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第17話:魔獣の大群が押し寄せてきたので、人間投石機で『出荷』してあげました


 ドォォォォォォン!!


 轟音とともに、森の一部が消し飛んだ。

 ガイルたちが放った巨大な岩が、魔獣の群れに着弾したのだ。


 先頭を走っていたオークやゴブリンたちが、木の葉のように舞い上がる。

 血飛沫ではなく、土煙が舞う。

 あまりの質量攻撃に、魔獣たちは悲鳴を上げる暇もなく「ミンチ」になっていた。


「ナイスショット! その調子ですわ!」


 私は手を叩いて称賛した。


 私たちが用意した迎撃システム。

 名付けて『人間投石機ヒューマン・カタパルト』。


 仕組みは単純だ。

 巨大な丸太をシーソーのように組み、片方に重たい岩を乗せる。

 そして、もう片方に人間が高いところから飛び降りる。

 テコの原理と、鍛え上げられた脚力が生み出す衝撃で、岩を射出するのだ。


 原始的? 野蛮?

 いいえ、これは「筋肉と物理法則の融合」が生み出した芸術ですわ。


「次弾装填! 急げぇ!」


 ガイルが叫ぶと、待機していた弟子たちが巨大な岩を抱えて走ってくる。

 100キロはある岩を、米俵のように軽々と担いでいる。

 日々のスクワットの成果が出ているようだ。


「セット完了!」


「いくぞ! せぇのっ……ジャンプ!!」


 二人の男が、3メートルほどの高さにある足場から同時に飛び降りた。

 ドスンッ!

 シーソーの板がしなり、反対側にあった岩が空高く打ち上げられる。


 ヒュンッ!


 岩は放物線を描き、正確に魔獣の密集地帯へと吸い込まれていった。


 グシャアッ!!


 再び、魔獣たちが吹き飛ぶ。

 魔法障壁を展開していたオーク・ジェネラルらしき個体もいたが、数トンの岩が音速に近い速度で直撃すれば、障壁ごとペシャンコだ。


「ははは! 見たか! 俺の大腿四頭筋が生み出した破壊力を!」


「ストライクだぜ! 気持ちいいぃぃぃ!」


 弟子たちがハイタッチをして喜んでいる。

 彼らは完全に、戦いの恐怖を忘れていた。

 自分たちが放つ岩が、圧倒的な火力で敵を蹂躙していく。その全能感に酔いしれているようだ。


「グルァァァッ!!」


 投石の雨をくぐり抜けた魔獣たちが、堀の手前まで迫ってきた。

 その数、数百。

 さすがにすべてを撃ち落とすことはできない。


「抜けてきましたわね。ポチ、ボスが誰なのか分からせてあげなさい!」


「グルゥ!(はいご主人!)」


 私が指示を出すと、ポチが堀の前に立ちはだかった。

 5メートルの巨体が、黒い城壁のようにそびえ立つ。


 先頭のウルフたちが、ポチに飛びかかった。

 だが、ポチは避けない。

 ただ、腕を振るっただけだ。


 バォンッ!!


 裏拳。

 たったそれだけで、ウルフの群れが紙屑のように弾き飛ばされた。

 さすがはAランク魔獣。格が違う。


「さて、私も少し体を動かしましょうか」


 私は腕を回し、前線へと歩み出た。

 私の体からは、相変わらずオーラ(金色の光)が漏れ出している。

 おかげで夜間照明いらずだ。


「キシャァァァッ!!」


 空から、怪鳥が襲いかかってきた。

 翼長4メートルはある『ロック・バード』だ。鋭い爪が私の頭を狙う。


「あら、美味しそうな焼き鳥」


 私は飛んできた怪鳥の足を、パシッと掴んだ。


「キエッ!?」


 怪鳥が驚いて羽ばたくが、私はビクともしない。

 むしろ、私が地面に根を張った大木のように動かないせいで、怪鳥の方が空中でバランスを崩した。


「鮮度が大事ですからね。一瞬で締めますわよ」


 私は掴んだ足を軸にして、怪鳥を地面に叩きつけた。


 ズドォォン!!


 一撃。

 怪鳥は白目を剥いて気絶した。

 私はそれを無造作に放り投げ、後ろに控えていたトムに渡した。


「トム、羽をむしっておいて。今夜は唐揚げと焼き鳥よ」


「ええぇ……!? 戦闘中に調理の下準備ですか!?」


 トムが悲鳴を上げているが、食材を無駄にするわけにはいかない。


 次に来たのは、巨大なイノシシだ。

 またロック・ボアか。ここの名産品なのだろうか。


「ブモォォォォッ!!」


 猛スピードの突進。

 私は足を止めて待ち構えた。


(正面から受け止めるのは、腰に悪そうだなぁ)


 私は直前で半身になり、イノシシの牙を片手で掴んだ。

 そのまま突進の勢いを利用して、背負い投げの要領で空へ投げる。


「はい、いってらっしゃい」


 イノシシは美しい放物線を描き、後方の岩山に激突して動かなくなった。


「あちらは牡丹鍋ぼたんなべね。血抜きを急がないと」


 次々と襲い来る魔獣たち。

 だが、私にはそれらが「肉の行進」にしか見えなかった。


 殴る、投げる、蹴る。

 私の動きに合わせて、黄金の光が軌跡を描く。

 拳が当たるたびに衝撃波が生まれ、周囲の魔獣まで巻き込んで吹き飛ばしていく。


 楽しい。

 日頃のトレーニングの成果を、存分に発揮できる実戦の場。

 そして何より、この先に待っている「食べ放題」というご褒美。


「ふふふ……あははははッ! さあ、次はどなた? どこの部位が美味しいのかしら!」


 私は笑いながら、戦場を舞った。

 返り血一つ浴びることなく、ただ圧倒的な暴力で蹂躙していく。


 その姿は、魔獣たちにとって、どちらが「捕食者」なのかを完全に分からせるものだった。


 ◇


 戦場を見下ろす上空にて。

 ルイス・ヴァン・ジークフリートは、展開していた攻撃魔法を解除した。


「……出番がないな」


 彼は呆然と呟いた。


 眼下の光景は、もはや「防衛戦」ではなかった。

 一方的な「収穫祭」だ。


 数千の魔獣が押し寄せているにもかかわらず、防衛ラインである堀を一匹たりとも越えられていない。

 投石の雨あられによって前衛が削られ、抜けてきた個体は巨大な熊に叩き潰され、空からの敵は光り輝く女によって「食材」に変えられている。


「物理だけでスタンピードを押し返すとは……。戦術論が根底から覆るぞ」


 ルイスは眼鏡の位置を直した。

 彼の役目は、万が一防衛線が突破された際の広域殲滅魔法と、アレクサンドラの魔力暴走を抑えることだった。


 だが、彼女の魔力(金色の光)は、暴走するどころか、彼女の意思に呼応して完全に制御されている。

 溢れ出る魔力を無意識に「運動エネルギー」と「衝撃波」に変換し、拳に乗せて撃ち出しているのだ。


「『魔力放出(マナ・バースト)』を、呼吸するように行っているのか。本人はただ殴っているつもりなのが恐ろしい」


 ルイスは戦慄した。

 あれは魔法ではない。魔法という技術体系を超越した、純粋なエネルギーの暴力だ。


「だが……おかしいな」


 ルイスはふと、森の奥に視線を向けた。

 魔獣の数は減っている。このままいけば勝利は確実だ。

 しかし、彼の「魔力視」が、森の最深部に潜む、異質な反応を捉えていた。


 巨大な魔力の塊。

 これまでの魔獣とは桁が違う。

 生物というよりは、無機質な鉱物に近い反応。


「……まさか、ダンジョンの主クラスが混じっているのか?」


 その予感は的中した。


 ズズズズズズ……!!


 突如、戦場全体が大きく揺れた。

 投石の着弾による振動ではない。

 もっと深く、重い地響き。


 森の木々が、何かに押し倒されるように左右に割れていく。


「な、なんだあれは!?」


 ガイルの叫び声が聞こえた。


 現れたのは、銀色に輝く巨人だった。

 身長10メートル。

 全身が流体金属のような光沢を放つ物質で構成された、人型の怪物。


「ミスリル・ゴーレム……!?」


 ルイスが息を呑んだ。

 物理攻撃を無効化し、魔法すら弾く、鉄壁の守護者。

 本来なら古代遺跡の最深部にしかいないはずのSランク魔獣が、なぜこんな地上に。


 ゴーレムがゆっくりと腕を振り上げた。

 その拳は、アレクサンドラの屋敷ほどもある巨大な岩塊だった。


「まずい……!」


 ルイスは杖を構え、急降下した。

 あれは、今の彼ら(物理特化集団)にとって最悪の相性だ。

 ただの投石や拳では、傷一つ付けられない。


 アレクサンドラの「無敵神話」が、初めて崩れるかもしれない。

 その時、彼女はどう動く?


 ルイスの瞳に、焦りと、わずかな期待が交差した。


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