表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/70

第48話:『筋肉ダンジョン』がグランドオープンしました。世界中の冒険者が挑みに来ましたが、受付でプロテインを配ったら困惑されました

 

 ソフィを管理システムとして組み込んでから一週間。


 カルスト領の裏山には、巨大なゲートが建設されていた。

 石造りのアーチには、こう刻まれている。


『カルスト・リゾート・ダンジョン 〜狩りと筋肉のテーマパーク〜』


「……素晴らしい出来栄えですわ」


 私は完成したゲートを見上げ、満足げに頷いた。

 今日は記念すべきグランドオープンの日だ。


 噂を聞きつけた冒険者たちが、朝から長蛇の列を作っている。

 彼らの目当ては、Sランクダンジョンから産出されるレア素材と、高経験値の魔物たちだ。


「おい、聞いたか? ここのダンジョンは入場料を払えば狩り放題らしいぜ」


「腕が鳴るぜ。稼ぎまくるぞ!」


 冒険者たちがザワザワしている。

 ふふふ、驚くのはまだ早い。


「マスター・アレクサンドラ、受付の準備が整いました」


 声をかけてきたのは、ジェラルドだ。

 彼はパリッとした制服(筋肉を強調するタイトなシャツ)を着こなし、クリップボードを手にしている。

 『ダンジョン管理課長』としての初仕事だ。


「ありがとう、ジェラルド。システムの方はいかが?」


「はい。ルイス殿の調整により、コアとのリンクは安定しています。現在の魔物湧きレートは120%。ミノタウロスの脂の乗りも最高です」


「ソフィの様子は?」


「地下の制御室で文句を言いながらも稼働しています。『ふかふかベッドとお風呂のためよ!』と叫びながら、必死に聖女の祈りを捧げていました」


 ジェラルドが苦笑する。


 どうやら、アメ(待遇)ムチ(労働)のバランスはうまくいっているようだ。


 彼女の欲望が魔力となって魔物を呼び寄せ、私たちがそれを狩る。

 完璧なリサイクル・システムだ。


「では、開門しましょう!」


 私の号令とともに、ゲートが開かれた。


「いらっしゃいませー!!」


「ウェルカム・トゥ・マッスル!!」


 受付スタッフ(筋肉親衛隊)たちが、元気な声で冒険者たちを出迎える。


「な、なんだコリャ!?」


 先頭にいたベテラン冒険者パーティーが目を剥いた。

 無理もない。

 受付の横には、なぜか巨大なサーバー(給水器)が置かれ、緑色の液体が並々と注がれているのだから。


「入場の前に、まずはこちらをどうぞ! 当ダンジョン特製の『気付け薬(プロテイン)』です!」


 ガイルが満面の笑みでコップを差し出す。


「え、これ飲むの? ドブ色だけど……」


「栄養満点ですよ! これを飲めば、ダンジョン探索の生存率が30%上がります!」


 半信半疑で口にした冒険者が、次の瞬間、カッと目を見開いた。


「ぐっ……! ま、マズイ!! ……でも、力が湧いてくる!?」


「うおおお! 剣が軽く感じるぞ!」


 掴みはオッケーだ。

 彼らは狐につままれたような顔で、しかし足取り軽くダンジョンへと吸い込まれていく。


 ◇


 ダンジョン内部。第一層。


 そこは、私が知る薄暗い洞窟ではなかった。


「……明るい」


 壁には発光する苔(ルイスが品種改良した)が植えられ、通路は綺麗に整地されている。

 さらに、曲がり角ごとに案内看板が立っていた。


『← 初級コース(ゴブリン・ウルフ)』

『→ 上級コース(ミノタウロス・キメラ)』

『↓ 死ぬコース(ドラゴン・アレクサンドラ)』


「なんだこの親切設計は……」


 冒険者たちが困惑しながら進むと、広間にたどり着いた。

 そこには、鎖に繋がれたミノタウロスがいた。


「ブモォォォ……」


 ミノタウロスは凶暴そうに鼻息を荒くしているが、その首輪には鎖がついており、壁に固定されている。

 つまり、逃げられない。


「『サンドバッグ・ミノタウロス』です! 思う存分殴ってください!」


 監視役の親衛隊員が説明する。


「え、いいの? 一方的に?」


「はい! ストレス発散にどうぞ! 倒したらお肉はお持ち帰り自由です!」


「ヒャッハー! 最高だぜぇ!」


 冒険者たちが剣や魔法を叩き込む。

 ミノタウロスは哀れにもタコ殴りにされ、美味しいお肉へと変わった。


 これは狩りではない。

 収穫体験だ。


「マスター・アレクサンドラ、第一層の稼働率は良好です」


 ジェラルドが横で報告してくる。


「冒険者たちの満足度も高いようです。『こんなに楽して稼げるダンジョンは初めてだ』と」


「それは良かったですわ。でも、ヌルすぎませんこと?」


 私は少し不満だった。

 こんな接待プレイで、彼らの筋肉が育つとは思えない。


「ご安心ください。第二層からは『アトラクション』を用意してあります」


 ジェラルドがニヤリと笑った。

 その笑顔は、かつての爽やかな王子様のものではなく、完全にこちらの世界の住人のそれだった。


 ◇


 第二層。

 そこは地獄だった。


「な、なんだこの床はぁぁぁ!?」


 冒険者たちが悲鳴を上げている。

 通路の床が、ベルトコンベアのように逆走しているのだ。

 しかも、全力ダッシュしないと後ろの落とし穴(毒沼)に落ちるスピードで。


「強制ランニングマシンです!」


 天井からは巨大な鉄球が振り子のように迫ってくる。


「避けろ! 当たったら死ぬぞ!」


「重力が……体が重い!?」


 さらに、ルイスの重力魔法が付与されたエリアでは、自分の体重が3倍になる。

 その状態で魔物と戦わなければならない。


「ひぃぃぃ! 聞いてないぞこんなの!」


「帰りたい! ママァァァ!」


 楽園だと思って浮かれていた冒険者たちが、次々と脱落していく。

 だが、中には目の色を変える者たちもいた。


「……面白い」


 一人の大柄な戦士が、重力エリアで剣を構えた。


「この負荷……通常の修行では得られないものだ。ここを突破すれば、俺はもっと強くなれる!」


「その通りです!」


 私は影から飛び出し、彼に拍手を送った。


「良いマインドですわ! 貴方には特別に、プロテイン(濃縮版)をプレゼントします!」


「あ、あなたは……拳聖アレクサンドラ様!?」


 戦士が感激して震える。


「ありがとうございます! 一気飲みします!」


 彼が激マズドリンクを飲み干すと、全身から湯気が噴き出し、筋肉が膨張した。


 覚醒だ。


「うおおおおッ!! 力が……力が溢れてくるッ!!」


 彼は雄叫びを上げ、3倍重力をものともせずにミノタウロスをなぎ倒した。


「マスター・アレクサンドラ。リピーター確定ですね」


 ジェラルドが満足げにチェックを入れる。


 こうして、カルスト領のダンジョンは、「楽して稼げる」という甘い餌で冒険者を釣り、「極限の負荷」でふるいにかける、恐るべき養成機関として機能し始めた。


 生き残った者は、例外なく筋肉教の信者となり、カルスト領の戦力として数えられることになる。


 脱落した者も、安全装置(転移魔法)で入り口に戻されるだけなので、死人は出ない。


 完璧なシステムだ。


「さて、次は最下層の視察に行きましょうか」


 私はジェラルドを促した。

 最下層には、私のペットとなったクリスタル・ドラゴンがいる。

 あの子も、いい加減退屈している頃だろう。



 その時、タイミングよくダンジョンの最下層から、ドラゴンの悲鳴にも似た咆哮が響いてきた。


 それは、私のペットの声ではない。


 もっと異質な、聞いたこともない鳴き声だ。


「……行きますよ、ジェラルド!」


「はい、マスター・アレクサンドラ!」


 私たちは駆け出した。

 平和なダンジョン運営に、また新たな波乱の予感が混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ