表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/70

第61話:王城への道を阻む『四天王(アンチマッスル)』が現れましたが、筋肉への愛と気合で押し通りました

 

 王都の大通りは、地獄のような様相を呈していた。


 倒れ伏す人々。


 彼らから立ち上る生命力を吸い上げ、空を覆う黒い霧。


 そして、その霧から実体化した影の魔物たちが、残された生者を襲おうと徘徊している。


「キシャァァァッ!」


 影の狼が、逃げ遅れた子供に飛びかかろうとした瞬間だ。


 ドゴォォォォン!!


 横合いから飛んできた丸太のような腕が、狼を真横から粉砕した。


「お嬢様の領民(予定)には、指一本触れさせませんよ!」


 トムだ。

 執事服の背中をビリビリに破き、盛り上がった僧帽筋を露わにした彼が、仁王立ちしている。


 頼もしい。あんなに気弱だったトムが、今や素手で魔物をミンチにするバーサーカーだなんて。


「サササッ!」


 その背後から、無数の影の触手が迫る。

 だが、それらはトムに触れる前に、細切れになって霧散した。


「死角が甘いですな」


 セバスは、銀のトレイを円盤のように構え、高速移動(サササ)で戦場を駆け抜けている。

 ただのトレイなのに、彼が振るうと名刀のような切れ味を発揮するのは何故なのかしら。執事スキルって奥が深いのね。


「総員、負傷者の保護を最優先! 魔物は執事隊と親衛隊に任せなさい!」


 後方では、セレスティアがてきぱきと指示を出している。

 彼女の周りには、簡易的な結界が張られ、そこが野戦病院となっていた。

 ガイルたち親衛隊が、倒れている市民を米俵のように担いで運び込んでくる。


「飲みなさい! 生きるために!」


「うぐっ……ま、マズい……! けど力が……!」


 プロテインによる蘇生措置も順調のようだ。

 みんな、いい動きをしている。

 これなら街の方は任せても大丈夫そうだわ。


「お姉様! ここは私たちで食い止めます! お姉様は王城へ!」


 セレスティアが叫ぶ。


「ええ、任せたわよ!」


 私は頷き、王城へと続く大理石の階段を駆け上がった。

 同行するのは、ルイス、ジェラルド、ゼノン、ガンドル。そしてポチ。

 選りすぐりの精鋭パーティーだ。


 だが、そう簡単に本丸には行かせてくれないらしい。


 王城の正門前広場。

 そこに、二つの異様な影が待ち構えていた。


「ヒヒヒ……。ここから先は通さんぞ」


「筋肉などという下劣な肉塊、我らが浄化してくれよう」


 現れたのは、黒いローブを纏った骸骨のような魔術師と、半透明の体を持つ幽霊のような騎士。

 見るからに「物理が効かなそう」な相手だ。


「あれは……魔神の配下か」


 ルイスが嫌そうに顔をしかめた。


「右の骸骨は恐らく『精神の腐敗者(マインド・コラプター)』。精神干渉魔法の使い手だ。左の幽霊は個体数が少ない希少種『虚無の騎士(ヴォイド・ナイト)』。あらゆる物理攻撃をすり抜ける霊体だ」


 なるほど。

 つまり、殴っても手応えがないし、心を病ませてくる嫌な奴らってことね。

 一番関わりたくないタイプだわ。


「物理無効か……。アレクサンドラ、君には相性が悪い」


 ルイスが杖を構えようとする。


「いいえ、ここは私にお任せを!」


 前に出たのは、ゼノンだった。

 彼は愛剣『黒曜丸』を抜き放ち、虚無の騎士に対峙した。


「物理が効かない? それがどうしたと言うのです!」


「カカカッ! 愚かな人間め。貴様の剣など、我の体を素通りするだけ……」


 虚無の騎士が嘲笑う。

 確かに、霊体相手に物理攻撃は無意味だ。常識的に考えれば。

 でも、この男に常識は通用しない。


「我が剣に宿るは、鋼の重さだけではない! アレクサンドラ嬢への、熱く、重く、そして永遠に変わらぬ『愛の重さ』だァァァッ!!」


 ゼノンが吠えた。

 すると、どういう理屈か、『黒曜丸』がピンク色の光を放ち始めた。

 魔力ではない。

 あれは……愛のオーラ? そんなのアリ?


「愛は次元を超える! 時空をも切り裂く! ならば、霊体ごとき斬れぬ道理なしッ!!」


 ゼノンが踏み込み、一閃。


 ズバァァァン!!


「ギャァァァァァッ!?」


 虚無の騎士が悲鳴を上げた。

 物理無効のはずの霊体が、袈裟懸けに切り裂かれている。

 切り口から黒い霧が噴き出し、ピンク色の炎に焼かれていく。


「な、なぜだ!? 物理攻撃のはず……!」


「言ったはずだ。これは『愛』だと!」


 ゼノンが決め顔で剣を振るう。

 すごい。理屈が全く分からないけれど、とにかく愛の力ですべてを解決してしまった。

 これには私も拍手するしかない。


「おのれ、ならば精神攻撃だ!」


 骸骨の魔術師が、杖を掲げた。


「『絶望の波紋(デスペア・ウェーブ)』! 己の無力さを嘆き、心の闇に溺れて死ぬがいい!」


 ドス黒い波動が放たれる。

 食らえば精神崩壊を起こす、凶悪な呪いだ。

 これはまずい。私たちは筋肉は鍛えているけれど、メンタルケアは専門外だ。


「ガハハハハ! 痒いわッ!!」


 ドォォォォン!!


 その波動を、真正面から怒声で吹き飛ばした男がいた。

 ガンドル陛下だ。

 彼は仁王立ちになり、マントを脱ぎ捨てて自慢の大胸筋を晒した。


「な、何!? 呪いが……弾かれた!?」


「絶望だと? 笑わせるな!」


 ガンドルがポージングを決める。

 サイドチェスト!


「筋肉を見ろ! 昨日の自分より、今日の自分は確実に成長している! 成長があるところに、絶望など入り込む隙間はないのだ!」


 精神論だ。

 圧倒的な精神論が、魔法的な呪いを物理的に弾き返している。

 ポジティブすぎる脳筋には、精神攻撃は無効ということか。


「貴様のような陰気な奴には、これが特効薬よ! 食らえ、『マッスル・ハグ』!!」


 ガンドルが骸骨魔術師に飛びかかり、その細い体を鯖折り(ベアハグ)にした。


「ギ、ギギギ……! は、離せ! 熱い! 苦しい!」


「ガハハ! 心を開け! 筋肉と対話しろ!」


 バキボキッ!


 骸骨の骨が砕ける音がする。

 精神攻撃使いが、物理的な圧力と暑苦しさで浄化されていく。


「……すごい」


 ジェラルドが呆然と呟いた。


「物理無効も、精神攻撃も、彼らの『信念』の前では無力なんですね……」


「ええ。頼もしい仲間たちですわ」


 私は誇らしくなった。

 彼らはもう、ただの変人ではない。

 立派な筋肉戦士マッスル・ウォーリアーだ。

 彼らの筋肉はもはや、物理という枠を超越したのだ。


「先に行け、師匠!」


 ガンドルが、骸骨をヘッドロックしたまま叫んだ。


「こやつらは我らが引き受ける! お主は元凶を叩け!」


「アレクサンドラ嬢、どうかご武運を! 後で必ず追いつきます!」


 二人が道を切り開いてくれた。

 王城の扉は、もう目の前だ。


「行きましょう、ルイス様、ジェラルド!」


「ああ。……全く、どいつもこいつも非常識な奴らだ」


 ルイスが苦笑しながら続く。

 ポチも「グルゥ(あいつらすげぇ)」と感心しながらついてくる。


 私たちは王城へと駆け込んだ。


 目指すは玉座の間。

 そこに、すべての元凶がいるはずだ。


 お父様。国王陛下。

 待っていてください。

 今、最高に暑苦しい救助隊が到着しますわよー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ