へお返しができません。


せめて最終話の後書きくらいはと、少し長めにお礼を申し上げさせていただきました。


皆様の応援のおかげで、筋肉を信じて、皆様とともに完走することができました!


こうして物語を投稿しきれたことと、皆様からいただいた全ての応援が私の一番の誇りです!


(やはり筋肉を信じれば道は開けるのでしょう……これにもアレクサンドラもにっこり)


アレクサンドラがここにいればこう言うでしょう


「ここまでついてこられたあなたたちは、もう立派な会員(筋肉)ですわよ!」


と……。



おや?お気付きに……なられましたか?


こいつら、馬鹿なことばっかやって本当に脳筋だよな!と思って読んでいたあなた。


そう、これをここまで読んでしまっている時点であなたはもう……筋肉なのです。筋肉律には逆らえない。

チーム筋肉……ですね……。


──────────────────


何度も申し上げますが(何度言っても足りないんです。最後くらい言わせて)、皆様には本当に感謝しかありません!


最終話までお付き合いいただき、私の長い話にも耳を傾けてくださり、本当にありがとうございました!


皆様、最高です!


──────────────────

【次回作のお知らせ】

そして……休む間もなく、本日から新作の連載を開始いたしました!本日と明日だけで20話まで投稿するという……狂ったとしか思えないスケジュールです。


次回作は『筋肉(物理)』ではなく、『頭脳シゴデキ』乙女ゲーム風の「溺愛ラブコメ」となります(見るのに頭は使いません。出てくる人が頭良いだけです。セレスティアみたいな頭脳系が3人いるだけです……)


作風がガラッと変わるため(筋肉は弾けませんし、物理で解決もしません。一応筋肉キャラもいますが……この世界の筋肉ルールに反する「一定の知性」を兼ね備えてしまっている禁忌の存在です。そして主人公が使うのはアレクサンドラが持っていない……頭脳です)


「もう脳筋は嫌だ。頭の良い、シゴデキ女子の恋愛モノも読んでやるか」


という心の広い方がいらっしゃいましたら、覗いていただけると嬉しいです!


▼本日から連載スタート!▼

『【連載版】無能王子に婚約破棄された瞬間、王国のトップ3に拉致されました。「私の書類を恋人のように撫で回すのはやめてください」逃げ場がないので、国ごと支配することにします』

▼リンクはこちらです▼

https://ncode.syosetu.com/n0440lq/


──────────────────

最後になりますが……

「ポチにドラゴン(最終的になります)になって欲しい!」「筋肉の虜になった!」「茹でささみを投げつけてやるわ」と思っていただけたら、

下にある【★★★★★】評価やブックマークで私に星送り流デコピンをしていただけると、超新星になって喜びます!

★評価は『星1つ』からでも、筋肉が弾けて泣いて喜びます!

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