ハイイロノサソイ ~second contact~ [1.2.3]
皆さんこんにちは。
更新をしそこねた大ばか者です。
来週こそはちゃんと上げるぞっ!!
「ここだな」
渡されたメモに書いてある地図と今現在周りに存在する建造物とを見比べて、緋嵩が呟いた。
住宅街とは言えず、かと言って高層ビルが立ち並ぶほど産業が発達しているわけでもない場所。 少し寂れた都会、とでも言えばしっくりくるような景色の中に、それはあった。
色あせた木の外壁、今の時代稀少とされる瓦敷きの屋根、門は無く、開け放たれた入り口には大小様々な壷や置物、本といった如何にも古臭い品々が並んでいる。
『那凪骨董店』
時代を感じさせる造りの看板に書いてある文字を見て、緋嵩は小さくため息を吐いた。
「胡散臭いとは思っていたが、まさか場所までとは」
決して大きいとは言えないその店を見て、緋嵩の脳裏に浮かんだ光景は二つ。 一つは、古い骨董屋の地下に最先端の技術がひしめいて玩具めいた近未来兵器に囲まれる那凪。 もう一つは、呪術的な文様の浮かぶ部屋一杯に敷き詰められる古文書と、そこで魔方陣を描き怪しげな呪文を唱える那凪。
どちらにしろ、ろくでもない想像にげんなりしていると、突然彼に後ろから声が掛けられた。
「胡散臭くて悪かったわね」
怒っている訳ではないが、それなりに棘のある言い方をする声の主は、当然。
「あんたか、どうも後ろから話し掛けるのが好きみたいだな」
振り返った緋嵩の目に、つい先ほどまで脳内で胡散臭さを最大限に放出していた女の姿が映る。
想像に出てきた時の怪しげな笑みとは違い、現実の方は半眼で緋嵩を責めるような表情をしていた。
「あのね、人を変人みたいに言わないでくれる」
「そんなことより。 約束通り来たが、このまま中に入れば良いのか?」
昼の時と同じようなその辺りに居る若者と同じ格好をした妙齢の女が化け物と夜な夜な相対していると言った時点で少なくとも普通とは言えないだろうと思った緋嵩だったが、そこを言うと余計に棘が鋭くなりそうだったので、敢えてこの話題は流すことにしたようだ。
メモを片手に早速本題へと移った緋嵩への返答はしかし、彼の予想とは少しばかり違っていた。
「ああ、中に入る必要は無いわ。 あそこじゃ何にもできないし」
「は? それじゃあなんで呼んだんだ?」
ばっさりと今自分の居る場所が目的地であることを否定された緋嵩は、怪訝そうに聞き返すが、
「まあまあ、詳しい話は向こうで話すから、付いて来て」
一方の那凪はそれだけ言い残してスタスタと別方向に歩いていってしまう。
訳が分からないという様子で緋嵩はしばらく那凪の後姿を眺めていたが、このままここに居ても仕方ないと強引に割り切り、とりあえず彼は彼女の後を追い始めた。
「……」
「……」
互いに無言で歩を進めていく二人。
何度か那凪に目的地やウィルスについて話しかける緋嵩だったが、その都度「来れば分かる」、「専門家は別に居るから」と言った拒絶の言葉を返されるばかりだったため、いつの間にか言葉から情報を得ることを止めた。
どうやら、今は黙って付いていくという選択肢しか彼には用意されていないようだ。
緋嵩が質問を止めてから、一体どれだけ歩いただろうか。 周りの景色はもはや、彼の見知ったものを欠片ほども残していない。
見たことも無い風景を目に映しながら、これからどうなるかは想像もつかないが、とりあえず今ここで那凪が居なくなれば迷子になる事だけは確実だろうと、緋嵩はそんなことを考えていた。 同時に、もし追われるような状況に追い込まれた場合には致命的だ、とも。
なぜそんなことを考えていたかというと、彼は歩き始めて少し経ってから、あることが気に掛かっていたからだ。
デジャヴ、とでも言うのだろうか。 前にもこんな雰囲気を味わったような感覚に囚われていたのである。 何かは分からないが、ただ何となく良くないもののような、そんな感覚を。
一体何なのか。 彼の思考は、それが全く無くなってから、ようやく原因に気付いた。
音。
どうしてもっと早く気がつかなかったのか。
歩き始めた頃に比べ、今の状況には音が無いのだ。 人のざわめき、車の駆動音、虫の声すらも。 自分達以外に生き物の気配が感じられない。
緋嵩はそれを知っていた。 つい最近、命を落としそうになったその状態を。 初めてあれと対峙したときの、その世界を。
「おい、気づいてるか?」
さすがにこれ以上黙っている訳にも行かず、緋嵩は黙々と前を歩いている那凪に声をかける。
彼から滲む剣呑さに彼女も気付いたのか、今までのように切り捨てずに、初めて足を止めて振り返った。
「ええ、わた――」
爆発。
「っ!?」
突然の轟音と、襲い掛かる衝撃波に緋嵩の全身が反射的に身を屈め頭を守る姿勢をとる。
何が起こったのか、緋嵩にはまるで理解ができなかった。 目の前でいきなり起こった爆発が、一時的に彼の目と耳、そして思考を滅茶苦茶に食い荒らしていた。
うずくまって必死に感覚と平静を取り戻していた彼が、はっとして顔を跳ね起こす。
「おい! おい無事か!?」
取り戻した視界に、緋嵩は自分の状態の全てを二の次にして駆け出した。