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第38話:王都への道中に『落とし穴』や『魔法の矢』がありましたが、絶好のアスレチックだったので楽しく完走しました


 ドガァァァァァァン!!


 街道を塞いでいた丸太のバリケードが、木っ端微塵に弾け飛んだ。

 私の正拳突きではない。

 筋肉親衛隊の先頭集団が、タックルの練習がてら粉砕して通ったのだ。


「ヒャッハー! 軽い軽い!」


「木屑が肌に当たって気持ちいいぜぇ!」


 バッキバキの男たちが、土煙を突き破って疾走していく。

 その後ろを、私たちの装甲馬車が優雅に追走する。


「……お嬢様。これ、本当にパレードなんですか?」


 トムが遠い目をしている。

 彼の視線の先では、バリケードを守っていた第三騎士団の兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。


「ええ、パレードですわ。ただし、少々アグレッシブな」


 私は紅茶を飲みながら答えた。

 王国の歓迎(妨害)は、予想以上に熱烈だった。

 第一のバリケードを突破してから数キロ。次なるアトラクションが私たちを待ち構えていた。


「止まれぇぇぇ!! ここには『底なし沼』の罠が仕掛けてあるぞ!」


 街道の両脇から、伏兵の隊長が叫んだ。

 見れば、地面の色が変わっている。

 土魔法で液状化された泥沼だ。馬車ごと沈めて足止めする作戦だろう。


「あら、楽しそう」


 私は窓から身を乗り出した。


「総員、足元に注意! 泥遊びの時間ですわよ!」


「「「「イエス、マスター!!」」」」


 親衛隊たちが止まらない。

 彼らは速度を緩めるどころか、さらに加速した。


 バシャバシャバシャッ!!


 泥が跳ねる。

 彼らは沈まない。

 沈むよりも早く、次の足を踏み出しているからだ。

 いわゆる「水面走り」の要領である。極限まで鍛え上げられた脚力のみが可能にする芸当だ。


「なっ……!? 沼の上を走っているだと!?」


 伏兵たちが目を剥く。


「馬車はどうする気だ! あの重量なら沈むはず……」


 ところが、ルイスの開発した装甲馬車『氷結号』は、キャタピラの接地面積と魔導浮力装置のおかげで、泥の上を滑るように進んでいく。


「快適ですわね」


「……物理法則が息をしていない気がします」


 トムが頭を抱える。


 さらに進むと、今度は空から攻撃が来た。


 ヒュルルルル……!


 無数の矢だ。

 火矢、氷矢、そして爆裂魔法が付与された魔矢の雨。


「迎撃用意!」


 ゼノンが叫び、馬車の屋根に飛び乗った。

 抜刀。


「我が愛の剣技を見よ! 疾風迅雷!」


 キンキンキンキンッ!!


 目にも止まらぬ剣速で、馬車に迫る矢がすべて叩き落とされる。

 一歩も動かず、手首の返しだけで雨を弾くような神業だ。


「ガハハ! 余も混ぜろ!」


 ガンドル陛下も外に飛び出し、飛んでくる火矢を素手で掴み取った。


「ぬんっ!」


 そして、投げ返した。

 倍の速度で。


 ドォォォン!!


 森の中に隠れていた弓兵たちが、自分の放った矢の爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。


「動体視力のトレーニングにちょうどいいのう!」


「あ、陛下ズルいですわ! 私もやります!」


 私も馬車から降りて参戦した。

 手錠をつけたまま、飛んでくる矢をパシパシと掴み取る。

 リズムゲームみたいで楽しい。


 100本の矢を掴み取り、花束のようにまとめて道端に置く。


「お返ししますわー!」


「ひぃぃぃぃッ! バケモノだぁぁぁ!」


 王国兵たちの戦意が、音を立てて折れていくのが分かった。

 彼らにとっては決死の防衛戦でも、私たちにとってはただのアスレチックなのだ。


 ◇


 そんな道中を繰り返すこと数時間。

 私たちはついに、王都へと続く最終防衛ライン「ガルガの砦」に到着した。


 巨大な城壁と、堅牢な門。

 その上には、数千の兵士と魔導師部隊が待ち構えている。


「ここが最後の関門ですわね」


 私は砦を見上げた。

 さすがに、これを正面から突破するのは骨が折れそうだ。

 いや、私が殴れば壊れるのだが、文化財を破壊するのは気が引ける。


「どうしますか、お姉様。書類(通行許可証)はもう役に立ちそうにありませんわ」


 セレスティアが肩をすくめる。

 向こうは完全に臨戦態勢だ。問答無用で極大魔法を撃ち込んでくる気配がある。


「ふん。まとめて凍らせてやろうか」


 ルイスが杖を構える。


「いえ、待ってください」


 私はニヤリと笑った。


「せっかくの観客(兵士)がたくさんいるのです。ここは、当初の予定通り『パレード』を行いましょう」


「パレード?」


「ええ。筋肉の素晴らしさをアピールして、彼らのハートを掴むのです!」


 私は親衛隊たちに合図を送った。


「総員、フォーメーション・マッスル!」


「「「「イエス、マスター!!」」」」


 100人の男たちが、砦の前で整列した。

 そして、音楽が流れる。

 ルイスの魔導具から、アップテンポなBGMが大音量で再生される。


「ワン、ツー! ワン、ツー!」


 始まったのは、一糸乱れぬ「ボディビル・ポージング・ダンス」だった。


 サイドチェスト!

 モスト・マスキュラー!

 ダブルバイセップス!


 100人の筋肉が、太陽の光を浴びてオイル()で輝く。

 その迫力、その美しさ。

 それは暴力的なまでの「圧」となって、砦の兵士たちに襲いかかった。


「な、なんだあれは……!?」


「目が……目が離せない……!」


 城壁の上の兵士たちがざわめく。

 弓を持つ手が止まり、魔導師の詠唱が途切れる。

 彼らは見たことがなかったのだ。これほどまでに鍛え上げられ、躍動する肉体の輝きを。


「さあ、ガンドル陛下! センターへ!」


「任せろ!」


 ガンドル陛下がマントを脱ぎ捨て、パンツ一丁でセンターに躍り出る。

 王者の筋肉。

 その背中には、鬼の顔のような筋肉(オーガバック)が浮かび上がっている。


「おおおお……! あれが、バルガの武王か……!」


「美しい……なんて完成度だ……!」


 敵兵の中から、感嘆の声が漏れる。

 戦意喪失などというレベルではない。彼らは魅了されていたのだ。生物としての究極の姿に。


「今ですわ、セレス!」


「はいお姉様!」


 セレスティアが合図をすると、セバスが残像を伴う高速移動で城門の前に近づき、一枚の張り紙をした。


『バーデン筋肉教団・王都支部 新規入会キャンペーン中!』


『今なら、プロテイン(お試しサイズ)プレゼント!』


 そして、馬車の荷台から、いい匂いが漂い始める。

 トムとポチが、巨大な鍋で「特製マッスルシチュー」を煮込み始めたのだ。

 空腹の兵士たちの鼻を、暴力的な飯テロが直撃する。


「ぐぅぅ……」


 砦のあちこちで、腹の鳴る音が聞こえた。


「さあ、王国の皆様! 争いはやめて、一緒にランチにしませんか?」


 私が拡声器で呼びかける。


「美味しいお肉と、楽しいトレーニングが待っていますわよ!」


 沈黙。

 そして。


 ギギギギギ……。


 重厚な城門が、ゆっくりと開いた。


「「「「ごちそうになりまーす!!」」」」


 武器を捨てた兵士たちが、雪崩を打って駆け寄ってきた。

 陥落である。

 血を流すことも、城壁を壊すこともなく。

 筋肉と食欲が、国境を越えた瞬間だった。


「……呆れたな」


 ルイスが眼鏡を外して天を仰いだ。


「軍事拠点すら、彼女にかかればただの『イベント会場』か」


「ふふっ。これが私たちの力ですわ」


 ゼノンが誇らしげに胸を張る。


 こうして、私たちは最後の関門を「ランチ休憩」として突破した。

 王都はもう、目と鼻の先だ。


 ジェラ……様、ソフィ様。

 震えて待っていてくださいね。

 この最高に暑苦しいパレードが、あなたたちの目の前まで行きますから。


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