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第39話:王都に凱旋したら体が勝手に発光し始め、ルイス様が「計算が合わない」と頭を抱えました


 王都の正門前。

 そこは異様な熱気に包まれていた。


「開門ッ! バーデン公爵令嬢、アレクサンドラ様のご帰還だァァッ!」


 門番の声とともに、巨大な城門がゆっくりと開かれる。

 その先には、王都のメインストリートが一直線に伸びていた。


 沿道には、すでに黒山の人だかりができている。

 彼らは「魔女が攻めてきた」という噂を聞いて恐れおののいているのか、それとも単なる野次馬か。


「さあ、皆様。笑顔ですわよ!」


 私は装甲馬車の屋根に立ち、大きく手を振った。


 私の後ろには、100名の筋肉親衛隊。

 彼らは上半身裸になり、オイルを塗ってテカテカに輝いている。

 さらにその後ろには、巨大な熊のポチが、愛想よく風船を配りながら歩いている。


「な、なんだあれは……?」


「魔獣が……風船を配っている?」


「あの男たちの筋肉、凄すぎるぞ……!」


 民衆がざわめく。

 恐怖よりも、困惑と好奇心が勝っているようだ。

 作戦通りだ。


「カルスト領名物、マッスルパレードの始まりですわ!」


 私の合図で、大音量の音楽が鳴り響く。

 親衛隊たちがリズムに合わせてポージングをとりながら練り歩く。


「キレてる! キレてるよ!」


「デカイ! 背中に鬼の顔が見える!」


 サクラとして紛れ込ませておいたお父様の部下たちが掛け声を上げる。

 つられて、民衆からも歓声が上がり始めた。


「すごい! なんだか楽しそうだぞ!」


「おい見ろ、あの熊、可愛い顔してるじゃないか!」


 空気が変わる。

 魔女の恐怖はどこへやら、王都は一瞬にして「お祭り会場」へと変貌した。


「ふふっ、チョロいですわね」


 私は満足げに頷いた。

 隣では、ガンドルとゼノンが、観客に愛想を振りまいている。


「よお国民諸君! 余の僧帽筋はどうだ!」


「愛の力で鍛え上げた大胸筋、見てください!」


 彼らもノリノリだ。

 これなら、王城までの道のりはウィニングランのようなものだろう。


 だが。

 私はふと、自分の体に違和感を覚えた。


(……熱い)


 体の奥底、丹田のあたりから、熱い塊が湧き上がってくる。

 興奮しているからではない。

 もっと物理的な、エネルギーの奔流だ。


 ボゥッ……!


 私の全身が、金色の光に包まれた。

 以前、スタンピードの時に発現した「謎のオーラ」だ。

 だが、あの時よりも光が強い。眩しいほどだ。


「おおっ! アレクサンドラ様が光り出したぞ!」


「後光だ! 魔女ではなく、聖女様なのか!?」


 民衆が拝み始める。

 演出としては最高だが、輝きすぎて少し不安になる。


 だって、私は今、「魔封じの手錠」をつけているはずなのだ。

 魔力が封じられているのに、なぜこんなに魔力光(オーラ)が出るの?


まさか、これは魔力光ではなく、()()のオーラなのでは?


私はついに、筋肉の頂きを超え、筋肉の向こう側に行ってしまったのかもしれない。


 私は、そんな強い期待を胸に手錠を見た。

 黒いオリハルコンの輪。

 それは以前と変わらず、私の手首に嵌められている。

 だが、その拘束感は、羽飾りのように軽くなっていた。


「……ま、いいか! 目立ってなんぼですわ!」


 私は深く考えるのをやめ、光り輝く腕を高く掲げた。

 その瞬間、光が爆発的に広がり、王都の空を金色に染め上げた。


「「「「うおおおおおおおおッ!!」」」」


 王都中が熱狂の渦に飲み込まれる。

 私は知らなかった。

 この光が、単なる演出ではなく、私の肉体が「次のステージ」へ進化した証であることを。


 ◇


 馬車の中。

 ルイス・ヴァン・ジークフリートは、窓の隙間からアレクサンドラの様子を観察していた。

 彼の手には魔力測定器があり、針はレッドゾーンを振り切って震えている。


「……ありえない」


 ルイスは脂汗を拭った。

 目の前の現象が、彼の魔法理論を根底から覆そうとしていた。


「あの手錠は、オリハルコン製だ。大魔導師クラスの魔力ですら、99%カットする強力な封印具のはずだ」


 現に、装着した当初のアレクサンドラは、立つこともままならないほど弱体化していた。

 魔力による身体強化が強制解除され、彼女本来の(貧弱な)筋力だけになったからだ。


 だが、今の彼女はどうだ。

 手錠をつけたまま、笑顔で手を振り、全身から太陽のような魔力光を放出している。


「拘束が壊れたのか? いや、術式は正常に作動している」


 ルイスは測定器の数値を読み取った。

 手錠は、正常に魔力を阻害しようとしている。

 だが、彼女の体内で発生しているエネルギー量が、手錠の許容範囲を遥かに超えているのだ。


 ダムが決壊するように、抑えきれない力が溢れ出している。


「……仮説を立て直す必要があるな」


 ルイスは独り呟いた。


「これまで彼女が行ってきたトレーニング。あれは『無意味』ではなかった」


 これまでの彼女の筋トレは、無自覚な魔力強化のせいで負荷がかからず、筋肉の発達には寄与していなかった――そうルイスは分析していた。

 だが、手錠をつけてからの日々は違う。


 魔力を封じられ、ただの人間と同じ条件になった状態で、彼女は岩を運び、スクワットを繰り返した。

 死ぬほどの負荷。筋肉断裂と超回復の繰り返し。


「その結果、彼女の肉体は『器』として完成してしまった」


 ルイスは戦慄した。


 今の彼女の筋肉は、見た目こそ細いままだが、その密度は鋼鉄を超えている。

 極限まで鍛え上げられた肉体。

 そこに、行き場を失った膨大な魔力が流れ込んでいるのだ。


 これまでは「魔力が筋肉を無理やり動かしている」状態だった。

 だが今は違う。

「筋肉が魔力を吸収し、融合している」。


 魔力という燃料を、ロスなく燃焼させる最強のエンジン(肉体)が完成しつつあるのだ。


「手錠による魔力制御が、逆にトレーニングの質を極限まで高めてしまったということか……皮肉な話だ」


 ルイスは窓の外、光り輝くアレクサンドラを見た。


 あの光は、魔力漏れではない。

 肉体と魔力が完全に融合し、新たなエネルギーへと昇華される際の発光現象。

 言うなれば、『神気』に近い。


「彼女はもう、人間ではないのかもしれん」


 ルイスはゴクリと唾を飲み込んだ。


 今、手錠がかろうじて彼女の力を抑え込んでいる。

 だが、それも時間の問題だ。

 彼女の筋肉がさらに成長し、魔力との融合が進めば、手錠など紙屑のように引きちぎられるだろう。


 その時、彼女はどうなる?

 物理と魔法の境界を超越した、完全なる生物。

 破壊の女神か、あるいは――。


「……ふっ、楽しみじゃないか」


 ルイスは口元を歪め、不敵に笑った。

 計算など合わなくていい。

 彼の予想を裏切り、常識を粉砕して進む彼女こそが、彼の求めた「研究の究極」なのだから。


「行け、アレクサンドラ。この王都ごとき、君の輝きで焼き尽くしてしまえ。立ち止まらないからこそ、君なんだ」


 ルイスは測定器を閉じ、パレードの熱狂に身を委ねた。

 手錠が砕け散るその瞬間を、特等席で見届けるために。


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